殲滅
道中で魔物を倒しながら村を駆け、すぐに目的地へと辿り着く。
そこは教会だった。
村に唯一ある教会の中で人々が身を寄せ合い、救いを求めて祈りを捧げる。
しかし、魔物たちはそんなものは意に返さない。
男衆が教会の前でバリケードを築き、剣や槍を持って魔物たちを食い止めようとしているが魔物の数は多く押し負けている。
さらに、魔物たちの中心には一際大きな魔物がいた。
ゴブリンの上位個体であるゴブリンジェネラルだ。
教会を守る男たちは傷だらけ。
生きているのか死んでいるのかもわからず、倒れたまま動かない人もいる。
そんな彼らの必死の抵抗をあざ笑い、生かさず殺さずもてあそぶように配下をけしかけるゴブリンジェネラル。
どうしようもないほどに、不快な光景だった。
「――『劫火槍』」
同時に50の炎の槍を浮かべ、一気に放つ。
ゴブリンジェネラルに5本、その周囲に狙いを定めず45本の魔法をばら撒く。
爆炎の群れが日暮れを明るく照らし、瞬く間に魔物たちを焼き尽くしていく。
さっきの反省を活かして威力を落とした炎の槍は、それでも配下のゴブリンたちはもちろん、リーダー格のゴブリンジェネラルすらも燃やし尽くした。
「おい、動けるか」
魔物の群れを蹴散らし安全が確保された教会の前へと進み出て、呆然と俺を見る男へと問いかける。
この男は傷だらけで、体中が痛いだろうに村人を指揮しながらずっと魔物と勇敢に戦い続けていた。
歳の頃はおそらく30の後半くらい。
きっとこの村の若い衆のリーダー的な存在なのだろう。
「……助けてくれたのか?」
「聞かずともわかるだろ」
俺がそう答えると、彼は涙を流しながら頭を下げる。
「ありがとう! もうダメかと思ってた……君の、恩人の名前を教えてほしい!!」
「――レヴィ・ドレイク。ドレイク侯爵家の後継者だ」
「ああなんてことだ、まさか貴族様が助けてくれるなんて!」
俺の名前を聞いた彼がより一層感謝を込めて頭を下げると、周りの村人たちも口々に礼を言い出した。
危機的な状況を助けられて感謝する気持ちはわかるが、今はそれどころじゃないのですぐにやめさせる。
「礼はいらない。たまたま間に合っただけだ」
それに、まだ村中の魔物を殲滅できたわけじゃない。
ドレイク侯爵家の騎士たちが倒して回っているようだが、気を抜くにはまだ早いだろう。
「メリーネ、ここを死守するぞ」
「はいっ!」
俺とメリーネは教会前に陣取って迫り来る魔物たちをとにかく倒し続ける。
メリーネの鍛錬している姿は何度も見ているが、実戦を見るのは初めてだ。
身長の低さを活かし俊敏に戦場を駆け、両手に持った2本のショートソードで踊るように魔物を切り刻んでいく。
その速度は圧倒的で、魔物たちはなすすべがない。
やっぱり、相当強いな。
メリーネの歳は俺の2つ上で16歳。
その若さで侯爵家跡取りの専属護衛をやっているのだから、強いとは思ってたけど想像以上かもしれない。
「――レヴィさま! わたし今までで一番体が動きます! すごいですっ! レヴィさまの鍛錬のおかげかもしれませんっ!」
「……マジで効果あったか」
どうやら元の強さに加えて、あの重量付加の魔道具の成果も実感できているらしい。
そういえば馬車に乗ったときからオフにしたままだったな。
効果あるとは思ってたけど実感できるほどとは。
何にせよ、これでメリーネ強化の方針がより明確に定まった。
教会を守っていると騎士たちが続々と保護した村人を連れてくる。
この規模の魔物の群れに村が襲われたにしては、生き残りが思ったより多かったのは不幸中の幸いだった。
騎士が連れてきた人たちも教会の中に匿って、継続して魔物を狩り続ける。
すると、少しずつ魔物の勢いが弱まっていく。
どうやらそろそろ全滅が近いようだ。
しかし、妙だ。
「なあメリーネ。こいつらいったいどこから来たと思う?」
「どこって……どこでしょう?」
俺たちは揃って首をかしげる。
この村は街道沿いにある村で、旅人に危険がないよう定期的な魔物駆除がされているはずだ。
それなのにも関わらずこの数の魔物の群れ。
しっかりと数えてはいないが、おそらく数百体はいた。
この周辺にそんな数の魔物が潜めるような場所はないし、ゴブリンジェネラルみたいな上位個体がいたとしてもこれほどの数の群れは中々形成されるものではない。
ましてや、この群れの魔物は同種だけじゃない。
ゴブリン系、狼系の2種の魔物による混成の群れだ。
よく考えてみると、こんな群れはおかしい。
明らかに普通じゃない。
まるで――何者かが意図的に作ったかのような群れ。
そんなことを思った矢先だった。
空がガラスのようにひび割れ、その向こうから何かが現れる。
人間の体に、腕は2つではなく6つ。
その顔は山羊のようで、人間のものとはかけ離れた容貌をしている。
人ではなく、かと言って魔物でもない。
そいつは空から村を見下ろすと、不思議そうな声音で言った。
「あれぇ? なんでボクの魔物が全滅してるのさ」
その姿、その言葉。
それらを認識した俺は、確信する。
こいつがこの村に惨劇をもたらした、元凶。
「ま、いっか。減ったなら――増やせばいいからね」
空のひび割れが大きく広がりその向こうがわずかに見える。
そこにいたのは――無数の魔物。
ひしめき、ざわめき。
途方もない数の魔物が顔を覗かせてこちらを伺う地獄のような空模様。
「レヴィさま、あれって……?」
メリーネが不安そうな顔で俺を見る。
俺はメリーネの問いに、冷や汗を浮かべながら答えた。
「あれは――魔族だ」
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