第45話 ちっちゃい山の城



あたしらが城に向かって木々に囲まれた山道を歩いていると、城の正門だと思う所に出たのよさ。

でも、その正門の前にはゴロツキ共のような連中がたむろしていて、城の跳ね上がり式の門は閉ざされていたのよさ。

城の周りは溝・・・いや、水の無い空の堀が掘ってあって、落っこちると大変そうなのよさ。


「なんだお前達は?」


ゴロツキ共がこっちに目を向けたのよさ。


「ボク達は勇者をやっています。この周辺に出現しました魔女が率いる盗賊団について、騎士であるヘッデル様とお話ししたく来ました」


「それなら帰れ。ヘッデル様はお亡くなりになった。その魔女率いる盗賊団に返り討ちにあってな」


「でも、騎士のご家族や、この地域を守護する為に働く人達がいらっしゃるはずです。どうか、お会いできないでしょうか?」


「俺達に行っても無駄だ。俺達は金で雇われた傭兵だ。魔女の盗賊とやり合って、俺達にも被害が出ているんだ。それなのに約束された金が支払われていねえんだ。だからこうして、城を包囲している所だ」


すると、プロテイウスが前に出たのよさ。


「なんだ?てめえら、雇い主を守れずに生意気な事をやってんじゃねえか。そんな醜態さらして、雇い主の城を包囲だ?」


「俺達は生活の為に戦ってんだ。金が出ねえなら、強気な態度で出るしかねえ」


「魔女の盗賊団相手にしっぽ巻いて逃げたクセにか?」


「んだと?」


「ちょっとちょっと、何喧嘩始めようとしているのよさ!よしなよ~!」


すると、城の門の上から、あたし達を覗き見る人の姿があったのよさ。


「そこの人、勇者とか申してましたか?」


その声は、まだ幼さが抜けない少年の声だったのよさ。


「はい!一応、勇者やってます!」


っと、ハレルは城門に向かって大きな声で返事をしたのよさ。


「勇者さんと、その仲間だけ入ってください」


城門の上にクロスボウと弓矢を構えた兵士が4人程姿を見せる。

そして、ゆっくりと城門の跳ね橋が下がったのよさ。

槍を持った兵士が2人、あたし達を手招いていて、あたしらはそそくさと跳ね橋を渡ったのよさ。

あたし達が渡った後、すぐに跳ね橋は上げられ、門は閉ざされたのよさ。


城門の上であたし達に声をかけて来た人物は、すぐに城門から降りて来たのよ。

ハレルよりも幼い男の子だったのよさ。


「勇者様、よくいらしてくださいました。ぼくはヘーニッヒと言います。この城の主の子です。ここではいつ、何が飛んでくるかわかりません・・・どうぞ城の中へ上がってください」


あたし達はヘーニッヒに招かれ、城の客室に入ったのよさ。

客室に入ると、2人の女性と1人の鎧を着たおじさんが挨拶に来たのよさ。


「どうぞ、席におかけください。彼女はぼくの姉のイモーデと召使いのスカシ。後、オジのリキムントです」


あたし達も自己紹介をしたのよさ。

そんで、強盗団が町を襲うかもしれない事を話したのよ。


「そうですか・・・ぼくの父、フンバルトは死んだと傭兵達は言っています。何か知っていますか?」


「ボク達も人から聞いたから・・・ただ、強盗団と戦った中で、唯一の騎士だった人は・・・その・・・勇敢に討ち死にしたと・・・」


ヘーニッヒはしばらく黙ったのよ・・・

そのしばらくの沈黙の後、ヘーニッヒは再び口を開いたのよさ。


「その・・・騎士の方はどのように戦っていたとか聞いてますでしょうか?」


流石にハレルは話しにくそうだったので、メメシアが代わりに話す事になったのよさ。


「わたくし達が聞いた話では、その騎士は勇敢に立ち振る舞い、盗賊や魔女の使い魔をなぎ倒し、魔女の首を狩る直前で力尽きたとの事です」


「そうでしたか・・・勇敢に・・・・」


まだ、幼い少年が突然背負う事になったものは大きすぎるのよさ・・・

すると、彼のおじのリキムントが代わりに話し始めたのよさ。


「今、この城の周りにいる傭兵達は、資金の支払いの予定日を切り上げて請求してきているんだ。本来なら、強盗団を討伐した後に、辺境伯から予算が降りる事になっている。だが、傭兵達は魔女に目を付けられたと怯え、早く資金を得たいと考えているようだ」


「この城には金目のものはあるのかねぇ?」


「いや、そこまで無い。むしろ、借金の方が多い。だが、このままでは傭兵達が城を乗っ取り、なけなしの財産を奪うだろう。それに足らず、ふもとの村も襲う事は目に見えている・・・」


盗賊を狩る為の傭兵が、盗賊になっちゃうのねぇ・・・


「どうにかして、資金を用意する方法は無いものかねぇ・・・」


「町の商人に言って、借金をするしかない・・・ただ、借金をするには家主のサインが必要になる・・・」


「それは困りましたね・・・」


「そしたら、ボクが借金する事は出来ないかな?」


突然のハレルの発言にみんなびっくりしたのよさ。


「ボクが借金して、資金を用意して、傭兵に支払う。その後、ボクが辺境伯に話して、借金を返済してもらう・・・こういう事はできないかな?」


「でも、商人が勇者の肩書だけで出資してくれるかねぇ・・・?」


「前にもらった金の拍車があるから、それを担保にできないかな・・・」


「ハレル。気持ちはわかるが、まともな仕事ができない傭兵連中にそこまでして支払うなんて馬鹿げてるって思うぜ。それに、あいつら、金が手に入ればすぐに去っちまう戦力にもならねえやつらだぜ」


だからって、放っておいてもねぇ・・・

まあ、この城は小さめだけど、攻めにくいだろうし、傭兵の人数を見るに、ゴリ押しで攻めきれるようには思えんのよさ・・・


「大変です!傭兵連中が何か準備を始めました!」


「準備って・・・」


「投石器を組んでいると思われます!」


そいつは、大変だわさ!



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