第51話 神の怒り



メメシアは激怒した。

必ず、かの邪知暴虐の魔女を除かなけらばならぬと決意した。


メメシアが強く握りしめられた拳、その手のひらから血が滲みだす。

その血は宙を舞い、メメシアの頭上で円を描く。

そして、赤き光輪と化した。


「・・・デウス・・・ロヴォルト!!」


メメシアの背後に巨大な赤い光の十字架が出現するのよさ!


「あれか、あれだな・・・やべえタイプの聖人覚醒じゃねーか!」


魔女は魔法の蝋燭に火を灯し、陰を作り出したのよさ!

その陰の形が変化し、そして、黒い色のドラゴンの亜種、リンドヴルムへと変貌したのよさ!

そして、リンドヴルムは口から毒の煙を吐き出したのよさ!

メメシアはあっという間に毒煙に飲み込まれたのだけど・・・


「クルクス サクラ シト ミヒ ルクス」


メメシアが祈りの言葉を述べると、毒煙は光に包まれ、かき消されたのよさ。


「ノン ドラコ シト ミヒ ドゥクス」


祈りの言葉が続くと、リンドヴルムはもがき苦しみ始め、そして、陰へと戻ったのよ。


「なんだ?なんだなんだ?何という強力な力・・・だが、俺様の魔法、多くの生贄によって強大な力を得たこの魔法にはかなうわけながいのだ!!」


メメシア静かに魔女を指さした。


「ヴァーデ レトロー サタナー」


祈りの言葉の続きを言うと同時に、メメシアの光輪は大きさを増し、空から無数の赤く輝く十字架が降り注ぎ、強盗や、異形の強盗共を刺し殺したのよ!

魔女は白い光を浴び、もがき苦しみ始めたのだわさ!


「これ以上やらせるか!」


魔女は炎を放ち、メメシアを包み込むも、炎は2つに裂けるように別れ、周辺の盗賊共を焼いたのよさ。


「ヌンクゥアム スエード ミヒ ヴィーナ」


続くメメシアの祈りの言葉。

夜空が裂け、メメシアに向かって一直線に白い光がさす!

そのあまりの明るさは、まるで、メメシアの周辺だけが昼間になってしまったようだったのよさ!

もはや、魔女になす術は無かったのよ。


「スント マラ クゥアエ リバス」


魔女の体中の関節は全て、あり得ない方向へ曲ってしまったのよ。

ギギギギっと、鈍い音と共に、絶叫し苦しむ魔女・・・

魔女はまるで、人とは思えない声を出し、命乞いをするも、それはメメシアに届かないの。


「イプセ ヴィネーナ ビバース」


とうとう魔女は、手に持っていた蝋燭を自らの口の中に突っ込んでしまったのよ。

いや、そうするように操られたのよ。

恐怖に歪んだ顔を晒し、魔女は蠟燭をのどに詰まらせ、事切れたのよさ。

そして、魔女の姿はおっさんへと変貌したのよさ・・・

これが、悪しき魔女の正体だったのねぇ・・・


この光景を目の当たりにした強盗共の生き残りは、全て武器を捨て、逃げ出してしまったのよさ。

メメシアの姿は善良な村民達ですら恐怖し、村民達はひれ伏したのよ。


メメシアは奇跡術を解除し、一瞬だけ空が昼間のように明るくなった後、再び夜空へ戻った。

赤色の光輪と光の十字架も姿を消したのよさ。


「メメシア・・・あんた、こんなに強い力を・・・」


っと、メメシアを見ると、頭、両手のひら、両足、そして腹部から出血していたのよさ。


「メメシア!怪我をしてるのよさ!どこかでやられたのかね!?」


「マジョリン。これは聖痕です。少し、力を使い過ぎました。少々、休ませてもらいますね」


そう言って、メメシアは血の涙をダバダバたらしながら、その場に倒れたのよさ・・・

メメシアはそのまま教会に運ばれたのよさ。

教会の祭壇に急遽ベッドを運んで、そこにメメシアは横たわった・・・

魔女を倒した知らせを聞いた村人達が教会に集まり、皆、メメシアに、そして三位一体の神に祈りをささげたのよさ。

もはや、メメシアは福者を越え、聖人に列聖される程の領域に達していると思うのだわさ・・・

村民達は夜が明けるまで、教会で、教会に入り切れなかった者は、その周囲で祈り続けたのよ・・・


夜が明けた時、何処よりも先に教会に日がさしたのよさ。

奇跡のオンパレードなのよ・・・


その後、元々盗賊だったものは、村人達によって燃やされ、二度と蘇る事の無いように、川に散骨されたのよさ・・・


こうして、脅威の黒魔術強盗団は壊滅したのだわさ。


メメシアは、午後に目を覚ましたのよさ。


「起きた?メメシア、大丈夫かねぇ?」


「ナマスカール。メーンティークフーン」


「ダメだわさ。まだ、奇跡の残留要素があるのよ・・・」


「あ、ごめんなさい。グロソラリアが出てました」


「そんなにポンポンと奇跡を連発しないでなのよさ・・・」


「こればかりはわたくしも制御はできません。ただ、神のおもむくままに、なすがままにです」


メメシアは起き上がったのよさ。

血の跡で顔が真っ赤なもんで、あたしゃ湿らせた布を手渡して、顔をぬぐわせたのよ。

するとビックリ、メメシアが顔を拭いた後、布に救世主の顔が現れたのよさ・・・

奇跡が止まらんのよ・・・


教会の外に出たのよさ。

村民達はメメシアを拝み、空から1羽の白いハトが、小枝をくわえて舞い降りて来たのよさ。

どうやらまだ、奇跡が止まらないようなのよ・・・

そこで、あたしはふと思いついたのよさ。


水差しに水をいっぱいに入れて、メメシアに持たせたのよさ。

すると、水差しの中の水がワインに変わったのよ。


「おお・・・奇跡だわさ」


「マジョリン・・・わたくしの奇跡を悪用してます?」


「え?あ、いやぁ~・・・」


試してみたと言えば、神様を試しているにつながって不敬にあたるし・・・正直に奇跡で出来たワインが飲みたいと言うのもあれだし・・・


「な・・・なすがままに・・・」


「なすがままですか?」


「・・・体が勝手に」


「導かれたのですか?」


「・・・・・・・・は・・・はい」


神様、ごめんなさいなのよ。

後で懺悔しますのだわさ。


「あ、あ、導かれてるのよさ」


あたしは水差しのワインをグラスに注いで、そんで1口・・・


「・・・う~ん、味は薄くて、ほんのりワイン風味って感じだわさ。鉄分濃いめな気がするのよ。う~ん・・・コショウをまぶしたいねぇ」


「何テイスティングしているのですか・・・まったく、あなたという人は・・・」


その後、このワインは村民に分け与えられたのよさ・・・



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