第2話 冒険者ギルド
それぞれ無能力、魔法、魔術、機械の世界から転生してきた。伊織、シャルロット、ヴィヴィ、桐彦の四人は、勇者とその味方として異世界の王国に呼ばれるも、初めに王に反発したことで王宮から追い出された。
それから先導者は勇者の伊織となり、最初に互いのステータスを開示した。伊織は今回が初めての異世界転生であり、しかし何故か異世界に対する理解が早く、終始興奮していた。
「えーっとこれでよく分からんが全員のステータスが分かったな! それじゃあ次は冒険者ギルドだろ!」
「冒険者……? 他にも能力を使える人がいるの? 能力管理協会みたいな所かな?」
「そっちの世界の能力者がどんな扱いか知らんけどまぁ、そういうことなんだろうな。でだ。異世界転生したといったら真っ先に考えられるのは冒険者の仲間入りになることだが、どこ世界でも冒険者登録には金が必要であるという相場が決まっている!」
金が必要だと伊織の口から聞けば、徐に懐からヴィヴィが一枚の光り輝く金貨を取り出す。それを見て伊織の目に一瞬だけ光が灯るが、ここはまた別世界であることにすぐに引き戻される。
「ふむ、金か。わしなら金貨くらいなら常に懐に入れておるが……それはこれは使えないと言っているのだろう?」
「あぁそういうことだ。しかーし! お金を簡単に手に入れる方法はある。それは物を売ることだ。俺は早速だが仕立て屋で俺の制服を売ってしまおうと思う。この制服はこの世界では唯一無二の、存在しない技術で作られている物だからな。目利きが出来る人間なら飛びつくはずだ」
さぁ売ろうと言うという伊織に、初めて桐彦が横から口を出す。
「そんな貴重品を売ってもいいのか? 確かに最早別世界で制服など意味をなさないとは思うが……」
しかし伊織は、桐彦は分かっていないなと言わんばかりに、人差し指を振りながら言う。
「意味がないなら売ってもいいだろ。チッチッチ……それにさ、こう言うのって売るだけで何らかの結果を作り出すものなんだぜ? 日本で売ったらそれで終わりだが……異世界には無い技術で作られた物は、所謂オーパーツ。仕立て屋の商人が物珍しさに、これをオークションにでも出してみろ。一気に『この制服の持ち主は誰だったんだ』と騒ぎ立てる連中が現れること間違い無しだ!」
桐彦は今回は伊織の言っている言葉は多少は理解出来た。しかしあくまでも理想論であり、珍しい物は家宝にしたり、素材を活かしたり等々。そこで物の流れは終わる可能性だってある。
「……。そういうものなのか?」
「儂に聞かれても知らんわ……。そもそも何故魔法の知識も無かった伊織がこうも、異世界を理解しているのかさえも分からないと言うのに……」
「はぁ!? 日本の中高生はみんな異世界に憧れるもんだろぉ? シャルロットは分からねえのかよ。一応、同じ日本人じゃないか」
伊織は歴史や文明がまるで違くても、心の奥底は変わらないと信じてシャルロットに共感を求めようとする。しかし返ってくるは苦笑いだけだった。
「あはは……私たちは生まれた頃から魔法が使えるから……」
「ちくしょおおおお! 少しでもみんな似たような世界から来ているから、俺の考えが理解出来る奴がいるかもしれないなんて思った俺は馬鹿だった……!
もういい。とにかくお前らは俺に付いてくるのが賢明だと思う。各々離れた時に、何らかのトラブルに巻き込まれたら何をしでかすか分かったもんじゃ無い。ただ自由時間は与えてやる」
またしても味方のまとまりの無さに頭を抱える伊織。そしてならばと先導者でありながらリーダーを務めようと考えるが、その言葉にヴィヴィは怪訝な表情を見せる。
「ほう? 急にリーダー面しおったぞコイツ。まぁ、理解のあるお主に付いていくのは分からなくも無いが……どうも味方ではなく、仲間に思われているような気がしてならんのぉ」
「え……仲間になってくれないの?」
「無論。あくまでも協力関係じゃ。王も我々のことを"味方"と言ったはずじゃ。なぁに、安心せい。裏切ったりしたりはせんわ。敵対しないとは限らんがのぉ」
「ヴィヴィの言っている意味が分からねえ……裏切りと敵対って何が違うんだ……?」
「そう深く考えるな。ほれ、その制服を売るんじゃろ? はよ行け」
伊織はとりあえずヴィヴィの言葉に頷きつつも、不安はあるものの、信頼しているとだけ言い残してその場を後にした。
「お、おう……一応は信頼しているからな。追放系主人公になるのだけはごめんだからな」
「また訳の分からんことを言うとる……。シャルロットは理解できたか?」
「ごめん。分からないかな」
「俺も分からん」
そうして街の仕立て屋に入った伊織は制服の上着を脱ぎ、店員をそれを差し出す。
「これを買い取ってくれ」
「ふむ……こ、これは!? なんと洗練された裁縫技術に、これでもかとふんだんに使われた高級素材の絹……! 本当に人の手で作られた物なのか疑うレベルですね……」
そこで伊織はニヤリと口角を上げると、嘘と真実を混ぜた話で、さらに高価な物であると店員に交渉を持ちかける。
「あぁ、これは俺が子供の頃から着ている代物でね。俺の家系では礼服としてこれを体の大きさに合わせて職人に作り直して貰っていたんだ。でも残念ながらもうその職人はこの世にいなくて……絹をどこから持ってきていたのか。こんな繊細な技術はなんなのかは分からず終いになってしまったんだ……。それでも買い取ってくれるだろうか?」
そう言えば店員は酷く驚いた表情ながらも、どこか心当たりがあるのか。伊織に一つの質問をする。
「……まさか。あなた様はどこの出身なのですか?」
「……? あ、あぁ。あまりにも卓越した技術だからね。代々隠され続けていたんだけど……言うなら遠い島国としか言いようが無いな」
そう言えば、店員は手に持っていた制服をカウンターの上に落として、わなわなと震え出す。その反応になにか変なことを言ってしまったのかと伊織も慌てる。
「え!? なんが俺変なこといった?」
店員は伊織の反応にすぐに気を取り直せば、銭受け皿に青白く輝く500円玉程の硬貨を2枚置いて差し出した。
「い、いえ。あまりにも信じられない想像をしてしまったもので。申し訳ありません。この着物、これくらいで満足していただけますでしょうか?」
「これは……?」
「白金貨2枚です。足りませんでしょうか?」
「分かった。この金額で買い取ってもらおう」
そうして伊織は仕立て屋を出ると、勢いよくガッツポーズする。異世界の通貨の単位は不明だが、元から異世界に憧れを持っていた伊織は、白金貨という呼び方だけで、非常に高い金額と察していた。
「いよっしゃぁ! これであいつらの物まで売らなくて済むぜ!」
一方その頃、伊織の帰りを待っているシャルロットとヴィヴィはベンチに座り、桐彦は立ったまま雑談していた。
「ところでヴィヴィさんのスキルはどう書かれていたんですか?」
「儂は、『魔術の素養』と書かれておった。詰まるところ、この世界でも魔術は使えるということじゃろう」
「ヴィヴィ。お前はさっきもそうだが、目に魔法や魔術の何かが見えているのか? 発動方法が厄介とも言っていた」
桐彦がそう聞くとヴィヴィは目を細め、周囲を見渡しながら言う。
「見えておるぞ。恐らくシャルロットも少しは見えておるのではないかの? 魔法を使えて、体内に魔力の源を持つならば、空気中に漂う魔力も見えるはずじゃ」
シャルロットは何も知らないようなきょとんとした顔をしてから、ヴィヴィの言う魔力のをみようと目を細めると、はっとした表情で驚く。
「え? うーん……えぇ!? なにこれ……こんなもの初めて見た。色は無いけど、空間が歪んでる? 透明の何かが空気中を無数に漂っているのが見えます!」
しかしシャルロットの初々しい態度にヴィヴィは大きくため息を吐く。魔術はともかく、その上位に当たる『魔法』を生まれた頃から使っているシャルロットが、当たり前に見えているはずのものを見ていなかったことに、この先この勇者とその味方は役に立つのだろうかと心底心配になる。
最悪、彼らを仲間だと信じる前に死んでしまうのではないかと考えるのだった。
「まさか、魔法の知識を持っていながら生まれて初めてか! せっかく技術によっては大きな力をもたらす治癒の力を持っていると言うのに……これは幸先が急に悪うなってきたぞ」
「俺には何も見えんな……せめて風向きくらいか」
「桐彦は良いとして、伊織もシャルロットも頼りなさそうに見えてきたわ……。寧ろ魔法の原理は儂が知りたいのに。仕方が無い……魔法は魔術に通ずるものがある。儂が少し手助けしてやるかのぉ」
「機械は流石に専門外か」
魔法と魔術について、また先の心配をしている中で丁度伊織が帰ってきた。
「みんな聞いて驚け! 俺の制服は白金貨2枚で売れたぜ!!」
「ほぉう。白金と言えば金より高価に聞こえるが……儂の想像している通りでいいのかね」
「多分な!!」
そうやって四人が合流した所でようやく冒険者ギルドの建物に入れば、すぐに多くの人の集まりと、喧騒の声に包まれる。
ほとんどの人の声は建物に入ったすぐ正面にある受付より、隣に併設されている酒場からだった。
「ひゅーう! これだよこれ! この雰囲気だよ! まさかマジで転生して夢を体験出来るとはなぁ……」
「煩いな……」
「さぁ、目指すは受付だぁ!」
「全く何を楽しんでおるのやら……まぁ、懐かしい雰囲気ではあるな……」
そう意気揚々に伊織は入り口から受付カウンターまで歩き出した時、シャルロットはかなり強めに通り過ぎる男の体に肩をぶつけてしまう。
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