ナイスバルク!
バルクキャット。
それがこの第2階層のボスの名前である。
「――あれは、猫に対する
メリーネは怒りながら、2本の剣を抜き放つ。
さっきまで猫型の魔物と戦うことに葛藤していたのが嘘のように、やる気に満ち溢れていた。
「猫だけどいいのか?」
「レヴィさま! あれは猫じゃなくてただの筋肉ですよ!」
「そ、そうか。メリーネが納得してるならいいや」
ともかく戦闘開始だ。
「行きますっ!」
まずメリーネがバルクキャット目掛けて駆け出す。
速度を活かして敵の懐へと肉薄し、2本の剣で斬りつける。
「か、硬い!!」
しかし、メリーネの剣はバルクキャットの体を浅く斬り裂くのにとどまってしまう。
その剣を受け止めるのは、強靭な腹筋。
見事なシックスパックがメリーネの攻撃を受け止めたのだ。
筋肉によって攻撃を防いだバルクキャットは、ニヤリと笑う。
俺はそれを見て、敵の攻撃の気配を感じ取り即座に魔法を放つ。
「メリーネ、下がれ! 『ダークスラッシュ』!」
俺の声に反応したメリーネが下がった瞬間、闇の斬撃ががバルクキャットの首を狙って発動する。
それによってメリーネへの追撃を妨害することができたが、やはりというか俺の魔法によるダメージはなさそうだった。
「ちっ、硬いな。メリーネ、剣は通りそうか?」
「重量付加の魔道具を止めればいけると思いますけど、今のままだと少し厳しいかと」
「そうか。メリーネの剣が通らないなら俺の魔法で攻めるしかないか」
俺やメリーネの鍛錬用魔道具を止めるという選択肢もあるが、それは最終手段にしようか。
なにせバルクキャットはB級の魔物だ。
少し緊張感に欠けるかもしれないが、力を制限している状態でもB級くらいは倒したいところ。
なにせ、圧勝ばかりでは実戦経験が積めない。
経験がないままの強さではいざというときにピンチに陥ってしまうかもしれない。
実戦経験を積むという面で見れば、力を制限してギリギリの相手と戦うというのはかなり合理的だ。
仮に危なくなれば全力を出してしまえばいいだけなので死の危険はまるでない。
魔道具を使っていない状態で互角の相手と戦うよりも安全でかつ質の良い実戦経験を得られるのだ。
だが、これはなかなかに難しいな。素材を回収することを考えれば火魔法はあまり使えない。
となると闇魔法で戦う必要があるのだが、火魔法と闇魔法では俺の戦闘能力は大幅に変わってくる。
俺の魔法適性の都合上、火魔法の威力が100とすると闇魔法の方は30ほどの威力しか出せないのだ。
もちろん使う魔法や条件などによって違ってくるが、おおまかにこれくらいの差はあるだろう。
過重魔法で闇魔法の威力を上げることはできるが、それにしたって上げられる威力にも限界がある。
やはり新しい魔法の開発は急務だな。
しかし今は地道にやっていくしかなさそうだ。
「メリーネ、敵を引きつけておいてくれ。俺は後方から闇魔法で攻撃する」
「わかりましたっ!」
メリーネがバルクキャットに近接戦闘を仕掛け、俺の方に意識が向かないよう注意を引く。
バルクキャットはその見た目通りに力が強い魔物だが、逆に速度はそれほど速くない。
鍛錬用の魔道具を使っている状態のメリーネでも、速度はバルクキャットに勝っている。
力に関しても、速度差ゆえに攻撃を余裕で回避できているようなので気にする必要はない。
問題なのは、やはり強靭な筋肉によって構成された筋肉の鎧の防御力。この一点に関しては、おそらくA級の魔物にすら匹敵するだろう。
「『ダークスラッシュ』」
多くの魔力を投じた過重魔法によってギリギリまで威力を高めた闇の刃を放ち、メリーネに気を取られているバルクキャットに攻撃する。
さっきのものより威力が高い魔法は、バルクキャットの体を斬り裂く。
決して深い傷ではないが、たしかにバルクキャットにダメージを与えられた。
「通じるな」
魔力量によるゴリ押しでしかないが、ここまで威力高めればバルクキャットにダメージが通ることが確認できた。
であれば、あとはひたすら魔法を連発するだけだ。
「メリーネ、そのまま頼む」
「はいっ!」
メリーネとバルクキャットが激しい近接戦を繰り返す中、俺は後方で魔法を発動し続ける。
「『ダークスラッシュ』――」
魔法を連続で放ち、バルクキャットの体に闇の斬撃を浴びせ続ける。
10、20、30と絶え間なく魔法を放つ。過重魔法で威力を高めた魔法の連続発動だ。
こんなゴリ押しの戦い方をしていれば、普通の魔法使いであればとっくに魔力が枯渇してしまうだろう。
しかし俺にとっては問題ない。
ゴリゴリとすごい勢いで魔力が減っていくが、俺の魔力はこれを数時間続けたところで枯渇しないだろう。
「に゙ゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
あまりの魔法の物量にバルクキャットは苦しげにうめき声をあげる。
もうすでにその体はかなりのダメージを負っておりまともに動くことができず、メリーネの足止めも必要なくなるほどだった。
100を越える魔法の斬撃の嵐に呑まれたバルクキャットは、積み重ねられたダメージによってやがて力尽きて倒れこんだ。
「すごいですけど、ゴリ押しすぎる……!」
「火魔法を使うならもっと簡単に倒せたんだがな」
だが、おかげでバルクキャットの良質な素材を手に入れられ――
「……レヴィさま、このバルクキャットボロボロですよ」
「そりゃ、そうだよなあ」
体中に無数の斬撃を叩き込まれたバルクキャットの毛皮はズタボロだった。
これじゃあ毛皮だけではなく内側も傷だらけだろう。
素材買取でもかなり安くなってしまうかもしれない。
だが、火魔法で倒すよりはマシなはずなんだよな。
素材の品質を気にするならもう一撃で首を落とすくらいしないとダメだな、これは。
やっぱり何か新しい魔法を習得するべきだな。
しばらくダンジョン探索を中断して何か考えてみようか。
倒したバルクキャットを影収納にしまって、出てきた宝箱の中身を確認する。
「回復ポーションか」
「この指輪と比べると少し残念ですね」
「必ず有用な魔道具が出てくるとも限らないし、仕方ないな」
とは言っても回復ポーションはどれだけあっても困らないので、ありがたく回収する。
第2階層を攻略し終えたところで、キリよく今日の探索を終わらせて俺たちは帰路に着くことにした。
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