嫌すぎる

 ロータスは軽く一戦しただけでメリーネの力を見抜き、その才能を感じ取ってその場ですぐに弟子にした。


 現在は城内の客間を1つがロータスに与えられていて、しばらくはこの領都アルマダに滞在してメリーネに修行をつけてくれるようだ。


 俺はそんなロータスに聞きたいことがあったため、彼の部屋を訪れた。


「おじいちゃん! もっとお話聞かせて!」


「わたくしは隣国の話が聞きたいわ。お爺さまは若い頃は数々の国を巡っていたのでしょう?」


「ほほ、ではワシが見つけたとある秘境の話でもしようかの――」


 わいわい、わいわいと。

 ロータスの部屋には妹のベアトリスと従姉妹のルーテシアがいて、楽しそうにロータスの話をせがんでいるようだった。


 2人に囲まれたロータスはにこにこと楽しげで、剣聖などという称号を持つ老人にはまるで見えない。

 そこらへんにいる好々爺である。


「お前ら、ロータス様にあまり迷惑をかけるなよ」


「あら、お兄さま」


「あ、お兄ちゃん! 聞いて聞いて、おじいちゃんってすごいんだよ!」


「ワシは迷惑などと思っておらんぞ。孫も大人になってしまったからの、こうして子どもの相手をするのはなかなか楽しいものよ」


 ロータスが良いと言うなら俺が口を挟むことではないが。

 だがロータスとは2人だけで話したいことがあったので、悪いがベアトリスとルーテシアには一度出て行ってもらった。


「それで、聞きたいこととはなんじゃ。メリーネのことか?」


「いえ、そうではなく。ですが、メリーネの話も聞かせてもらいたい。俺はメリーネを強いとは思っていますが、やはり魔法使いなので専門外でして」


「そうじゃの、魔力を操る魔法使いと闘気を纏う戦士はまったく違うからの。ワシも魔法使いのことはわからんし」


 ロータスは、メリーネの能力について嬉々として話しだす。


「まず、なんと言っても身体能力じゃな。とくに速度には目を見張るものがあるが、力も体力も並外れておる。あれはレヴィが指導した結果なんじゃろ?」


「指導したと言えるほどのものではないですが、あの魔道具については俺が思いついたものです。もっとも、俺ができたのはそれだけで後はすべてメリーネの努力ですよ」


「謙遜せんで良い。たしかに努力したのはあの娘じゃが、あの魔道具がなければメリーネはここまで強くはなれておらんだろ」


 ロータスはそう言うが、本当に俺は大したことをしていない。

 重量付加の魔道具による過酷な鍛錬を続けているは、メリーネが頑張っているから。今の強さも、その努力の結果だ。

 魔道具についても、俺は前世の記憶を参考にしただけで作ったのはミスト。

 それなのに褒められても居心地が悪いな。


「だが、今のメリーネの中で見るべきところはそこだけじゃな。剣技はそこそこ、戦い方はまだまだ、闘気の使い方に関してはダメダメじゃ」


「それは、手厳しいですね」


 なかなか酷評され、なんとも微妙な気持ちだ。

 最強の剣士である剣聖の言うところなので正しいのだろうが、相棒であるメリーネを酷評されてあまり良い気はしない。


 まあ、仕方ないか。

 メリーネはひたすら身体能力を高めることで急激に強くなった。

 そのため、剣技や戦術などにおいての習熟が身体能力の向上に追いついていないのだろう。

 それくらいは想像がつく。


 魔法使いの俺はそのアンバランスな状態を正すことができないから、ロータスを呼んだ面もあるのだ。


「ですが、それでもロータス様はメリーネを弟子に取った。あいつの素質をどう見ますか?」


 俺がそう言うと、ロータスはにやりと笑った。


「――最高じゃな。身体能力はすでに人類の中でも最高峰、他のすべてはまだまだ。つまり、それだけ伸び代があるってことじゃろ?」


「伸び代ですか?」


「うむ。才能自体はせいぜい優秀止まり。もっと並外れた才覚を持つものはいくらでもいる。それこそ、ワシやお主のようにな」


 だが、とロータスは続ける。


「メリーネの最も良いところは、努力ができることじゃ。あの娘はどんなに厳しい鍛錬でも続けられる忍耐力と、意志の強さがある。レヴィのために強くなろうと、必死に努力する努力の天才。ほほ、愛の力じゃな」


 俺の隣に立ちたいから。

 俺の信頼に応えるため。

 俺を守るため。

 俺と結婚するために。


 メリーネはいつもそんな言葉を使って自分を鼓舞し、厳しい鍛錬や強い魔物に立ち向かっていた。

 ロータスの言う通り、まさしく愛の力なのだろう。

 本当に俺にはもったいないほど、素敵な女の子だよ。


「才能は努力を簡単に上回るが、それと同時に才能を覆すことができるのもまた努力だけ。さて、あの娘はどうじゃろうな」


「……楽しそうですね」


「そりゃあ、楽しいわ。あれだけの逸材を育てられることにワシは天に感謝しておるよ。もちろん、師になるきっかけを与えてくれたレヴィにもな」


 語り口は大げさだがロータスは心底楽しそうだった。

 ロータスからこれほどの評価を与えられたメリーネは、きっと本当に剣聖を超える剣士になるだろう。


 努力の天才と称された彼女の頑張る姿は、この俺が1番見て来た。

 だからこそ、言える。絶対に剣聖を超えると。

 俺はメリーネを信じている。


「メリーネについての所感はこんなところじゃの。参考になったか?」


「はい、やはりあなたを呼んでよかった。メリーネが二代目剣聖を襲名するまで、どうか頼みます」


「ほほ、任せよ。ワシの後継者として、最強の剣士に育てて上げてみせよう」


 ロータスの言葉に俺は安心する。

 ゲームでも彼は同じようなことを言って主人公のことを弟子にとり、見事に育て上げた。

 彼になら、メリーネのことを安心して任せられる。


「それで、レヴィが聞きたかったことというのはなんじゃ。メリーネ以外にもなんかあったのじゃろ?」


「俺が聞きたいのは新しい七竜伯――『変態』についてです」


 そう、俺は何としてもこのふざけた二つ名を持つ謎の存在についての情報が欲しかった。

 なにせ、ゲームには登場していないイレギュラーだ。

 本来なら剣聖はまだ七竜伯に居座っているはずで、その後釜にこんなよくわからないやつが滑り込んでいるはずがない。


 少なくとも味方か敵かを見定めなくては始まらない。


 しかし俺が変態について尋ねると、ロータスはなんとも形容しがたい微妙な顔をする。


「変態、か。あやつは……あやつはなんなんじゃろうな」


 ロータスはため息を吐いて、続ける。


「本当によくわからんやつじゃ。娘のような姿をした従魔を何体も侍らせ、魔物のことを『俺の嫁』と呼んではばからない」


「お、俺の嫁ですか」


「意味わからんじゃろ、相手は魔物じゃぞ? 女好きかと思い夜の街に誘えば『拙者はただの人間には興味ありません』などと言って断られたわ」


「……」


「そのくせ、七竜伯の就任式では竜王女殿下と対面した際は『ドラゴン娘キタコレ!』とか叫んで危うくその場で無礼打ちされそうになっていたな」


「……」


「変態とかいうふざけた二つ名もあやつ自ら付けたのじゃぞ。『変態という名の紳士』って、お主は意味わかるか? ワシにはわからん」


「て――」


「ん?」


 ――転生者じゃねえか。


 9割9分9厘くらいの確率で転生者だよそいつ。


 俺は思わずその場で天を仰いだ。


「急に天井なんて見てどうしたんじゃ? そういえば、あやつもよく『知らない天井だ』とか言っておったな。何度も見てるはずの天井でもお構いなしじゃ」


 ――しかも個性が強すぎる……っ!!


「しかし、ふむ。なんというか、レヴィはあやつと似ているかもしれん。いや、見た目なんかはまったく違うのだがな。雰囲気というか……うーむ、説明が難しいのじゃが」


 ――そんな奴と似てるとか嫌すぎるっ!!!!

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