かいこう
馬車を降りてウォーデン学園の城門前に立つ。
「レヴィさまっ!」
すると、久しく聞いてなかった声が聞こえてくる。
「お久しぶりですーっ!!」
「おっと」
俺めがけて一目散に駆け寄ってくる少女を抱き留める。
銀色のボブ、青色の目。
特徴的な猫耳を付けた小柄な少女。
俺の護衛騎士であり、同時に俺の婚約者でもあるメリーネ・コースキー・リンスロットだ。
「えへへ、ずっと会いたかったです」
「俺も同じ気持ちだ」
俺が前世の記憶を取り戻してからずっと一緒にいたのもあって、少し離れていただけで実際の時間以上に久しぶりに会った気分だ。
離れていた時間を埋め合わせるように、俺たちは抱きしめあっていた。
「レ、レヴィさん。目立っちゃってますよ……」
「……メリーネ、ここまでにしておこう」
「そ、そうですね」
ネロに言われて、体を離す。
メリーネは顔を赤くしているが、多分俺も似たようなものだろう。
感極まってしまったのか、ここがどこで今日が何の日なのか頭からすっぽ抜けてしまっていたようだ。
周りを見ると、様々な視線が俺たちに集まっていた。
恥ずかしい。
「こほん。ネロさんにスラミィ、エルヴィンさんも久しぶりです!」
「メ、メリーネさん、久しぶりです」
「お姉ちゃん! 久しぶり!」
3人が挨拶を交わし合い、エルヴィンは一歩引いた位置から頭を下げて答えた。
ウォーデン学園では使用人や護衛の帯同を許可されていて、平民はともかくここに通う貴族はみんな従者を連れている。
俺の場合は使用人としてネロとスラミィ、エルヴィンの3人を連れてきた。
ネロはいつものローブ姿ではなくメイド服を着ているのだが、こいつ意外とスタイルがすごくて目のやり場に困る。
元男だろうが。ふざけるなと言いたい。
スラミィの方もいつも通りのメイド服。
こっちはネロのようないかがわしさはないが、元気印のメイド見習いって感じで眩しい。
ついでに短いスカートから覗く太ももも太くて眩しい。
しかし、エルヴィンを連れてきていてよかった。
目のやり場に困るネロとどっからどう見ても小さな子どもであるスラミィ。
この2人だけだと、俺が変態みたいに思われてしまうかもしれないから危なかった。
ネロとスラミィは俺にとって大切な仲間だから、連れてくる以外の選択肢はなかったのだ。
ちなみにジーナはメリーネの使用人として来ている。
リンスロット家の者をつける案もあったようだが、もともと貴族として教育を受けてないメリーネには友人のジーナの方がやりやすいだろう。
「ところで、レヴィさま。どうですか?」
「ん? どうって、なにがだ」
突然のメリーネの言葉に、俺は首をかしげる。
すると、メリーネはじとっとした目を俺に向けて深いため息を吐いた。
「レヴィさま、服ですよ。ほら、制服です。女の子がおしゃれしてたら褒めてあげなきゃなんですよっ」
そう言って、メリーネはその場でくるりと回った。
ウォーデン学園には決まった制服がある。
色やデザインなどを大きく逸脱しない限り、個人で改造が可能だ。
メリーネの場合、本来ならスカートのところをショートパンツにしているようだった。
動きやすさを重視してだろうか。
他にもフリルが付いていたり、猫の刺繍がされていたりと細部にこだわりを感じる。
「かわいい」
「え、えへへ。ありがとーございますっ」
率直に思った感想を言うと、メリーネは顔を赤くしてはにかんだ。
「ただ、防御力が低そうなのが気になるな。普段着ていた騎士服がしっかりしたものだったから、それだけは気になるところだ。王都まで少し距離があるが、今度の休暇のときにミストの店に行こうか。魔道具化してもらって、耐久性を上げる効果を付与してもらおう」
感想を続けると、嬉しそうにしていたメリーネの顔がすんっと真顔になった。
「レ、レヴィさん。そういうのは、言わなくていいと思います」
「うわぁ、スラミィでもわかるよ。これって余計な一言だよね?」
「まぁ、レヴィ様だしなあ。でも、服を褒めて欲しいときに長々と防御力の話されたら萎えるよ」
「お、お前ら?」
ネロ、スラミィ、ジーナから立て続けに苦言を呈されて、俺は自分が間違ったのだと悟った。
「メリーネ。すまん、余計なことを言ったっぽいな」
俺はすぐに間違いを認めて謝った。
たしかに、振り返ってみると別に今言う必要のあることではなかった。
例えば、ゲームで好きなキャラについて友人と語り合っていたところ、『でも、そのキャラって性能的には弱いよね』みたいに言われたらイラっとするかもしれん。
違うんだ。
性能とかどうでもよくて、好きなキャラは好きなんだ。
強いキャラとか弱いキャラとか、それはまた別の話なんだ。
同じような話だ。
メリーネは服のデザインやコーディネートを褒めて欲しかっただけで、別に性能についての感想は求めていなかったのだ。
俺は反省して頭を下げた。
しかし、メリーネは堪えきれないといった様子で笑みを漏らした。
「まったく、レヴィさまらしいですね。ふふ、でも許してあげちゃいます。わたしはそんかレヴィさまが好きになったんですからね」
「そうか、ありがとうな」
2人で笑い合う。
そうして久方ぶりの再会に話を弾ませていると、ふと誰かが俺たちの近くに立っていた。
「――うむうむ。青春ですな」
「!?」
そこにいたのは、まったく知らない人物だった。
おそらく30代くらいの年齢。
髪は短く刈り上げられ、背は高く、にっこりとした微笑みを浮かべた糸目の男。
特徴的なのがその上半身。というか、なぜか服を着ていないのだが。
大きく盛り上がった大胸筋、巌のような僧帽筋と丸く膨らんだ三角筋、俺の3倍はありそうな上腕二頭筋、たくましく主張する前腕筋、6つに割れた腹筋、バキバキの腹斜筋、脇の下から見えるほど巨大化した広背筋。
それはまさしく――筋肉であった。
それも、いつぞや見たバルクキャットやルインコングすら軽く凌駕するムキムキの筋肉。
肉の塊。すなわち、肉塊。
「な、何だお前……」
恐るべき筋肉の圧を前に俺はあぜんとして尋ねる。
すると、筋肉の男はにっこりと笑って言った。
「――拙者は、マックス・プロテーンですぞ。おっと、こう言った方がわかりますかな? 僭越ながら、七竜伯の末席を汚させていただいております――『変態』と申す者。お見知り置きを」
それは、筋肉モリモリマッチョマンの『変態』だった。
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