第47話 走れ、借金マラソン



「彼は今、この城で一番馬の扱いが上手い従者だ」


「ドモ、ハンスっす。よろしくっす。うっすうっす」


「お前もハンス・・・」


用意してもらった馬は、大きく、毛並みも良く、綺麗な瞳をしているよさげな馬なのよさ。

あたしはハンスの後ろに乗って、ハレルはヘーニッヒの後ろに乗って、スタンバイなのよさ。


門の上から、リキムントが傭兵達に呼びかけるのよ。

しばらく話が続いたのよ・・・上手く行っているのか、行っていないのかよくわからないんだけどさ、リキムントが何か合図をして、門の跳ね橋がゆっくりとさがったのよさ。

兵士達は槍を構え、弓やクロスボウを構え、緊張感の中、馬は走り出したのよさ。


傭兵達は少し引いて、あたし達が通る道を開けていたのよさ。

そのまま2頭の馬で山道を素早くかけて行ったのだわさ。

どうやら交渉は上手く行ったようなのよねぇ~。


しばらく山中を馬は駆けたけど、ある程度城から離れた所で減速したのよさ。

そして、町に到着したのだわさ。


城壁に囲まれた町の中心は、城では無く教会で、とんがり屋根の先っぽに十字架が掲げられているのがよく見えるのよさ。

小川のほとりで水車がゴトゴトと動く粉ひき所に馬をあずけたのよ。

粉ひき所の主人はヘッデル一族と仲が良いみたいで、馬用のパンなんかも用意していたのよさ。

ハンスは馬と一緒にあずけられ、あたしとハレルとヘーニッヒは小川にかかる橋を渡って町へ入ったのよさ。


「この町は、季節ごとに市場が開催されまして、その時は多くの人で賑わうんですよ」


っと、ヘーニッヒが説明してくれるのよさ。

しばらく歩くと、大きな館にたどり着いたのよさ。


「ここが商人の館です。リーソクという商人が主で、ここら辺の地域の騎士や小貴族などの資産運営に関わっています」


「それほど大口相手じゃないって感じなのねぇ・・・すぐにお金、出してもらえるのかねぇ~?」


「・・・聞いてみないとわかりませんね」


あたし達は館の戸を叩いたのよさ。

ドンドンドン、ドコドンドコドンドコドンドン

ズンチャッズンチャッズンチャッ

ドコドンドコドンドコドン

チャーーーーーン!


「うっせー!」


二階の窓から顔出したおっさんに怒られたのよさ。


「あれがリーソクさんです」


「リーソクさ~ん。お金貸してほしいのよさ~!」


「うるせーな!帰れ!」


そう言われても、帰るわけにはいかないのよさ。

まあ、中に入れてもらえないのも困るのよねぇ~。

あたしはもう一度、戸を叩いたのよ。

ドン、ドン、ドン、

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


「やめんかー!!」


戸が開いて、さっき二階から顔出してたおっさんが飛び出て来たのよさ。


「なんだお前ら!嫌がらせか!?」


「この人がリーソクさんです」


「リーソクさ~ん。お金貸してほしいのよさ~!」


「はあ?いきなり何を言うんだ?」


「とりあえず中に入りましょう。話せばわかってもらえるかもしれません」


っと、あたしとハレルはヘーニッヒについて、おっさんを押しのけて館の中に入ったのよさ。


「お前ら!いきなり上がり込んでなんだ!?衛兵ー!衛兵ーー!!」


「お金貸してほしいのよさ」


「貸してほしいって、お前ら、何処のドイツだ?!」


「彼は勇者ハレルです」


「ボクハレル」


「誰だよ!知らんよ!」


「彼はヘーニッヒ、騎士の倅です」


「ぼくはヘーニッヒです。フンバルト・フォン・ヘッデルの息子のヘーニッヒです」


「ヘーニッヒ・・・お前、ヘーニッヒだったのか?」


「はい。父からリーソクさんの事は聞いています。最後に会ったのは多分、ボクがまだ、物心がついたり離れたりしていた頃だと思います」


「そうだったか・・・しかし、金を貸してほしいって・・・それに、このお姉さんは誰だ?」


「お姉さん?・・・・あ、あたしか。あたしはマジョリン。魔法使いです☆」


「・・・まあ、いい。奥の部屋で話を聞こう」


そう言われ、客間に案内されるあたし達。

何が起きたかをリーソクさんに説明したのよさ。


「そうか・・・そんな緊急な事が起きていたのか・・・」


「だから、お金貸してほしいのよさ」


リーソクさんはしばらく考え込むのよ。


「貸したいのは山々だが、正直、返済される保証が無い」


「無い?無いってどういう事なのよさ?」


「辺境伯から、経費が落とせると言っていたが、当主亡き後、次期当主が正式に定まっていない状況だ。辺境伯が約束通りに支払うかもわからんし、そもそも、そのような約束がどのような内容かもわからん。戦費全額とは思えんのだよ」


「そんな・・・」


「それに、強盗団もまだ、健在なのだろ?最悪の場合・・・」


最悪の場合、借主が全滅するかもしれないっと、リーソクさんは言おうとしたのだろうねぇ・・・

けど、流石にそれは言えなかったようなのよさ。


「リーソクさん。ボクがいるんです。傭兵をはらって、城を開ければ、村の住民が非難する所も確保できますし、ボクと仲間で強盗団を撃退する事もできます」


「勇者・・・今、世の中にどれ程勇者を名乗る者がいる事やら。正直、君を信用できないのだよ。いざとなれば、逃げだすかもしれないし、立ち向かった所でどうなるか・・・」


すると、ハレルはカバンから、金の拍車を出したのよさ。


「これは、サビス卿から頂きました名誉です。ボク達は彼の領地から魔王軍配下の脅威を征伐しました。これが実績です」


「サビス卿?確か、テレ・フォン・サビス伯爵の事かね?」


「・・・爵位は聞いてませんでした」


「・・・怪しいとしか思えんぞ」


「・・・です・・よね・・・」


「それに、この拍車はメッキ物だろ?」


「え?そ、そうなんですか・・・純金じゃないのですか・・・」


「重さでわかる」


ハレルは落ち込んでしまったのよさ・・・


「えっと、リーソクさん?ちょっといいかねぇ?」


「なんですか?」


「この緊急事態に対応して資金を貸し、それがきっかけで盗賊団を撃退できたとなれば、あなたの名声もあがると思うのよさ」


「上がる?」


「辺境伯にこの話が伝わるのは確実なのよさ。すると、どうなるか・・・辺境伯は有事に資金を借りる必要がある職務なのよさ。これは、大口の顧客になる可能性があると思うのよ」


「辺境伯が直々に?それはありえんな。そんな爵位持ちはフッカーケ家のような豪商が付いている」


「何も、辺境伯だけが顧客じゃないのよさ。辺境伯の周囲にはどんな人達があつまるか考えてみるのよさ。ここら周辺の下級貴族よりもいい顧客がいると思うんだけどねぇ~」


「・・・まあ、そうだろうな」


「そういう上客と関係、持ちたくないのかねぇ~・・・?」


「・・・勇者は疑わしいが、あなたは本当の魔女だな」


「善良なる魔女なのだわさ」


「わかった。言いたい事はわかった。だがな、騎士が兵士を率いて勝てなかった相手だ。勝てる保証がいまいち感じ取れない。何かわかりやすい・・・そうだな・・・」


おや、中々手ごわい感じねぇ・・・

メメシアなら、どう言うか・・・


「勇者は神より授かりし力を有している特別な存在だわさ。そもそも、勇者に対して疑いを持つ事こそ不敬なのよさ。例えメッキであろうとも、彼の受け取った名誉を見下した事、その時点でよろしくなかったのよさ」


「そりゃあ、純金の拍車の方が信用できる」


「まあ、その程度の目なら、彼の真の実力なんか、どう試したところでわからないのよさ」


こう言っておいて、メメシアなら、商人、金貸しという所を思いっきり愚痴りそうって思うのよねぇ~・・・

まあ、それだと全部ぶち壊しそうだしねぇ~・・・


「これが何で出来ているのかが問題じゃないのよさ。これが誰から授かった物かが大事なのよさ。名誉は金じゃないのよさ。それを考えなきゃ・・・辺境伯に話が伝わっても無駄になるだろうねぇ~」


っと、ちょっと挑発的に言ってみるのよ。


「まった、ちょっと待ってくれ。少し考えさせてくれ」


「考えてる暇は無いのよさ!さあ、勇者を信じず、騎士を見捨てた不届きな金貸しになるか、平和の為に資金を用意した義商となるかはこの瞬間の判断に決まるのだわさ!」


「・・・わかった。少しここで待っていてくれ」


そう言って、リーソクさんは席を立ったのよさ。



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