機械戦争を駆けた半人半機の侍が行く異世界奇譚
Leiren Storathijs
プロローグ
日々続く終わりの見えない戦争。人類はただ戦いのために武器を、装備を作り上げ、兵器を開発した。核弾頭ミサイルが撃たれるのは最早日常。
核の爆風は多くの命を吹き飛ばし、数多くの文明を消滅させた。
人類は衰退、人は脳を機械に埋め込む技術を開発し、肉体と脳さえあれば無限に戦い続けられる力を生み出した。
最早それは命の冒涜さえも超え、偉人の墓を掘り返すまでに至った。
そこである日掘り返されたのは、無銘の侍。彼は機械と人間が融合した姿で、魂を強制的に目覚めさせられた。
「敵国を滅せよ。これからお前を攻撃する物は全て敵と見ろ。これは命令である。拒否権は無い」
目を覚ますや否や、酷く荒廃した高層ビルの街並みと、燃え上がる炎の中で聞こえる声は、まるで生気の感じられない無機質。
彼は勿論拒否した。しかし脳に刻まれた絶対的な命令に対して反することは出来ず。
「分かった」
即答してしまう。
腰に携えるのは一本の大太刀。それをおもむろに引き抜けば、何故か身体はそれを適応する。肉体など大昔に滅びたというのに。
敵。それは自分と同じような体をした機械の兵士だった。からくりならばと彼は一切の躊躇い無く両断する。
散る火花と、弾け飛ぶ鉄くず。彼はただひたすら敵対する機械兵を、無限に湧き上がる体力で破壊し続けた。
これらの業績は味方の政府に目をつけられ、彼は改造と修正を繰り返されるようになった。
月日は十年流れ、彼は無敗で最強の機械兵と名を馳せる。しかしそれを敵国は重要な脅威とみなし、彼は敢え無く集中的な猛攻によりついに破壊された。
何故自分は機械として生き返ったのか。この戦争の先には何があったのか。敵国とは何者だったのか。戦い中で浮かび続けた疑問は全て無へと帰した。
しかし彼はすぐにまた目を覚ますことになる。戦争は終わったのだろうか? 彼の目前に広がる光景は、また異国の地だった。
足下から伸びる赤い絨毯に、豪華絢爛に装飾された調度品の数々。真っ白な大理石の床に、黄金に輝く壁と燭台の火。
正しく王の間に相応しく、最奥の玉座にはギラつく冠を被った。如何にもな男が座っている。
そしてすぐに自分以外の人間も周りにいることに気がつく。
一人は学校の制服を着た、茶髪の青年。青年は王に呼ばれると、すぐに膝をついて項を垂れた。
「秋風 伊織(あきかぜ いおり)。勇者としてここに召喚されました。俺は危機を救うために魔王を倒すことを約束します」
「おぉ、既に分かっているとは話が早いな。改めて。諸君ようこそ我が王国へ。今、我々は魔王の日々続く侵攻によって、いやこの世界が危機に瀕している。
だから私はそれぞれ別の世界から勇者とその味方を転生させた。皆の者よ。期待しているぞ」
まるで王の言っている言葉の意味は全く理解できない。そんな考えを弁明するかのように、金髪のロングストレートをなびかせて、エメラルドに輝く瞳を持つ少女が叫ぶ。
「待って下さい! 魔王ってなんですか? これから戦うのですか? 貴方は誰で、此処は何処なのですか!?」
「王の許可無く質問するなッ!!」
しかし少女の言葉は、銀色の鎧を全身に纏う兵士に遮られた。またそれを制する王。
だが、王もまた意地の悪い口を開く。
「はて、我の命令に疑問を呈するか? それは貴様が弱者であると認めているものであるぞ。我は戦も出来ぬ、心の弱い者は呼んでいないはずなのだが……済まないがそんなものは処分せざるを得ん……」
これから世界を救うという者さえも酷く見下す目。疑問や無知など絶対に許すつもりはないようだ。
そんな光景を侍は黙って見つめるが、勇者は慌て始め、誰がこの場を制するかと思えば、火に油を注ぐような言葉が、青紫色のロングローブを着込んだ茶髪ポニーテールの女が言う。
「おい。貴様は王なんだろう? 儂たちは貴様らを助けてやるというのに、その態度はなんだ? 儂の力であれば、この場の火の海にすることだって出来るのだぞ?」
当然ながらその言葉に王の額に青すじが立つ。
「ただの雑魚共がイキがるな!! ここは貴様達がいた世界とは別なのだぞ? 魔王も国情も、なにもかも知らない無知共に我々が負けるとでも? 勇者よ!! 何をさっきから突っ立っておる! 早く行けえ!!」
「ひいぃ! す、すみません! それではまた!」
そうして勇者は驚きながら金髪の少女とローブの女、そして侍を引っ張って建物の外へ走り出た。
勇者は息が切れ、少女も息を整え、ローブの女は悪態を吐きながら、侍は一切の反応を見せず。各々外へ出ると勇者は叫ぶ。
「何してんだよお前ら! 勇者の物語が始まるってのに、最初に出会ったパーティが全員王に反発するなんて展開聞いたことねぇぞ!? っはぁ〜……マジで台無し」
勇者は大きく溜め息をつき、近くのベンチに座り頭を抱えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます