第44話 聖水が邪魔になった件



夜が更け、あたし達は村の片隅で野営して、そこで過ごしていたのよさ。

あたしが上手い具合に飲みにケーションしていたら、空家ぐらい貸してもらえたかもしれないのにねぇ・・・


そんな事を思っていると、何か村の方で騒ぎがあったのよさ。


「ハンスが帰って来たぞ」


どのハンス・・・・


どうやら、独断でさらわれた人達を探しに行ったハンス達が帰って来たみたいなのよさ。

そんで、彼等が話したのよさ。

ハンス達は森の奥にある洞窟へ行ったのよ。

そこで、盗賊達が何か儀式をしていたそうなのだわさ。

すると、騎士達が兵士を連れてやってきて、強盗団を襲撃したそうなのよさ。

強盗達は人質を盾にして、クロスボウや弓矢で抵抗したそうだけど、騎士は人質を馬で踏みつぶし、強盗連中をメイスで殴り殺しまくったそうなのよ。

このまま強盗団を全滅させるのかと思った時、洞窟の奥からその場に似つかわしくない美女が出て来たのよさ。

ハンス達曰く、魔女との事。

彼女は両脇に大きな黒い山猫のような生き物を連れていたそうなのよ。

すると美女が、

『行け、ヤークトパンター!』

っと、黒い山猫に指示を出したそうなのよさ。

黒い山猫は騎士に飛びかかり、騎士を騎乗から引き下ろしたそうよ。

でも、騎士もそう簡単にやられず、腰の剣を抜いて、山猫を刺し殺したそうなのよ。

もう1匹の山猫は徒歩の兵士達に襲い掛かって、それらを蹴散らしたそうなの。

そんで、地に降りた騎士は、もう1匹の山猫にも斬りかかり、それを斬り伏せたそうなの。

騎士が強いのよさ。

でも、騎士の活躍もここまで。

魔女が火を灯した蝋燭を持ち、呪文を唱えると、蠟燭の火が無知のように伸びて、騎士を包み込んでしまったのよ。

騎士は鎧を加熱され、蒸し焼きにされちゃったのよ。

強盗達は多く死んだんだけど、洞窟の中に、まだ何人も隠れていたようで、それも黒魔術で肉体教化され、人に非ざる姿をしていたそうなのよ。

騎士がいなくなった後は形勢逆転で、兵士達は異形の強盗達に血祭りにあげられてしまったとの事だわさ・・・


「マジョリン。この話で何かわかることは?」


「そんな禁術、生贄を使って行う術だと思うのよさ・・・」


それも結構な魔力が必要になるはず・・・

すなわち、人質は全滅確定でもあったのよさ。

もう、この村にはハンスしか残ってないのよさ・・・


「やつらは、生贄にする為に人を捕まえていた・・・恐ろしい連中だ・・・」


「しかし、騎士の軍勢に勝ったとなれば、やつらはどう出るだろうか・・・」


「プロテイウス、どうしたのよさ?」


「今聞いた話し、強盗連中の人数が多い。それに、被害が出て、攻めて来た連中を返り討ちにしただけじゃ強盗連中に利益は無い。下手すれば、その連中を集めて攻めに出るかもしれねぇって思ってな」


「攻める?この村をかねぇ?」


「この村は論外だろう。もはや強盗連中にとっての利益が無いぜ。この近くに町はあるのか?」


「それなら、南に行った所にここよりも大きな村があります。その村の山に、ここら辺に領地を持つ騎士が住んでいます。多分、今回兵を率いた騎士だと思われます。確か、ヘッデル一族と言ったはずです。彼等は普段、農業をして暮らしているそうですが、ダイムラー辺境伯領で問題が起これば兵を率いて戦います」


「そうなのですね」


「もし、強盗団を迎え撃つつもりでしたら、ヘッデル一族と話した方がいいと思います」


そんでもんで、あたし達は早朝、南にある村に向かう事になったのよさ。

ただ、厄介な事に、メメシアが作った樽1杯分の聖水を持って・・・

村から樽をもらって、結局プロテイウスが背負って運ぶ事になったのよねぇ・・・


「クソ重いぜ・・・」


「あなた、わたくし達と出会った時、牛車を人力で引いていたじゃない。大丈夫でしょ?」


「背負わせておいてよく言うぜ・・・そもそもあの時とは距離が違うんだよ」


「汚した牛も背負っていたじゃない」


「だから・・・距離が・・・・」


「何それ、負傷した牛背負って、牛車引いてたって・・・」


「我々が初めてプロテイウスと出会ったときですよ。道で牛が負傷して動けなくなって困っている人を彼は怪力で助けたんですよ」


「そ、そんな事、あったっけ・・・」


「あなたは酔いつぶれて寝てましたからね!」


「っひ!」


「まあまあ、そんな自慢するような話しじゃあるめえ」


「プロテイウス・・・心優しき怪力戦士だったのねぇ~」


「そんなんじゃねえよ・・・ったく・・・」


しばらく歩き続け、あたし達は南の村に到着したのよさ。

まあ、広い畑を有した大きめの村なのよさ。


早速、第一村人と遭遇したのよさ。


「おや~?おみゃ~ら~も傭兵隊か~の~?」


「いや、違います」


「そ~け~。傭兵隊け~。あんな~、傭兵隊は山のよ~、騎士しゃまのよ~、城のよ~、周りにたむろってるんでよ~。その樽は酒かの~?はよ届けてやりんしゃ~い」


「いや、聖水です」


「はあ~~~?」


村人のばあさんはこっちの言葉をあまり理解していないようだったのよさ。


「でも、なんで傭兵隊が騎士の城へ・・・?」


「やはり、盗賊討伐の為に兵力を増強させたのかもしれんな」


そうねぇ。

やはり、魔女が盗賊を率いているってのは脅威だもんねぇ・・・


「ちょっと、休憩していいか?流石にくたびれたぜ・・・」


すると、メメシアがプロテイウスに塩をふりかけ、祈祷したのよ。


「・・・強制的に体力が回復してゆくぜ」


「恐ろしい強制労働を見てしまっている気分なのだわさ・・・」


あたし達は城へ続く山道を進んだのよさ。


「ねえ、この森、なんか綺麗だね」


っと、ハレルがキョロキョロしているのよさ。


「そんなにキョロキョロしていると、田舎者と思われますよ」


「いや、ここが田舎だわさ」


「しかし、ハレルの言う通りだ。森の手入れがよくされているぜ」


「そうですね。林業が盛んなのかもしれませんね。適度に間伐してまして、いい木材に育っているように見えます」


「メメシア、相変わらず詳しいのねぇ・・・」


「山に籠り、修行をした結果です。木は成長に何年もかかります。ですが、切って使うのは一瞬です。もっと、この森のような管理された森を増やさねば、いずれは人が使える木材がこの世から消滅するでしょう」


「そんなそんな、おおげさなのだわさ~」


「大げさではありません。この事を理解してくれる人は今、この世界にどれ程いる事でしょうか・・・」


そんな話をしながら歩いていたら、城の近くに到着したのよさ。

そこで、あたしらが見たものとは・・・



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