完全攻略

 俺とネロが神器を獲得したとなれば、次は当然メリーネだ。


「じゃーん! わたしの神器はこれですっ!」


 そう言って、メリーネが女神からもらってきた神器を自慢げに掲げた。

 それは一振りの剣だった。

 黄金色の剣身にはルーン文字のような見慣れない紋様が彫られていて、神秘的な美しさを放っている。


「その名も、『雷王の剛剣』!」


「普通だな」


「ふ、普通ですね」


「な、ななななんですか! レヴィさまたちのがおかしいんですよっ!」


 俺とネロの言い草に、メリーネはぷんすかと腕を振り上げて抗議した。


「ぼ、僕が体そのもので、レヴィさんが義手ですからね。うへへ」


「もー! なんでちゃんとした武器の神器がわたしだけなんですか! 体とか腕とか変ですよ!」


 メリーネの言葉に「それは、そう」と俺は頷いた。


 だが、悲しいことに七竜伯たちの神器に関しても普通の武器型のものはあまりなかったりする。


 思えば、武器型の神器は『賢者』の杖くらいだ。

 それだって杖が武器かと言われると微妙だし。あとは『聖騎士』の神器が鎧なので、近いところか。


 それ以外の神器については、驚くべきことにすべて武器や防具ではない。

 もっとも、『変態』の神器についてはわからないが。


 なので、実はメリーネの『雷王の剛剣』のような武器型の神器は逆にレアである。


「まぁ、単純でいいと思うぞ。メリーネらしい」


「それって、わたしが複雑なことできない単純なやつってことですか?」


 少しむっとして拗ねたように言うメリーネ。

 俺はそんな彼女に、率直に思ったことを答えた。


「素直でかわいいってことだよ」


「な、なんですかそれ。か、かわいいって言っておけば誤魔化せると思ってるのですか? まったく、レヴィさまには困っちゃいました。まったく、まったく……えへへ」


「や、やっぱり単純だ……」


 ちなみに、メリーネが女神より与えられた名前は『猫耳の使徒』らしい。

 俺の『銀腕の使徒』、ネロの『骸の使徒』と来て、メリーネの『猫耳の使徒』である。


 女神よ、3人連続で会いに来たからって途中で考えるのめんどくさくなってないか?

 猫好きな本人は喜んでいるらしいのでいいけど。


「スラミィは――」


 メリーネとネロが神器を手に入れたので、あとはリルフィオーネを吸収したスラミィがどうなったかだが。


 見ると、すでに吸収は終えた様子だ。

 しかしどうやらすぐにリルフィオーネに変身することはできないみたいだった。

 俺が変身してみろと言っても、体をふるふると震わせるだけ。


「変身できないみたいですね?」


「もともと、フィロソフィーズスライムの変身能力は吸収した魔物を対象にしたものだ。魔族は魔物とは根本的に違う生物だし、変身できないのも仕方ないな」


「そ、そうなんですね。ちょっと、ホッとしました。ス、スラミィが変身したものだとしても、できればリルフィオーネはもう見たくないので」


「あはは、ちょっとわかります」


 まぁ、気持ちはわかる。

 本当にひどい目にあったからな。


 それから俺たちは最下層にいくつか置いてあった宝箱を回収した。

 さすがに最下層だけあって有用な魔道具もあった。


 1つは『魔法鞄』

 見た目以上に物が入る魔道具の鞄だ。容量はなんと100トン。

 国宝級の魔道具ではあるが、残念ながら俺には影収納があるので必要ない代物だった。


 なので、これはネロに渡した。

 メリーネは基本的に俺と一緒にいるので必要ない。

 だが、ネロはアンデッド作成のためなど単独行動をすることが多いので持たせるならネロだ。


 ちなみに売ると言う選択肢はない。

 普通にもったいない。


 加えて、なんとエリクサーが3本も出た。

 これはスラミィがいる以上必要なかったが、いざというとき何かの役に立つかもしれないので一応持っておく。


 他には細々としたものがたくさん。

 売れば一財産を築けるだろうくらいには金銀財宝の山だ。これはなんかあったときのための貯金にしようか。

 金はどれだけあってもいいからな。


 おそらく、魔法鞄が目玉だったのだろう。

 エリクサー3本も、価値で言えば城が3つ建つほどの価値。

 魔法鞄の価値と合わせれば、城どころかそれなりの領地を買えるかもしれない。


 神器とは別にこれほどのアイテムが手に入るのだから、ダンジョンの完全攻略には相応のメリットがあるというもの。


「で、でも。リルフィオーネと余計に戦わされたのを考えると、ちょっと割に合わないというか……」


「まあ、うん」


 とりあえず、これで1つの目標――ダンジョンの完全攻略が達成された。

 リルフィオーネというイレギュラーにはかなりの苦戦を強いられた。

 それでもなんとか、誰1人欠けることなく俺たちは神器を手にすることができたのだ。


 学園への入学――『エレイン王国物語』のシナリオが始まるのは、約3ヶ月後。

 かなり余裕を持って間に合ったのはよかった。


 あと3ヶ月。

 手に入れた神器を使いこなせるよう、さらなる鍛錬に打ちこんで万全の準備を整えておかないとな。


 ひとまずの節目を超えた俺は、そう決意を新たにする。


「用は済んだし、帰るぞ」


「は〜い。なんというか、すっごく長い時間ダンジョンにいた気がしますね?」


「つ、疲れました。うへへ……」


「ま、しばらくはゆっくりするか。ここまで頑張ってきたし、少しは気を抜いてもいいだろ」


「賛成!」


 息を揃えて答える2人に苦笑する。

 こうして、無事に完全攻略を成し遂げた俺たちはダンジョンを後にした。


 死線を超えた俺たちは、その日の夜みんな揃って泥のように眠りについた。

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