第2話
現実を見なければならない。
私の名前はジネヴラ。
名前は親友から名付けられた。私はその名前以前は名無しであった。
今の状況、月明かり、夜。
空気の冷たさ。
目の前には親友の遺体。
遺体の胸に刃で刺して切った深い傷に、その部分はあるはずの臓器はなく、空。
空なのは私が刺して切って臓器を取り上げたからだ。
だから今の私の両の手は親友の血で染まっている。なんなら頭も顔にも血を浴びている。
さっきまで生暖かったが早くに冷め寒い。
親友の血は取られた臓器を取り返すように私の体温を奪う。
私は親友を殺した。
これには変わりはない。
青白く動かなくなった親友、彼女の名前はジェーン・ドゥ。
石造りに割れた窓から差し込む月明かりと夜風は動かなくなった彼女を弔う。ジェーンの金髪は僅かに風に揺れるだけだった。
私は動かなくなった親友を眠りやすそうにきれいに整えた。木製の古くて傷だらけのテーブルに寝かせた。大きさは大人二人分だったので彼女の小柄な体にはきれいに収まる。
髪も服もなるべくきれいにした。
そして私は前髪をどかして額に軽く口づけをした。唇や傷口にと考えたが踏みとどまった。それ以上の事をしといて何を踏みとどまっているのだろう。
だがやはりやめた。
右手には慈悲の剣、左手には白かったガーゼ。白いガーゼのハンカチに親友の心臓を包んでいる。
寒くないように。
人気が無くなったこの襤褸家には要はない。
私は生け贄を捧げる前に殺したから、この場を去らなければならない。出よう。
傷だらけで少し青緑に錆びた冷たい銀色のドアノブに手をかけて、名残惜しく振り向いた。
崩れた白い土壁、クモの巣がついた掃除の行き届いていない天井の木、二人で散々踏んだ木の床、質素な木製の椅子や箪笥、焦げあとがある調理用暖炉のレンガ、日用品の棚。
年月が経っている。
その年月を破壊するかのように部屋の中央に置かれた親友の遺体を乗せたテーブル。
一通り見てから私ジナヴラはこの襤褸家から出た。剣と心臓は忘れず手放さないように。
ジェーン・ドゥは私が。
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