第31話 宿場の酒場にて
宿場の別館にある食堂、夜も更けると酒飲み客で賑わっているのよね。
木こり達、家畜の運搬業者などが賑やかに飲んでいるのよ。
あたしは隅っこの席に座って、とりあえずビールを頼んでみたのよさ。
「お嬢さん、こんな野郎ばっかりの所、1人で勇気あるね!」
っと、店員のおっさんがちょっとウザ絡みしてきたのよねぇ・・・
「まあ、お酒が飲みたい気持ちが勝るからねぇ~。確かに強面な人達だけど、みんな美味しいお酒を飲んで語り合って楽しんでるだけだから、怖くないどころか、どこかかわいらしさも感じるのよさ」
「ガハハハッ!気に入ったぜ!おすすめの飲み方がある!ちょっと待ってろ!」
そういうとおっさん店員はビールの入った樽型のジョッキと、小さいグラスに注がれたコルンを持って来たのよねぇ。
「ビールを飲んで冷えた体をコルンで温めるんだ。これで美味しくビールを飲み続ける事ができるんだぜ」
おお、これはお師匠さんもよくやっていたやつだわさ・・・
お酒をチェイサーにお酒を飲む、これぞ酒飲みの極意だわさ・・・
これをやってのける酒飲みはワンランク上の酒飲みみたいな感じで、憧れはしてたけど、やった事はまだ無かったのよねぇ~・・・
あたしはまず、ビールを1口・・・
下品かもだけど、飲む時、ついついジョッキに口が向かって行ってしまい、口をとんがらがせてしまうのよねぇ・・・
並々に注がれたビールをすするように飲み始め、少し水かさが減れば少しジョッキを傾ける・・・
ゴクリゴクリ・・・
「っかーっ!やっぱ疲れた体にゃ~ビールが染みるねぇ!」
「お嬢さん、いい飲みっぷりだぜ!見てて清々しいぜ!ほれ、コォルの漬物はオマケだ。ゆっくり楽しんでくれよ!」
おっさん店員は小さなお皿にコォルの漬物を盛って出してくれたのよ。
ありがたいねぇ。
では、おっさん店員おすすめの方法をやってみますか。
コルンを1口、強い酒は喉を通ってお腹へ流れていくのが熱を感じてよくわかるのよねぇ。
その後にビールを1口・・・
「ああ、いいねぇ・・・涼しいさを体感した後に温もりを体感するような、体の奥がととのうのよさ・・・」
これこそおっさんの飲み方だと思って遠慮していた気持ちもあったんだけどさ、今では何故、これを今までやらなかったのかって気持ちになったねぇ・・・
また、酒飲みとしての実績があがっちまったのよさ・・・
†--------------†
Ⅰ実績のロックを解除しました!Ⅰ
Ⅰ Ⅰ
Ⅰ ビールのチェイサーにコルン Ⅰ
†--------------†
「あれ?もしかして、マジョリンさんですか?」
突然あたしに声をかけて来た黒服の魔法使い・・・
「・・・あ!もしかして、アートハイムで会った・・・えっと・・・テジーナちゃん!?」
「はい。そうです~・・・席、ご一緒していいですか?」
「どうぞどうぞだわさ!こんな所で会うなんて、なんたる偶然!」
前に知り合った飲み友達に偶然の再会とは、これはうれしい偶然だわさ~
「仕事でこの近くに用事がありまして~・・・あ、マジョリンさん、今、何を飲んでいらっしゃるのですか~?」
「あたしゃ今、コルンをチェイサーにビールをちびちびやってる所だわさ~」
「おお、それはまさに最強で無敵の飲んべぇ!」
「そんな大げさだわさ~。ただ、あたしの体が粘液と黄胆汁と黒胆汁と酒で出来ているってだけだわさ~」
「血の代わりに酒が流れているなんて、カリスマ~!」
どやっ!
「おだててないで、テジーナちゃんも何か飲みなよさ~」
「じゃあ、私は~・・・」
テジーナは店員を呼ぶのよ。
そして、注文は・・・
「ビールと・・・キルシュヴァッサーを!」
テジーナは満面のドヤ顔!
「キルシュヴァッサーとは、あたしが見習い魔法使いの頃の友達にお菓子作りが好きな子がいて、お菓子の風味付けに使っていたのを思い出すのよさ~」
「やっぱり、そういう使い方が先に思い浮かんじゃいますね~」
キルシュヴァッサーはサクランボの蒸留酒なのよさ。
コルンとちょいと違う風味があるのよねぇ~。
さっそく樽型ジョッキのビールと、小さいグラスのキルシュヴァッサーが到着なのよさ。
あたし達は軽く乾杯して、テジーナちゃんは美味しそうにビールのぐびぐびと飲むのよねぇ。
「っくは~!幸せ!もう、お酒が体を巡ってる感じ、最高ですね!」
「だよねぇ~」
「あ、キルシュヴァッサー1口、味見します?」
「いいの?ありがたく1口いただくのよさ~」
っと、もらい酒を1口・・・
うん、独特な風味、サクランボ感は全然無いと思うし、クセも強いと思うのよねぇ。
でも、これを飲んだ後、ちょいと間を開けてビールを飲む・・・
「あ~、いいねぇ~・・・コルンも悪く無いけど、キルシュヴァッサーをチェイサーにするのもありだわさ!」
「よかった~。マジョリンさんが喜んでいる姿、とても好きです。絵画にして飾れる程ですよ~」
貴族の絵みたいに描かれた酒をあおるあたしの絵・・・
うん、教会から悪魔的だってクレーム来そうだわさ・・・
その後、あたしもビールとコルンをおかわりして、テジーナにもコルンを味見させて、楽しく飲んでいたのよねぇ。
「マジョリンさ~ん。最近、教会不審とか、異教徒の勢力拡大とか、巷には暗いし妙に知的に偏ったような話題が多いですけど、どう思います?」
「う~ん、そうねぇ~。あたしゃ詳しい事はわからないけどさ、みんなが聖書読んで、色々議論したり、自分が正しいって思える信仰の仕方ができればいいんじゃないかな~って思うだけだわさ~。まあ、大きな声では言えないけどねぇ」
「改革派みたいな事、言ってますね」
「噂で聞いたけど、新しい航路を開拓する船団がいてさ、その航路が上手く行けば、世界を一周するって話しみたいじゃん?修道院とかそういう限られた空間に閉じこもって考えるより、無謀と言われるような大冒険する人達の方があたしは好きだねぇ」
「新大陸の話しは私も聞くの好きです。世界は広いから、変に固まった思想でいてはならないのかもしれませんね」
「そう、新大陸だって神様が造ったんだわさ。偉大なる神様の全てを知った気になってちゃ、それこそ神様の御業への冒涜だと思うのよさ」
あたし達は間違いなく異端者だと言われるだろうねぇ・・・
でも、なんかこういう所でも気が合うってのは、うれしい事だわさ・・・
「今日はお話しできてうれしかったです。美味しいお酒を飲んで語り合う・・・こんな素敵な事は他にありません」
「大げさだわさ~」
「では、そろそろおいとましますね」
「また、消えるのかねぇ?」
「え~、かっこつけたいじゃないですか~・・・あ、そうだマジョリンさん」
テジーナはあたしの耳元で一言、
「アリフレッタ村は危険ですので、近づかないでくださいね」
おや、明日行く村だわさ。
やはり、何か異変が起きているのねぇ・・・
テジーナはお別れのほほ笑みの後、小声で呪文を唱えたのよね・・・
「英知の領域、メンデルゾーン発動・・・」
そして、一瞬にしてテジーナの姿は消えたのよ。
テーブルに銀貨を置いてね。
「英知の領域ねぇ・・・多分、とんでもない魔法なのよさ・・・」
あたしはお会計をして、そんで、宿場の部屋に戻って寝るのよさ。
テジーナの素性はわからないし、あっちもあまり話したがらないけどさ、気が合う、それだけであたし達の絆ってやつは結ばれているのかもねぇ。
そんな、神様ありがとうって言える偶然だったのよさ。
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