最後のボス

 第6階層は魔物が待ち構える部屋が連続して配置されている階層だ。


 そしてそのすべての部屋で現れる魔物がS級。

 ゲーム風に言うのであれば、さながらボスラッシュといったところだろう。


 俺たちはそんな第6階層の攻略を順調に進めていた。

 S級の魔物を余裕を持って討伐できる魔法使いの俺と、剣士のメリーネ。

 そしてS級の魔物を何体も従える死霊術師のネロ。さらにはエリクサーを無限供給してくれるスラミィまでいる。

 これで攻略できないわけがない。


 そしてついに、俺たちは第6階層のボス部屋へと続く階段の前までたどり着いた。


「ふー、ついにここまで来ましたね!」


「で、ですね。この先のボスを倒せば、完全攻略。な、なんと言うか実感が湧きません。僕なんかがいいんでしょうか」


「そうは言うが、ネロは俺たちの中でも1番強いんじゃないか?」


「なんたってネロさんは1000体のS級魔物を率いる大将軍ですからね!」


 メリーネの思いついたことを実践して、ネロはラビットグローを元にしたアンデッド――デスグローラビットを見事に支配下に置いた。

 その数は10体。

 たった10体と言えど、ラビットグローの分身能力を保有したままのデスグローラビットだ。

 その強さは言うまでもない。


「や、やめてください。デスグローラビットが1000体いたところで、レヴィさんなら余裕で倒せますよね?」


「ん、まぁ、いけるかな」


 流炎装衣で身を守りつつ範囲魔法を連発するか。

 あるいはムスペルヘイムでも放ってやれば1000体くらいなら多分倒せるだろうな。


「さすがレヴィさまですっ!」


「や、やっぱりレヴィさんが1番でたらめですよ」


「単に強さの方向性が違うだけだ」


 魔法が得意な俺と、近接戦闘が得意なメリーネ、多くの戦力を1人で用意できるネロ。

 それぞれ強みが違う。

 だからこそ、俺たち3人が組んだこのパーティは強い。


 きっと、俺たちならこの先に待つボス。

 ――SS級の敵にすら勝つことができるはずだ。


「2人とも、そろそろ行くぞ。準備はいいか?」


「はいっ! いつでも行けますっ!」


「ぼ、僕も。が、頑張ります!」


 2人から良い返事が返ってきたことを確認して、俺はゆっくりと目の前に佇む大きな扉を開く。


 そこは、今までのボス部屋とは違う部屋だった。

 第6階層の洞窟という特徴を引き継いだような、鍾乳洞のような空間だ。

 天井からは鍾乳石が垂れ下がり、壁や床などには紫色の幻想的な光を放つ水晶が埋まっている。


 部屋の大きさはとにかく広い。

 おそらく、小さな町くらいだったらすっぽり入るほどの大きさだ。


 そしてそんな部屋の中心。

 この場でもっとも目立つものが、そこに鎮座していた。


 今までになく巨大な姿。

 白と金色の2色の毛皮。鋭い牙に、剥き出しの爪。

 その体には銀色の大きな鎖が拘束具のように巻き付けられている。


「……あれが、このダンジョンの最後の魔物ですか」


 そのあまりの威容に、メリーネが呟く。


「こ、こんな魔物、倒せるんでしょうか」


 ネロは、カタカタと震えながらいつも通りの後ろ向きな弱音を吐いた。


 目の前にいるのは、間違いなく今まででもっとも強い敵。

 ゲームでも神器を得るために立ち塞がった、最後の試練とも言える相手だった。


 だが、こいつを倒さないことには神器は手に入らない。

 おそらく厳しい戦いになるだろう。

 だけど、負けるわけにはいかない。


 俺はこいつを倒して、神器を手に入れてさらに強くなる。

 そして、この世界を何事もなく生き抜いてみせるのだ。


 俺の運命、死亡ルートを覆す。


「――神狼フェンリル」


 その名を呟く。

 今まで目を瞑っていたフェンリルが、俺の言葉に応えるように目を開ける。


 フェンリルの金色の目が、俺を射抜く。

 同時に俺も悪役顔を歪め、目の前の敵を睨みつけてやる。


「やるぞ、2人とも」


 フェンリルの姿を見て身をすくませるメリーネとネロに声をかける。

 すると、2人ともハッとしたように気を取り戻し構えをとった。


「――目指すはダンジョン、完全攻略だ」


 数ヶ月に及んだアルマダのダンジョン攻略。

 その最後の戦いが、始まった。

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