やっぱなしってことにできないかな
魔物の卵はその名前の通り、魔物が孵化する卵。
この卵は実際に魔物が産んだものというわけではなく、まれにダンジョンの宝箱から発見されるというもの。
魔物の卵の中から何が産まれるかは、産まれるその瞬間になるまでわからない。
なんてことのない弱い魔物が産まれることもあれば、運が良ければドラゴンが産まれてくる可能性だってある。
つまりガチャだ。ガチャが嫌いなオタクはいない。ゲームでもよく魔物の卵を孵化させたものだ。
「魔物の卵ですと、ここにあるものがすべてです」
店員に案内された場所には腕に抱えられる程度の大きさの黒い球体状の魔物の卵が、1000個以上もずらりと並べられていた。
金額はすべて一律。目を剥くほどの高額とは言えないが、決して安くはない。
しかし素材を換金して手に入れた金額で、ちょうど1つ買えるくらいの料金設定になっているからちょうど良かった。
「レヴィさま、どれを選ぶのか大事ですよ!」
「だな」
ワクワクとした顔をするメリーネに同意する。
この中に俺の求めるような騎乗用の魔物が産まれる卵があるかもしれない。
そう考えると慎重に選びたい。
しかし中身に何が入っているのかはどうやってもわからない以上、悩みすぎても時間の無駄ではある。
そこで俺はふと思いついた。
それぞれの魔物の卵に宿る魔力を探れば良い魔物が生まれる卵を見つけられるんじゃないかと。
さすがにどんな魔物が入ってるかは魔力を調べたところでわからないが、強力な魔物は基本的に例外なく魔力が多い傾向にあるのだ。
何もやらないよりは確実に良いはず。
少しずるいかもしれないが、やってみようか。
俺は魔力を集中させ、魔物の卵に宿る魔力を探る。ケールの村でイブにやったのと同じやつだ。
人間の魔力を探るよりもかなり難易度が高いな。
それぞれの魔物の卵に魔力が宿っていることはわかるが、その大小を比べるのが難しい。
おそらく並みの魔法使いにはとうていできない芸当だ。しかし、俺の魔力操作技術ならなんとかなるはず。
魔力負荷の魔道具もオフにして、本調子を取り戻してから全力で探る。
しばらくそれぞれの魔物の卵の魔力を探りながら見比べて、俺はやがて1つの卵を指差した。
「あれだ。あの卵をくれ」
その卵は、他と比べて頭1つ抜けた魔力を持っていた。
大きな魔力を持っている卵はいくつかあったが、これは別格の魔力だ。
絶対に強力な魔物が産まれてくると俺は確信した。
店員は心得たと頷き、魔物の卵を丁重に包む。
「レヴィさま、どうしてあの卵に?」
「調べたらあれがもっとも魔力が強かった」
「そんなことわかるのですか……やっぱりレヴィさまってすごいです」
「少しずるい気がするがな。その分、この店を今後も利用させてもらおう」
領主の息子で後継者の俺が常連客になればこの店も箔がつくだろ。同業にも差をつけられるはずだ。
この店も願ったり叶ったりだろうさ。
まあ、次に来たときも容赦なくよさげな魔物の卵を選ばせてもらうつもりだがな。
店員から魔物の卵を受け取り、帰路に着く。
「何が産まれるか、楽しみですねっ」
「この卵は間違いなく良い魔物が産まれるぞ。ドラゴンか不死鳥か、もしかしたらクラーケンかもしれん。やばいな」
「あはは、そんな魔物が産まれたら困っちゃいますね」
メリーネと笑い合う。
「だが、孵卵器を買えなかったのが残念だ」
店員に聞いたところ魔物の卵は勝手には孵化せず、卵と同じくダンジョン産の魔道具である専用の孵卵器に入れて1週間以上待たないといけないらしい。
そんなわけで孵卵器も買いたかったがそっちも卵と同じくらいの値段がしたため、今日は買えなかった。
またダンジョンに行って稼いでから孵卵器を買いに行く予定だ。
楽しみすぎて今すぐダンジョンに行きたくなってしまうが、時間も遅いので日を改めてだな。
「ふっふっふ――」
明日のことを考えているとメリーネがわざとらしく声を上げて得意気に笑い出した。
なにごとかと見ると、メリーネは何かを隠すように背中に回していた手を前に持ってくる。
その手には、魔物の卵が丸々入るくらいの少し大きめな透明の球体が。
「メリーネ、まさか」
「そのまさかですよ、レヴィさま! 魔物の卵の孵卵器、わたしからのプレゼントですっ!」
「!」
メリーネはぱあっと輝くような笑顔で俺に孵卵器を差し出した。
「いいのか?!」
「もちろんです! レヴィさまにはお世話になってばかりですから、このくらいの恩返しはさせてください!」
「メリーネお前、最高だ」
「えへへ」
俺は照れたように笑うメリーネから孵卵器をありがたく受け取り、さっそくとばかりに魔物の卵を孵卵器の中にセットした。
これで1週間待てば産まれるのだ。楽しみすぎる。
メリーネには感謝してもしきれないな。
というか、俺は人からのプレゼントなんて前世を合わせてもあまりされたことがない。
友達の少ない陰キャだったからな。恋人なんていたことないし。
だから尚更に、このプレゼントは嬉しかった。
「メリーネ、この魔物が産まれたときはお前が名前を付けてくれ」
「えっと、いいのでしょうか。レヴィさまも名付けをしたいんじゃないですか?」
「ああ。名付けをしたい。だが、俺はそれだけメリーネに感謝しているんだ。こいつはいずれ従魔として大物になる。その名付けをする栄誉を、感謝の気持ちとしてメリーネに受け取ってほしい」
後世の歴史書には、最強の魔法使いレヴィとその従魔としてこの魔物が記されることになるだろう。多分。
そんな魔物の名付けができるなんて、七竜伯に憧れるようなメリーネなら喜んでくれるはずだ。
案の定、俺の提案が嬉しかったようでメリーネは目をきらきらと輝かせる。
「で、ではその栄誉、ありがたくちょうだいいたしますっ!」
メリーネはまるで騎士のような仕草で礼をする。
いや、そもそも騎士だったか。
メリーネは俺に対して基本的にかなりフランクなので、こんな風に騎士らしくしている姿は逆に希少であった。
それでいいのか護衛騎士と一瞬思ったが、俺も貴族と騎士というより友人のようにフランクに接してもらう方が気楽だからいいのだ。
ともかく、そんな風にらしくもない騎士らしさを思い出すくらいに嬉しいのだろう。
メリーネが喜んでくれて、俺も提案しがいがあったというもの。
「考えておけよ」
「はいっ! どうしようかなあ……ドラゴンならドラマル、ドラッコ――不死鳥ならトリグレートかなっ!」
「……」
今からやっぱなしってことにできないかな。
俺は腕の中の魔物の卵へと目をやり、すまないと気休めのような思念を送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます