罪なき死

コナコナチーズ

第一話 自覚なき罪

 薄暗い部屋の中に男はいた。男の服装は黒いスーツに紺色のネクタイで、どこにでもいるようなサラリーマンの格好をしている。男は気絶しているようで倒れたまま動かない。

「・・・ん。どこだここ?」

 痛む体を起こし、自分の周囲を確認する。男のいる部屋はすべてが石で出来ており、椅子やテーブル、ゴミ箱までもが石で作られている。部屋の大きさは学校の教室の半分くらいの大きさとなっている。その石で作られた部屋の中に一つだけ石で出来ていない物があることに気がついた。テレビだどこにでもありそうなテレビだがこの部屋の雰囲気には合っていない。

「なんでこんな部屋にテレビがあるんだ?」

 男は疑問を覚えながらもテレビに近づいていく。しかし男の意思とは無関係に足が止まってしまう。足に違和感を覚え、視線を足元に向けるとそこには足枷を嵌められた自分の足があった。

「は!?なんだよこれ!」

男は必死に外そうとするが外れる気配がない。そんな中、突然テレビに電源が付き、仮面をつけた人物が映し出される。

「おはよう。いや、こんばんはかな?まぁ、挨拶はどうでもいいか。」


その人物はポイスチェンジャーを使っているようで、性別や年齢はわからない。


「おい!ここはどこだ!何が目的だ!」


必死に叫ぶが男の声が届いていないようで画面の中の人物は、淡々と喋り続け る。


「きっと君は状況がわかっていないと思うから僕から説明させてもらうね。まず、君は これからこの部屋で仕事をしてもらう。仕事と言っても映画を見て評価するだけだ。 今まで働かずに家に引きこもり、色んな映画を見ては、勝手に評価をつけていた君 なら簡単だろう。それと、仕事を終わらせたら「ありがとうございます」と言ってくれ。仕事を君に与えてあげた僕へのお礼だよ。」


 それだけいうとテレビの電源は切れた。仮面の人物が言っていたことは正しい。男 はいつも働かずに家で映画を見ている。そのことを得体のしれない人間が知っている。もし仮面の人物が他人だった場合、それは自分の情報が外部に漏れているということであり、その事実に気づいた男が恐怖を抱くのに時間はかからなかった。しかし、それと同時に男は期待もしていた。その理 由は男の友達の中には、金持ちがおりその友達は男の誕生日に毎回、大掛かりなドッキリをしてくれる。だから今のこの状況もドッキリではないのか。

「もうドッキリはいいから家に帰らせてくれよ。今までのドッキリより質が悪いぞ。...なあ、ドッキリだよな?」


その声に返事をする者はおらず、男はドッキリであることを祈ることしかできなかった。


 それから随分と時間がたった。最初はどうにか足枷を外そうともがいていたが何 をしても外れる気配はなく、仕方がないので足枷は一旦締め、部屋の中を調べることにした。まずはどこまで行動できるのかを検証したところ、部屋の半分までは移 動できることがわかった。生活するために必要な物は届くところにあるのでとりあえ ずは問題ない。また、天井に幅3メートルほどの正方形の穴が空いていることが分かった。ただ、ジャンプした程度では穴には届かず椅子も重すぎて使うことができな い。そのため、たとえ足枷が外れたとしてもこの穴から脱出することは無理なようだ。


 一通り調べ終えたタイミングで天井の穴から何かが落ちてきた。何が落ちてきたの か警戒しながら近づくと、それの正体は、発泡スチロールに入ったケータイだった。男は急いでそれをとり、警察に連絡しようとしてその手を止めた。今の状況がドッキリだとしたら、警察を呼んだら友人を困らせるかもしれない。そう考えた男は警察への連絡を躊躇った。しかし、 ケータイをそのままにするわけにもいかないので適当に弄っていたとき、一つだけ登録されている電話番号を見つけた。だが、残念なことに男はいつもラインを使っている ためそれが友の電話番号なのかが分からない。他にやることもないため男はその番 号にかけることにした。


「もしもし。」


「調子はどうかな?快適に過ごしていればいいのだが。」


「快適なわけがないだろ。それよりお前は誰だ。俺の知り合いか?」


電話の相手はまだボイスチェンジャーを使っており声では判断できない。相手は男 の質問には答えずに話を続ける。


「早速だが君には仕事をしてもらう。映画を見た後の評価は電話で僕に言ってくれ。 そのときにはお礼も忘れずにね。」


それだけ言うと電話は切れてしまった。それと同時にテレビに映画が流れ始める。 男は一旦電話のことを忘れ、映画に集中する。その映画は仲の悪かった男女が 一緒に過ごしていく中でお互いを意識していくという王道のストーリーであり、3時 間ほどで終わった。男は約束通りに電話をかける。


「映画はどうだった。」

「つまらなかった。」


「なぜ。」


「ストーリーが王道すぎて先が読めるんだよ。もっと見る人を驚かせるような展開が あって良いと思う。見ている人に先を読まれるのは駄作だ。いいか。面白くないんじ ゃない。つまらないんだ。この内容で3時間は拷問に近い。」


この映画を見て思ったことを素直に伝えた。相手に何の意図があってこんなことをさせるのか分からないが、これが仕事というのならしっかりと評価をするべきだと思う。男の評価を聞いた相手はしばらく無言だったがそれからすぐに男を称賛した。


「すごいな。そこまでしっかり評価をするとは思っていなかった。どうやら僕は君のことを少し舐めていたようだ。その調子で仕事を頑張ってくれ。それはそうとお礼はまだかな?」


自分からお礼を求める人に良い奴はいない。男はそんなことを考えながら苛立ちの 混じった声でお礼を言った。それを聞いた相手は何も言わずに電話を切った。


「何をさせたいんだよ。」

男は多少の苛立ちを覚えながらそんなことをぼやいていると、上の穴から水の入っ たペットボトルと乾パンの缶、寝袋が落ちてきた。それは男の頭に当たりそのまま男ごと床 に転がった。


「ーッ!」


男が声にならない痛みを訴えている中、穴から一枚の紙が落ちてきた。そこには 『ボクからの優しさ!』と書かれておりその端に(*^^)v といった感じの落書きがされていた。これを見た男の怒りは最高潮に達し、その日は痛みと怒りで眠ることが出来 なかった。


 男が閉じ込められてから一週間がたった。映画は一日一本しか流れないのでそ れ以外の時間はポーっとして過ごしている。映画のジャンルは様々でアニメ、ホラー、 特撮など日によって違い良作もあれば駄作もあった。ご飯も乾パンがあるのでどう にかなっているが風呂に入れないのが一番つらい。何とか脱出が出来ないか何回も試したが結果はすべてダメだった為、男は半ば諦めていた。そんな男のもとに電話がかかってきた。この電話にかけてくる相手など一人しかいないため、特に警戒 することもなく電話に出た。

「おはよう。今日は君に脱出するチャンスを上げようと思って電話させてもらった よ。」


 驚いたことに相手はボイスチェンジャーを使っていなかった。しかしその声は友人のも のとは違い、幼さを感じる声質だが一応男性のこえだと分かる。だが今の男には 脱出のチャンスという話のほうが大事だった。


「脱出できるのか!?」


「ここから出たいのなら穴から垂れている繩梯子を上りその先にある問題を解くとい い。そうすればここから解放されるよ。だけど最後まで油断しちゃダメだよ。」


 それだけ言って電話は切れてしまった。罠かもしれないが危険を冒してでも脱出し たい。この一週間で男は今までの生活がどれほど豊かだったかを知ることが出来た。 ここを出たら今まで迷惑をかけてきた親に働いて親孝行をしたい。そんな色んなこと を考えながら、いつの間にか垂れていた梯子を上り切った。そのあとの問題はとても簡単だった。ここで見てきた映画に関しての問題だった為、間違うことなく最終問題まで来た。 最終問題は初日に穴から落ちてきたものの数をマイクを使い答えるというものだった。落ちてきたものはペットボトル、乾パン、寝袋、そして見るたびにイライラするメモの計4つだ。こ れを答えれば出れる。男は気持ちを落ち着け答えをいう。


「4つだ。」


その瞬間、男の体を銃弾が貫いた。何が起こったかわからないまま床に倒れ、痛み で声が出ない男はそれでも誰かに助けを求めるように手を伸ばすがその手は何かを掴むことは無い。その後ろに男を見つめる一人の 仮面をつけた人物がいる。


「ボクは君の両親から君を殺してくれと頼まれたんだ。だが君にも色々と事情があ ったのも知っている。だから君はボクや君の両親を恨む資格がある。」


それだけ言うと去っていった。今言った言葉はもう息を引き取った男に届くことはな かった。

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罪なき死 コナコナチーズ @konakona1021

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