第33話 愚者はかく語りき
――――旅の宿の食堂でマジョリンさんと再会できたのはうれしい事だった。
魔王様の為、アリフレッタ村の教会に納めてある邪悪なる木の種に外部から魔力を注ぎ、発芽させるのは結構骨が折れる所業であった。
村人達に警戒されぬように村を大きな魔法陣で囲うのだから。
教会不審にもつながりそうな手段を使っていく考えは今後の魔王軍の方針として確実なようだ。
「テジーナさん。仕事は順調に進んでいらっしゃいますぅ~?」
私に声をかけて来たのは娼婦のような服装に、ロバの耳が付いた被り物をしている愚者姫だ。
彼女も同じ魔王軍の仲間ではあるが、私は彼女があまり好きではない。
「愚者姫さんもこの近くで活動していたのですか?」
「あ~ら、イッヒは面白い事が起こるであろう場所にはいるんですよぉ~」
この態度が気に入らない。
主に態度が気に入らない。
「そうなんですか。何か、面白い事はありました?」
「ええ。順調に面白い事になってましてよぉ~」
何をやらかしたのだろうか・・・まあ、私には関係ない・・・
「よろしければ現場を見に来ますぅ~?」
「いや、遠慮しておきます」
「もぉ~、つまんない子ねぇ~。せっかくの魔王活動なんだから、楽しまなくちゃ!」
「楽しむって・・・」
「今回はとっても愉快な奇病を使ってみたのよ!奇病と言っても、魔法なんだけどね!結構大掛かりで、子供5人と羊3頭の生贄を使ったのよ!豪華でしょ~!」
平然と凶悪魔法に生贄を使える神経はどうかしている。
魔王にも大義があるべきと考える私とは相反する考えだ。
そして、何よりもこの態度が気に入らない。
「豪快ですね・・・そんな子供の生贄なんて、どこで手に入れてきたのだか・・・」
「簡単よ!買ったのよ!特に女の子は安く済むのよね!」
吐き気を催す邪悪とはこいつのようなやつを言うのか・・・
「綺麗事じゃ魔王軍の魔法使いは務まらないわよ~。もっと、悪に染まるべきですよぉ~。教会が望む悪魔の所業とやらをやってのけてこそじゃないですかぁ~」
「そんな事して、心は痛まないのですか?」
「痛み?笑っちゃう!むしろ喜びですよぉ~!生きがいを感じますよぉ~!」
「あなたは・・・まともな死に方、しないですね」
「ベッドで死ぬなんて、魔王軍らしくないっじゃーん!例えば、世界征服した後にも、内部抗争を引き起こしてでも争い続けるべきなのよぉ~!」
「私はあなたの思想は受け入れられないです・・・」
「人は苦しんでこそ救われる。魔王軍とは神の裁きの代行役。生きている内に幸せなんてありえな~い!でも、イッヒは幸せ~!地獄に堕ちるのも楽しみぃ~!」
ああ、こいつの思想は色々間違えている・・・
「ねえ、テジーナ。もっと人を苦しめる事に喜びを感じるべきなのよぉ~!」
「手段で喜びを得てどうするんですか・・・目的を達成してこそ得られる感情でしょう・・・」
やっぱりこいつとは気が合わないし・・・
なにより態度が気に入らない。
「私はそろそろおいとまします。まだ、やるべき事が多いので」
「そうなのぉ~?仕事に追い詰められて、仕事に殺されちゃうよぉ~?」
「仕事は戦いなので、時に命を落とす事はありえますから」
「まぁ~、頑張り過ぎないでねぇ~。あ、」
本当に気に食わないやつだけど・・・
私がやらない、出来ない事をしてくれるから、私は彼女の仕事を悪く言えない・・・
私は私の信じる行いをするのみ――――
☆☆
アリフレッタ村を救ったあたし達は森の中の宿に戻ったのよさ。
メメシアは巡礼者に扮した修道会の伝達者に報告していたのよ。
でも、何か話が長いのよねぇ・・・
他に何か問題でもあったのかねぇ・・・
「みんな。緊急事態よ。急いでいかなくちゃ」
そう言って、メメシアは宿を飛び出した。
あたし達は慌ててメメシアを追ったのよ。
「メメシア!緊急事態って何さ~!?」
「コノチカックの町で奇病が発生したのよ!」
「奇病!?それって・・・黒死病的なやつ!?」
「違うわ!集団タランティズムが発生したの!早くしないと多くの人が・・・」
「集団タランティズム?あたし達はどうすればいいのかねぇ?!」
「わたくしは回復の術を使って町の人達が亡くならないようにする。マジョリンはハレルとプロテイウスと一緒に原因を突き止めて!」
「わけわからない何かの原因を突き止めろって言われても困るのよさー!」
「そうよ。教会だってわけがわからないのよ。でも、何かやるしかないの!」
あたし達はコノチカックの町にたどり着く。
そして、異様な光景を目の当たりにしたのよさ・・・
多くの数の町の人達が踊りまくっているのよ。
老若男女問わず、服装からして、貧富の差も無く踊り続けているのよさ・・・
音楽も無く、むしろうめき声や助けを求める声がする中で、誰もがやつれて、踊り狂っているのよさ・・・
何故か、全身ずぶ濡れで踊ってる人もいるのよね・・・
絵で見た事があるのよさ・・・
死の舞踏・・・
「これは・・・何なのよさ!?」
「集団タランティズム・・・南の海岸地域では、毒蜘蛛タランチュラに噛まれた時の解毒の為の特殊なダンスに似た狂気的な踊りに似ているからタランティズムと呼ばれている現象よ・・・」
「え?何それ怖い」
「過去に発生した事例では、この踊りがはじまれば、死に至るまで踊りを止める事ができなくなるのよ・・・」
「ええっ!?何それ怖いっ!」
町の教会の司祭があたし達に気が付いて、駆け寄って来たのよさ。
「おおお、手助けに来て下さったのですね!?今、我々が悪霊を払う秘儀を行ったり、聖書を読み上げたりしていますが、全然だめで・・・今、聖水をたっぷりかけてみた所なのですが、それもどうやら効果が無いようです・・・」
だからずぶ濡れで踊る人がいるのか・・・
「やはり、過去の事例通りね・・・まさに呪い・・・・」
「おい!救援に来た教会関係者か?!うちの息子を助けてくれ!いや、うちの息子だけでも助けてくれ!」
わあお、典型的な上級民のおっさん登場だわさ・・・
高そうな服に、宝石がちりばめられたアクセサリー。
下品な金持ちって感じだわさ・・・
地方の小貴族ってやつかねぇ?
「すみません。まだどうなるかわかりません」
「おい!わからないってなんだよ!うちはそこらの庶民よりも金出して免罪符を買っているんだ!優先して助かるべきだろ!」
免罪符は高貴な身分になるほど金額は上がるからねぇ・・・
金を払って罪があがないゆるされる書状を購入しておいてこんな目にあえば、確かに文句だって言いたくはなるだろうし、息子を思うあまりに周囲が見えなくなるのも当然だけどさぁ・・・
だけどさぁ・・・やっぱ、みっともないよねぇ・・・
「最善は尽くします・・・」
「メメシア。あたし達が何をすればいいかまだわからない状態なのよさ。だから、解決方法がわからなくても、メメシアの知っているこの奇病について教えて欲しいのよさ」
「わかりました。突然踊りだして止まらなくなる奇病、原因は不明で回復方法も不明です。毒蜘蛛に噛まれた時の解毒の踊りに似ている所からタランティズムと呼ばれます。わたくしの知る限り、回復した事例は力尽きて倒れた後、瀕死の状態からの回復ですが、助かった件数は少ないです」
「うむむぅ・・・全然わからんのよさ・・・」
「魔女ならサバトで踊り狂うからそういう視点からわかるものがあるのでは?!」
「司祭さん?あたしは悪しき魔女じゃないので、教会の偏見的な魔女とは違う事をわかって欲しいんだな。それに、サバト関係に頼ろうとしない事だねぇ」
「っは、ごめんなさい」
もはや、みんなパニック状態なのよさ・・・
「おい、マジョリン!これはやべえぜ!」
「どうしたのよさプロテイウス・・・やばいのは見ればわかるってのにさ・・・ん?」
「踊りが止まらねえんだ!」
なんと、プロテイウスまで踊り始めてしまったのよさ!
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