第3話

ジェーン・ドゥの墓となった襤褸家は雑木林に囲まれている。襤褸家の周りには一緒に花の種を蒔いてからは白い花畑がある。どこから来たのかわからない野草の黄色や桃色などの色の花も混じって咲かせている。


ここの木に止まっている鳥たちは普段は朝になると鳴き声が重なりにぎやかでうるさい。

鳥の鳴き声が私が墓と化した家から出た時に一斉に鳴く。

私の体を刺すように。

月明かりも私を刺す。

月明かりで私の姿が暗闇から浮き上がる。

ジェーンからは生まれつきの私の目を石榴石みたいでキレイだとよく誉めてくれたなと手元に抱えた彼女の一部を見て思い出した。


花畑の向こう側にこの領域から出る道がある。私は花を踏みつけながら歩いた。歩いた後の花は茎が折れ、緑の道が出来る。

花は意外と丈夫だ。

見た目とは裏腹にただ枯れるのを待つだけでなく、生きようとする強さがある。花を踏みつけながら花畑を抜けた。


白い鷺のような白鳥のような大きい鳥が私の目の前に通すまいと翼を広げて、ギェー、ギェーと汚い鳴き声をあげている。

一目見るとこの世の鳥ではないと思ってしまう。だが私の見えている世界には存在してしまっている。

その証拠にこの鳥には目が三つに翼が四つだ。翼を広げて威嚇のつもりなのか何度も羽ばたくような動きをする。

羽も抜け落ちる。


しまった。天使だ。


私はミゼリコードを強く握る。

剣の刃と柄の間についたシリンダーの中の液体の残量を確認を軽く目視をする。


大丈夫、まだある。


銀色の剣の柄の引き金を引く。引き金を引くと刃にしかけてある管にシリンダーに入った液体…薬が降りてくる仕掛けとなっている。

もちろん、シリンダーの薬が空でもそのまま剣として凶器になる。


刃の管が満たされ、滴る。

片手で剣を振り払い、月明かりを滴で飛ばす。


天使は私の持っている親友の心臓を狙っている。内密にやってきたつもりだが、どこから嗅ぎ付けて来たのか。天からの使いはお見通しと言わんばかりに立ちはだかる。


渡すまい。

約束をしたのだから。


天使…いやトリと呼ぶことにしよう。

トリは破魔の矢を射つ。流れ星のような暖かい日差しのような光を射つ。それに当たると勿論、人体は破損するし、最悪打ち所が悪ければ普通は死ぬ。

破魔の矢を人に射って効くかはこの国の人間の業に因るものらしい、が私からすれば知らない。


トリは4枚の翼を広げ、白い長い首を天に向かって伸ばしている。このトリは破魔の矢を射つことが出来る下から…2番目の天使のようだ。

夜風が木の葉を叩く音を鳴らせている。


遅い。


トリの首を目掛けて、ミゼリコードを振るう。流れ星ほどの動きは出来ないが突発的に動ける。

トリが鳴き声を上げ、翼をはためかせながら首を間一髪のところを避け、変わりに自慢らしい翼と矢を捨てた。

破魔の矢は私に当たらず、後ろの花畑の上を通り、雑木林の木に当たった。その衝撃で鳥たちは鳴きながら影を作りながら飛んでいった。

天使にも天使なりのプライドがあり、翼が失うぐらいなら潔く首を差し出す話を聞いたことがあるがこいつはそうじゃないようだ。

トリは翼があった場所をもごもごと芋虫みたいに動かしては、赤い花びらを撒き散らしている。動転している。


二回目、首をめがけて剣を横に切り払う。

トリはまた光る矢を射とうとしたが私が先に首をはねた。頭と体は二つに別れ、切り口からは赤い花びらをどくどくと脈打ちながら撒き散らしている。


念には念を。


鳥の躯、先ずは頭を刺した。

次にはご自慢の翼、残り3枚を切り離す。

脚を切り離し、腹を切り裂く。

腹の中から、トリと一体化した人の手らしき物が出てきた。これを何を意味するかは私には関係ない。

トリの眼を確認した。

眠っている。よし。


片腕の中の赤く染まったガーゼの中を確認し、まだここにあると安心した。

浴びた赤は相変わらず乾かずに体温をかすかに奪う。冷たさと寒さが心地いい。


白い羽と赤い花畑を踏みつけて歩き出す。

振り返らない。

花は強いのだから。

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