第1話 それぞれの世界
それぞれ全く見知らぬ別世界に召喚されたのは、全員もまた別の世界からだった。
勇者は半ば王から追い出される形で街中に出、味方の態度に頭を抱えるが、すぐに立ち直りまず自己紹介を始めようと言った。
「まず俺は
伊織は黒髪黒目の青年。状況を把握しているとは言え、学生でこうも飲み込みが早いことに多少ながら他の全員は目を見開いていた。
「じゃあ……次は私かな? 私はデルタ・シャルロット。こう見えて生まれも育ちも日本。お父さんが外国人ってだけでね」
シャルロットはロングストレートの金髪にエメラルドグリーンの瞳で、顔の掘りも深い。一見では外国人にしか見えない顔立ちをしており、更には透き通るような白肌とスラリとした体型は誰が見ても美しかった。
「ならば次は儂じゃな。儂はマニス・ヴィヴィ。魔術の世界から来た大魔術師じゃ。どうやらこの世界は魔術の概念が無さそうに見える。よって魔術の発動は少々厄介だと思うが……儂にかかれば魔王なんぞイチコロぞ! さぁ、敬え」
ヴィヴィは茶髪のポニーテールに、全身に青紫色のロングローブを着込んでいることで体のラインは全く見えないが、その顔だけは口調と比べてかなり幼い少女の顔立ちをしている。
「最後は俺か……。俺は
そして最後に名乗るのは半人半機の侍を名乗る男。頭部から斜めに掛けて右肩と右腕に肉体が露出しており、だが他の全ては機械で作られている。髪は銀色で瞳も銀色。
伊織もシャルロットもヴィヴィも人間だというのに、一人だけ異彩を放つ桐彦は機械だった。
そこで突如伊織が鼻息を荒くして興奮気味に桐彦に質問する。
「侍!? マジで? かっけええ……! 化野桐彦なんて名前聞いたこと無えけど……てかなんで機械の体なんだよ」
「それは俺にも分からん。だが、名を知らないのも当然だ。俺はどこの家系にも属さない流浪人だったからな」
「流浪人かぁ……! なぁ、シャルロットは何にも思わねえよかよ!」
桐彦から目線を外す伊織はいまだに興奮気味にシャルロットに話を移す。しかし、シャルロットはまるで伊織の言葉が理解出来ていないような、きょとんとした表情で反応する。
「え? そもそもさむらい……? って何?」
「はぁ!? おま、日本人なんだろ!? 侍め知らねえとかどういう生き方してたんだよ。なら流石に江戸は知ってるよな?」
「えぇ、江戸時代なら知っているわよ。何せ、魔法技術の発展が一気に進んだ時代だもの。それくらいは知っているわよ」
「え……魔法? お前は魔法使えんの? え?」
「……? 伊織は魔法使えないの? あれ?」
突如伊織とシャルロットの話が噛み合わなくなる。どうやら同じ日本という国でも、歴史と文明がまるで違うようだ。それに気づいたのはヴィヴィだった。
「どうやら伊織の日本には魔法が存在せず、シャルロットの日本には魔法が昔から存在するようじゃの。これはまた面白い組み合わせで召喚されたものじゃ。儂は魔術に知識に長けているが……魔法は魔術の上位技術での、多少なら知識はある」
「魔法かぁ……いいなぁ……俺も異世界転生したし、魔法とかいつか使えたらするのかな……」
伊織はヴィヴィの話を聞いてニヤケ面を見せながら、シャルロットが使えるという魔法に夢のような憧れを持つ。
しかしそんな夢などシャルロットの一言で破壊されてしまう。
「伊織さんの体内からはマナが感じられないわ。本当に魔法の存在しない日本から来たのね……」
「え、そのマナってのが無いと魔法、もしかして使えない?」
「それは私がいた世界の常識だけれど……伊織さんの体内からはマナが枯渇しているというより……マナを作り出す構造すら無いみたい」
「そんな……馬鹿な……ッ! トラックに轢かれて、女神に出会って、勇者と言われてテンション爆上がりしていたのに……魔法が使えない勇者なんているのかよおおぉッ!」
伊織はその場で膝を折り、両手を地面について絶望の叫び声を上げる。なにをそんなに悔しがるのか、その話を黙って見ていた桐彦は理解出来なかった。
「妖術……そう呼ばれていた力ならば俺が元いた世界。そう江戸の時代にはあったな。だが俺には全く縁のない話。御伽だと思っていたが……」
桐彦は自分がいた時代に噂か若しくは由緒ある家系に伝わる秘術が妖術と呼ばれていたことを思い出し、ふとその記憶を口に出せば、次はシャルロットは早口で解説し出す、
「そうそう! 江戸時代にはマナを使った摩訶不思議な術を妖術と呼ばれていたわ。明治時代から魔法という呼ばれかたをして、大正から昭和に掛けて魔物っていう化け物が異次元から現れて、平成から現在までにそれらはモンスターと呼ばれるようになったのよね! マナはその昔のずーっと昔からあったものなんだけど、私の体には体力をマナに変換する機能があって、それを使って魔法を行使するの。だから大きな魔法や連続発動していると段々と疲れてくるのよねぇ。因みに私は治癒術師よ」
「あ、あぁ……そうか。治癒とは傷などが治せるということだろうか。俺の体にも似たものが備わっているが……やはりいつ聞いてもおかしな力だ」
「へぇ……桐彦さんからもマナは感じられないけれど……」
「俺は今は機械だからな……。破損部を修復する機能くらいはある」
桐彦の機械の体は長年にわたって改造や修正が行われてきた。よって特に戦闘と長時間の行動続行に適した様々な機能が備え付けられているが、それを話せばシャルロットの興味は突然と消える。
「あぁ、魔法じゃ無くて機械ね……。私の世界にも
「別にいい。俺はもう慣れた」
そうそれぞれの世界についてを話し合うところにヴィヴィが話に入る。そろそろなにかしないのかということだ。
「ほいほい、貴様ら。皆の世界の話はもうええわい。魔法や機械のことなんざ、道中で少しずつ分かることじゃろ。今ここで全てを話しても仕方がないわ。ほれ、伊織。お主について行けば良いのだろう? なにか目標があるのならさっさと案内せい」
「お、おう悪い! じゃあまずは異世界といえばこれだろ! ステータスオープン!」
伊織は片手を大きく振り、一つの言葉を発する。そうすると、伊織の目の前に青い窓が現れた。それは空中に浮いており、文字が表示されていた。
しかし伊織のイメージする物とは違う物だったようだ。
「は? なにこれ? スキル……? これだけ? 『勇者にあるべき力』……?」
「どうしたんじゃ……」
「お前らもステータスオープンしてみろよ。多分に異世界に転生した人間なら誰でも使えると思うぜ。あぁ、別にポーズとか叫ばなくていいから」
「ほぉ……ステータスオープンとな」
伊織に言われるがままにヴィヴィはその言葉を呟くと、ヴィヴィの目の前にも現れた。が、表示されている文字よりも現れた窓に興味津々のようだ。
「な……儂の前にも現れたぞ! これは魔術や魔法の類では無い……。奇跡に近いように見えるが、それにしては力が弱い」
「魔法でないなら私にも……ステータスオープン……?」
半ば疑問系でシャルロットはその言葉を発すると、同じく窓が現れた。
「わっ! 私にも出てきた! えーっと……『治癒の力』! そのまんまだなぁ……あはは」
「ステータスオープン……」
皆に釣られて桐彦も呟く。同じく窓が現れた。機械視点から見ても全く原理は不明だった。特定のキーワードに反応して窓が現れるようだが、その際に桐彦のシステムになんら反応はなかった。
桐彦の窓には『類まれな刀捌き』と表示されていた。
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