『剣聖』継承戦
騎士団の演習場。
その中心で、メリーネと剣聖ロータスが向かい合う。
いつぞや見たような光景。
しかし、あの時とは空気がまったく違う。
構えを取るメリーネの手には黄金の剣と白銀の剣。
ロータスの手には剣が1つ、ゆったりと構えながら油断なく眼前のメリーネを見据える。
「師匠。わたしは今日、あなたを超えてみせます」
メリーネが真剣な顔つきで宣言する。
「クク、良い意気じゃ。それでこそ鍛えた甲斐があったというもの。だが、
いつもの好々爺のような表情な鳴りをひそめ、好戦的な笑みを浮かべて答えるロータス。
2人が持つのは真剣だ。
ロータスの弟子として剣を学び、そして神器を手に入れたメリーネはついに彼へと本気の勝負を挑んだ。
これに勝てばロータスはメリーネを二代目剣聖として認めるだろう。同時に、2人が交わした約束により彼女はロータスの養子となる。
そうなれば俺とメリーネの身分差が解消され、晴れて婚約することができるのだ。
俺は対峙する2人を、固唾を呑んで見守る。
「メ、メリーネさんは勝てるでしょうか?」
隣に並ぶネロが不安げに尋ねてきた。
「勝てる、とは思いたいが正直なところわからない。なにせ、相手はあの剣聖だ。だが、全盛期はとうの昔に過ぎている。能力的にはメリーネが劣ってるわけではないはず」
「そ、そうなんですね。……うぅ、なんだか緊張してきました」
ネロがカタカタと震えだす。
なんでお前が緊張するんだと思うが、俺もメリーネに勝ってもらいたい気持ちからか少し落ち着かない。
「お姉ちゃんなら勝てるに決まってるよ! お姉ちゃん、がんばって〜!」
スラミィが元気よく応援する。
あまり大きな声は集中力が乱されてしまわないか心配になるが、メリーネならむしろ応援されればされるほど頑張れるタイプか。
「む、始まるね!」
スラミィが言った。
すると、彼女の言う通りすぐに戦いが始まる。
「行きますっ!」
まず、先手を取るのはメリーネだ。
剣聖ロータスをして最高峰と言わしめた身体能力。
それをさらに闘気によって強化し、目にも止まらぬスピードでロータスに迫る。
振るうのは、パワーとスピードを兼ね備えた剣の嵐。
2本の剣による超高速の攻撃。
しかし、ロータスはそれを防ぎ続ける。
「危ない、危ない」
「そんなこと言って、余裕そうですけどねっ!」
メリーネの攻撃を、ロータスはすべて紙一重で対処していく。
身体能力に関してはメリーネの方が完全に上。
歳による衰えもあるロータスには、メリーネを上回るほどの力も速度も体力もない。
だが、ロータスには長い人生の中で積み上げてきた剣の腕と経験があった。
それに加えて――
「――本当に厄介ですね、師匠の神器っ!」
ロータスの右目が赤く染まる。
「クク、『悪魔の義眼』。ワシが女神様より賜った未来を観測する神の力よ」
ロータスの持つ神器、『悪魔の義眼』。
認識するすべての事象を完全に把握、解析することで数秒先の未来を予測するという能力を持つ神器だ。
その正確性は、絶対的とも言えるもの。
ゲームでもロータスの神器による未来予測は破られたことがない。
積み重ねた剣技とこの神器が合わさることでロータスは、近接戦闘において無敵の強さを誇る。
あらゆる攻撃を受け流し、あるいは回避し。
そして未来を予測することにより常に的確な攻撃を繰り出し続ける。
ゲーム的に言うのであれば。
クリティカル率、回避率ともに100パーセントの
それが、エレイン王国最強の一角。
剣聖ロータスの力――
「おっと、後ろも見えておるぞ」
「くっ!」
最強の目を持っているというのであれば、とメリーネが死角である背中へと回り込んで攻撃する。
しかし『悪魔の義眼』の視野は人間の常識の埒外にある。
背後からの奇襲を最低限の動きで難なく躱したロータスは、それだけに留まらず剣を振るった。
「そら、ここかの」
「!?」
その剣は吸い込まれるようにメリーネの首を狙う。
回避も防御もできないタイミング。未来を観測する剣士による、絶死のカウンターだ。
「――闘気よ!」
それに対して、メリーネは闘気の鎧を集中的に首に集めることでロータスの剣を防ぐ。
なんとメリーネは闘気解放によって体外に放出された闘気の鎧を自在に操って盾にしたのだ。
体の内側と外側では、当然ながら闘気の操作難度は圧倒的に違う。
相当高度な技術。いつの間に習得していたのか。
「もう! 殺す気ですかっ!」
「防ぐとわかっておったからの。ほれ」
「うぐっ!」
しかし、ロータスはそうやってメリーネが防ぐことすら読んでいた。
闘気の鎧を首に集めたことによって、必然的に防御力が薄くなる他の箇所。
それを的確に狙いロータスはメリーネを蹴り飛ばした。
「残念だが、この程度では今までと変わらんな。剣聖を継がせるにはまだまだ足りんようじゃ」
ロータスがやれやれと首を振る。
それに対して、起き上がったメリーネは自信に満ちた顔で言った。
「師匠が強いのは、わかりきっていたことです。ですが、今の攻防で確信しました。今のわたしなら勝てると!」
「ほう? 言うではないか」
「師匠に『悪魔の義眼』があるように、わたしにはこれがあるのですっ!」
メリーネが、右手に持った黄金の剣を構える。
「クク、やっと使うのか。神器を」
「そう、神器を――って、わたし師匠に持ってるって言ったことありましたっけ?」
「聞いてない。だがな、その剣が普通じゃないことくらい見ればわかるじゃろ」
「そ、そんな!? 師匠にはこの時のためにずっと隠してたのに!」
ガーンっとショックを受けたような顔をするメリーネ。
いたたまれない沈黙が辺りを包んだ。
「あいつ、隠したいなら何で最初から神器振り回してたんだ……」
「メ、メリーネさんらしいです」
「あの剣かっこいいよね! スラミィはお姉ちゃんの気持ちわかるよっ!」
真剣勝負なのに、どこか締まらないのはメリーネらしいと言えばらしいが。
「……あー、能力はわからぬしそのように気落ちすることもないじゃろ」
「そ、そうですよね。じゃあ、行きますよ師匠! こっからが本番ですっ! ――『
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