死霊魔法

 ネロの死霊魔法は、仕留めた敵をアンデッド化させて使役することができる魔法だ。

 アンデッドになった魔物は生前の能力に応じた強さになるため、A級やS級の魔物をアンデッドにできれば一気に強力な戦力になる。


 とても優秀で希少な魔法属性だが、本人の戦闘能力にはほとんど寄与しないのが死霊魔法の明確な弱点。

 そのため、手持ちのアンデッドがいないネロは早急に配下を手に入れる必要があった。


「ぼ、僕なんかのために、レヴィさん、ありがとうございます!」


「仲間の戦力が上がるのは俺にとってもメリットしかない。メリーネのことは剣聖に任せるしかないが、魔物を倒すだけでいいなら俺の得意分野だ」


「レ、レヴィさんって実は、かなり優しいですよね。強引なところはあるけど、うへへ」


「そうか? 普通だろ」


 俺はダンジョンの第5階層に来ていた。

 目的はネロの手伝いだ。

 ネロがアンデッドを手に入れるには魔物を倒す必要があるが、支配下のアンデッドがいないネロ1人では強い魔物は倒せない。


 そこで、俺が呼ばれたというわけだ。

 この第5階層にはA級の魔物が出現する。

 ここで多くのA級アンデッドを手に入れることができれば、ネロの戦力は大きなものとなるだろう。


 今日の目的は攻略ではないので、メリーネは城で待機だ。

 今頃ロータスに修行をつけられているところだろう。


「それにしても、第5階層は第4階層とは全然違うな」


「で、ですね。あんな階層はもう散々なので、よかったです」


「正直、ここも大概だとは思うがな」


 アルマダのダンジョン第5階層は砂漠だった。

 どこまでも続く砂の絨毯と、じりじりと照りつける晴天の空。

 第4階層の密林よりはマシだがこの階層もなかなか難易度が高そうだ。


 もっとも、俺は周囲の気温を快適に保ってくれる効果を持つ魔道具の指輪を着けているからかなり楽ができている。

 水や食料も、影収納の中にいくらでも入ってるから飢えることもない。


 ネロの方も、骨の体では暑さや寒さを感じないらしいので問題なさそうだ。


「む、来たな」


 砂漠を歩いていると、魔物に見つかったようでこっちに来てる様子が見えた。

 2本の大きな角を頭部に生やした、牡牛のような魔物――グレイトホーンブル。

 猛烈な勢いで砂漠を駆け、こちらへと走り寄ってくる。


「スラミィ、止めてくれ」


「オオオ!!」


 俺の指示でルインコングの姿へと変身したスラミィが、前に躍り出てグレイトホーンブルの突進を受け止める。


 かなりの勢いがあったようで、ルインコングのパワーを持ってしてもその場で受け止めることはできず後ろへと少し押し込まれている。

 直線的な攻撃力はA級の魔物でも相当なものがありそうだ。

 ネロの配下として期待できるな。


 グレイトホーンブルを受け止めたスラミィが、そのままその場に押さえ込んでくれる。

 その間に、俺は魔法を発動させた。


「『黒炎斬』」


 黒炎の刃がグレイトホーンブルの首を断ち切り、一撃で倒した。


「ネロ、いけるか?」


「は、はい! 『アンデッド作成』!」


 ネロが死霊魔法を発動すると、倒れたグレイトホーンブルの足元に大きな魔法陣が出現した。

 魔法陣の効果なのか、グレイトホーンブルの死体から肉や皮が溶け落ちていく。

 やがて骨だけが残ると、完成したアンデッドは起き上がった。


「――スカルホーン。A級のアンデッド、です」


「これが死霊魔法か」


「は、はい。死霊魔法は、人や魔物の死体に擬似的な魂を与えることで、アンデッドを作成する魔法です。あくまで、擬似的な魂ですので、自由意志はなく成長もしませんが」


 なるほど。

 死霊魔法はアンデッドを使役する魔法というより、どちらかというと作成することを目的とした魔法なんだな。

 アンデッドを使役できるのは、初めから隷属させている擬似的な魂を与える都合による副次的効果ということか。


 死霊魔法とは言うが、これは実際のところ死をどうこうするのではなく魂を扱う専門的な魔法だな。

 作るのも、本質はアンデッドというより死体を流用したゴーレムに近い。


「擬似的な魂以外を与えることはできるのか? たしか、ネロ自身が自分の魂を死霊魔法の対象としたんだよな」


「そ、それはあくまで、僕の魂だったから。ほ、本物の魂って情報量が大きすぎるんです。じ、自分の魂はともかく、他の生物の魂は扱いきれません」


「なるほど。ま、仮に他の人の魂で死霊魔法を使えたら大問題だし。できなくてよかったかもな」


 俺がそう言うと、ネロは頭をぶんぶんと縦に振る。


 もしそんなことができてしまったら、他者を不老不死にすることができるかもしれない。

 そうなれば、ネロのような死霊魔法使いの存在を世の権力者たちは放っておかないだろう。

 それはあまり良いこととは思えない。


「ネロ、今日はあと何体アンデッドを作成できる?」


「あ、あと7体くらいでしょうか。A級だと、や、やっぱり魔力の消費が大きいです」


「1日で8体も作れるなら十分だ」


 死霊魔法はアンデッドを使役すること自体には魔力を使わないが、作成する際に魔力を必要とする。

 ネロの魔力量だとA級の魔物をアンデッド化できるのは、1日8体まで。

 1週間で56体、30日で240体となる。


 A級魔物の戦力をこれほど簡単に量産できるのだから、死霊魔法の有用性はかなりのものだ。


「よし、さっさとアンデッドを集めるぞ」


「は、はい!」


 それからしばらくの間、ネロのアンデッド作成を手伝うのが俺の日課に加わった。

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