ダンジョンへ

 アルマダの城に滞在して、数日が経った。

 ここでの生活も王都にいたときとあまり変わらない。


 自由な時間のほとんどはメリーネと2人でひたすら鍛錬だ。

 俺の魔力は日に日に増していくし、メリーネはこの城に来てから魔道具の重量付加300キロへと挑戦を始めた。

 初の実戦で魔族を倒した俺は成長を実感して、メリーネはこの鍛錬に大きな効果があることを知った。

 俺たちのモチベーションはかなり高い。


 王都での日々との違いは、ベアトリスとルーテシアの相手をすることがあるくらいか。

 そちらも鍛錬の間の息抜きとして、悪くない時間だ。

 俺は領地での日々に慣れ始めていた。


 そして今日、俺はついにダンジョンに行くことにした。

 挑むのは予定通り俺とメリーネの2人。


「わあ、ここがダンジョンですか! すごいですね、レヴィさまっ!」


「こんな地下空間があると、街が崩落しないかと少し不安になるな」


「……レヴィさまのせいで少し怖くなってきたんですけど」


 ダンジョンに足を踏み入れると、そこに広がっていたのはだだっ広い平原だった。

 地下空間でありながら空や太陽のようなものがあり、風が吹き草木がそよぐ。

 ダンジョンとはやはり不思議な場所だ。


 それにしても、アルマダの街を作った先人は良くこんな地下に空洞がある土地を選んだものである。

 ダンジョンに常識が通じないのはわかっているし、きっと何らかの力が働いて崩落など起きないようになっているのだろう。

 だが、そうとわかっていても不安なものは不安だ。


「さて、行くぞメリーネ」


「はいっ!」


 胸の前で手をぐっと握りしめて気合を入れるメリーネと、ダンジョンを進む。

 とにかく広い平原で、景色もあまり変化がないため気をつけていないとすぐに迷ってしまいそうだ。


「レヴィさま! 魔物ですっ!」


「アーミーラビットか」


 メリーネが指し示す方を見ると、パッと見ではわからないが草の陰に隠れるウサギのような魔物がいることに気づく。

 それは、迷彩柄の毛皮をした小さな魔物だった。

 足元が草で覆い尽くされたこのダンジョンではかなりの隠密性があり、見つけるのがとても困難だ。

 潜伏したまま不意打ちでもされたら多少の怪我くらいはするかもしれない。


 メリーネは耳が猫と同じくらい良いので気づけたのだろう。

 やはりメリーネを連れてきて正解だった。

 だがそれはそれとして、俺も何か探知できる魔法を考えた方が良さそうだな。

 敵の探知に関してメリーネに頼りきりはダメだ。

 このままではメリーネが俺のそばを離れた途端に死亡ルートがやってくることになる。


「俺が倒す。メリーネは俺のそばで別の魔物を警戒していてくれ」


 そう言って、魔法を発動させる。

 周囲が燃えやすいもので囲まれているこの階層では火の魔法は使えないから、今回使うのは他の属性。

 ――闇の魔法だ。


「『ダークスラッシュ』」


 魔法によって現れた漆黒の刃がアーミーラビットに襲いかかる。

 気づいて躱そうとしたところで、この魔法は敵の目の前で現れる上に発動が速いのでそう簡単には躱せない。

 漆黒の刃は狙いを外さず、アーミーラビットの首をあっけなく落とした。


「さすがレヴィさまです! 火属性だけじゃなくて闇属性魔法まで使えるんですねっ!」


 魔法使いは基本的に魔法の適性を1つの属性だけしか持たない。

 だから俺のような複数属性に適性を持つ魔法使いは珍しい。

 ゲームのレヴィは火の魔法しか使っていなかったが、今の俺はどういうわけか闇の適性も持っていたので闇魔法を覚えたのだ。


 俺の闇魔法は火魔法ほどの威力は出ない。

 しかし火魔法は実はかなり弱点が多いので、闇魔法の出番はこれからも多そうだ。

 まず雨天時には火魔法の威力は激減してしまう。

 さらに屋内では火災になってしまうので基本使えないし、屋外では周囲への延焼のリスクなどを考えながら使用しなくてはならない。

 逆に闇魔法は周囲への影響がほとんどないため、使える場面が多く重宝するのだ。


「『影収納』」


 倒したアーミーラビットを俺の影の中にしまい込む。

 さて、この調子で魔物を倒しながら今日中に第1階層を突破するぞ。


「――えっ!? な、なんですか今の魔法っ!? アーミーラビットは!?」


「何って、『影収納』だが」


「それって、どんな魔法なんです……?」


「見ての通り、モノを影の中にしまう闇魔法だ」


 よくアニメや漫画なんかで出てくる空間収納とか、アイテムボックスとかみたいな便利魔法を俺なりに作ってみたのだ。


 やっぱり、魔法が使えるならこの手の魔法は何としてでも作りたかったからな。

 しかし作るのにはかなり苦労した。

 とくに食材などの腐敗を防ぐための効果を組み込むのに苦戦し、かなりの時間をかけてしまったのだ。


 だがまあ、試行錯誤したおかげでかなり納得のいくものになった。

 収納量は魔力次第、食材などの腐敗を防ぎ、取り出すときは影の中を探さずとも頭に思い浮かべるだけで出てくる。


 完成したときは、これで俺も立派な転生者だなと自画自賛したものだ。


「それって……すごすぎませんか?!」


「かもな」


 メリーネは驚愕したように目をくわっと見開く。


「ななななな、なんでそんな、なんてことのないような感じでいるんですか!? レヴィさま、この魔法のすごさ本当にわかってますか?!」


「いや、わかってるって。作るの苦労したし」


「!? レヴィさまが作ったオリジナル魔法なんですか!?」


「ああ。空間魔法に似たような魔法があったからその資料を参考にはしたが」


「く、空間魔法なんて適性があるだけで宮廷魔法師団の幹部級の地位が約束される魔法属性ですよ。それを闇魔法で再現するなんて……!」


「頑張った」


「頑張ったで終わる話じゃないですよっ!」


 メリーネはそう言うが、事実として頑張ったらできたのだ。それ以上説明できることなんてないぞ。


「わたしは魔法使いじゃないから詳しくはないのですが……そもそも、オリジナル魔法って凄腕の魔法使いが数年をかけてやっと作れるようなものじゃ……」


「そうなのか? だが、『流炎装衣』も『炎竜爆破』もオリジナルだぞ」


「3つ……! すでに3つも作ってるこの人……!!」


「いや、オリジナルはあともう1つある」


「4つだった……!」


「今のところはな」


「しかもまだまだ作る予定――!?」


 メリーネはそう言うが、こっちだって命がかかっているのだ。

 死亡ルートしかない未来を乗り越えるには、有用なオリジナル魔法なんていくら作っても足りないぞ。

 俺は死にたくないからな。


「レヴィさますごすぎます……置いていかれたくないのに。ずっと隣にいたいのに。わたしも、もっと頑張らなきゃ」


「おい、メリーネ。早く行くぞ」


「わ! ま、待ってくださいレヴィさまっ! あなたの隣はわたしじゃなきゃダメなんですからね!」


「なんの話だよ」


 なぜか突然やる気に満ちあふれだしたメリーネ引き連れて、俺たちはダンジョンの中を進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る