第32話 火獄の木
明朝、あたし達は宿を出て、アリフレッタ村に向かったのよさ。
森の小道を抜けると小さな集落があったのよさ。
それがアリフレッタ村なのよね。
村人達はみんな、気楽にのんびりと過ごしている様子で、歌ったり踊ったりしている人達もいるのよねぇ・・・
これは変だわさ・・・
正直、こんなぐうたれた村、はじめてみるのよ・・・
「誰一人として仕事をしていない・・」
メメシアはすぐに異変に気が付いたのね。
例え、宗教改革だろうとも働きはするし、生き生きと仕事するとすら聞いた事があるのよね。
もう1つ思い浮かぶのがあるんだけどさ・・・
「これは、初め人間派かねぇ?」
「いえ、違うと思うわ。初め人間派は全裸で文明社会を捨てるような人達だけど、この村人達は文明に甘えている・・・」
「そもそも、働かないと食べものに困るってのに、これは食べるに困らない状況って考えたほうがいいんじゃねえか?」
っと、プロテイウスが鋭い意見を述べたのよさ。
やはり、傭兵として、食う為に戦って来たやつは言う事が違うのよねぇ。
「食べる者に困らない・・・天からパンでも降って来るのかしら?」
メメシアは変な事を言っているようだけど、かなり真面目に考えているのよさ。
聖書的に真面目な考えなのよねぇ・・・
そんな感じであたし達が考えていたら、村人達がぞろぞろと近付いてきたのよさ。
「おお、お客様だ!歓迎せねば!」
「ようこそアリフレッタ村へ」
「うちらの村はみんな仲良し!」
「ようこそアリフレッタ村へ」
なんか、気味が悪い人達なのよさ・・・
「みんな、とりあえず教会へ向かうわよ。司祭に会って話を聞きましょう」
メメシアに従って、教会へ向かおうとしたんだけど、村人達が通せんぼするのよ。
「ようこそアリフレッタ村へ」
「ようこそアリフレッタ村へ」
「ようこそアリフレッタ村へ」
立ちふさがった村人達は同じことを言い続けるのよ・・・
これは気持ち悪すぎるのよさ・・・
メメシアは強引に村人達を押しのけ、教会へ向かったのよ。
あたし達も後を付いて行くけど、村人達もぞろぞろと付いてくるのよ・・・
教会の入り口で、メメシアは村人達を抑え込んで、あたし達に教会に入るよう言うのよ。
ハレルが教会の戸を開けた瞬間だったのよさ・・・
「な、なんだあれは!?」
ハレルが驚きの声をアゲアゲ。
あたしとプロテイウスも中を覗いてみたのよさ。
教会の中には奇妙な木が生えていたのよ。
そして、変な果実を実らせていたのよさ・・・
果実は人の顔のような形をしているのよ・・・
「初めてお目にかかる人達ですね。旅の人達ですか?どうぞ、この神の御業たる奇跡の果実を味わってください」
教会の中にいた司祭が果実を1つもぎとって持って来たのよ。
「わたしを食べてから先に進んでね!」
果実はそんな言葉を述べるのよ。
「みんな!それは危険だわ!中にある木を切り倒して!」
っとメメシアが大声で言うと、村人達が襲い掛かってこようとするの。
あたしが魔法で村人達を眠らせようとするも、効果が無いのよ・・・
「村人達はわたくしがここで足止めします!はやく木を切ってください!」
プロテイウスは司祭を突き飛ばし、ハレルと共に木に向かって行った。
「メメシア!あたしも手伝うのよ!」
「マジョリン!村人達は正気を失っているだけだから、あなたの攻撃魔法を与えるわけにはいかない!あなたはハレル達をサポートして!」
すると、村人達は大きく口を開いて、真っ赤な炎を吐き始めたのよさ!
メメシアは炎に身を包まれてしまうのよ!
「わたくしは厳しい修行を受けた身。これくらいの火でわたくしの肉体を焼く事など不可能よ!」
メメシア強い・・・
あたしはハレル達の援護に向かったのよさ。
すると、2人の動きが止まっていたのよ・・・
「わたしを食べて」
「仲良くしましょ」
「ボクの顔をあげるよ」
果実達が妙な事をしゃべっているのよね・・・
斬り込むには罪悪感が出るだけじゃないだろうね・・・
魔術的な感情操作効果もあるんだと思うのよ。
こんな不気味な果実を結局村人達は全員食べておかしくなった。
それには理性で制御できない魔術的力が働いたからとしか言いようがないのよ。
「ハレル!プロテイウス!ふせるのよさー!」
2人がふせた瞬間、あたしは魔法を唱えた!
「ブレンネンシュトゥルム!!」
炎の嵐を吹かせ、奇妙な木を燃やしたのよ。
だけど、これは最善策じゃなかったみたいなのよさ・・・
うぎゃーーーーーーっと、寄生を発する果実達!
果実達は口から燃え盛る油を噴き出したのよ!
ハレル達が危ない!
「メッサーヴィントホーゼ!」
竜巻魔法を唱え、噴き出された燃える油を巻き上げ、教会の屋根も吹き飛ばしたのよさ!
「今がチャンスだわさ!」
ハレルとプロテイウスが木に切りかかったの!
行く手を阻む枝をハレルは切り裂いて、プロテイウスが幹を大剣でぶった切った!
切断された木は、崩れ去るように黒い灰と化したのよさ。
「わ、私は何を・・・」
突き飛ばされて、転がっていた司祭が正気に戻ったのよ。
どうやら木を倒した事で、魔術的な感情操作効果が失われたようなのさ。
「これでなんとか解決って所か?」
「そうみたいだねぇ。ハレル、プロテイウス、グッジョブ!!」
「マジョリン!メメシアは!?」
「わたくしなら平気です」
振り返ればメメシアが・・・
メメシアの服は燃やし尽くされ、全裸になっていたのよさ・・・
「は・・・初め人間派!!?」
「マジョリン、冗談でもそんな事を言うと異端尋問ですよ?」
「あわわっ・・・」
生まれたままの姿のメメシアを見て、ハレルは顔を真っ赤にして、目を手で覆い隠したのよさ・・・
「メメシア・・・流石に堂々としすぎだぜ・・・その、隠す所は隠せよ・・・」
「それはあなた方に卑しい心があるからです。そうですね、イチジクの葉でもあればいいのですが・・・」
初め人間派かよ・・・
まあ、メメシアはそのまま司祭に何があったかを問い始めるのよさ・・・
いや、予備の服、あるはずだから着ろよ・・・
「お・・・ぱい・・・でか・・・い・・・」
「なん・・・だと・・・?」
「これは・・・聖母・・・?」
「・・・うそ・・・だろ?」
「ようこそアリフレッタ村へ・・・」
外にいる村人達も集まってじっと見ているし・・・
正気に戻ったのに、正気じゃなくなってるのよさ・・・
司祭の話では、前任の司祭が過去に第三王神殿騎士修道会に寄付金を渡した時、聖地回復運動の聖戦で得た宝として、変な大きな種を受け取ったそうなのよ。
それを地下に保管していたそうで、それが突然、木になって、実を付けたとの事。
気味悪い果実なのに、何故か食べたくて仕方が無くなり、司祭も村人達も果実を貪るように食したそうだわさ。
食べても食べても次々に実るので、食べる事に困らなくなったそうなのよ。
すると、他の食べ物は食べたい気持ちにならず、何故か喉の渇きが水では潤わず、血を飲む事によってのみ癒される状況になったそうだわさ。
メメシアが言うには、カイ教徒の地域にある地獄の木と呼ばれる木の魔物との事。
何はともあれ、村は救われたのよ。
メメシアはその後、予備の服を服をちゃんと着たし、ハレルは鼻血が出たけど、村は救われたのよさ。
ただその後、この村では全裸の聖母が悪魔の木を切り倒して村を救った伝説が語り継がれるようになったそうな・・・
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