第30話 旅人の宿やどっ!
森の中を進むあたし達。
途中で宿があったので、そこで今日は休息する事になったのよさ。
この集落から少し離れた宿は、林業関係者や季節の農労働者、鉱山関係者などが宿泊する宿なのよさ。
まあ、外見は綺麗だけど、治安はそこそこ悪いと言われているのよねぇ。
宿泊の手続きをしていた時だったのよさ。
「メメシア・・・勇者で宿泊する時は代表者の名前を宿泊名簿に書いてって言うんだけど、ボク、文字書ける自信が無いからメメシア書いてくれるかな?」
「ハレル。練習しているではありませんか。せっかくの機会です。自分の名前ぐらい書きましょう」
「だって、字が汚いし、他に名簿に記載されている人、聖職者関係者みたいで、字が綺麗なんだもん・・・」
「大丈夫です。見た感じ、全部が綺麗じゃありません。自信をもって書きましょう」
「え~・・・だってぇ・・・・」
「いたたたっ・・・わたくしはちょうど今、手のひらにある聖痕の傷口がひらいてしまい、ペンが持てません。わたくしが信仰熱心な為にお力になれません」
仕方が無くハレルは宿泊名簿に自分の名前を記載したのよさ。
まあ、汚い文字なりに、頑張って綺麗に書こうとしているってのがわかる感じで、ちょっとかわいらしさも感じる文字なのよねぇ・・・
しかし、林業関係者や季節の農労働者、鉱山関係者は名前を書かないでいいのに、なんで勇者や聖職者・・・多分巡礼者、名前を残さなくてはいかんのかよくわからんのよねぇ・・・
もしかしたら、教会から補助金的なのをもらったりしているのかもねぇ・・・
「あの~、あなた達も巡礼の旅をしているのですか?」
貝殻のついた広いつばの帽子を被った巡礼者が声をかけて来たのよねぇ・・・
「ここから使徒の墓まではかなりの距離があるでしょう」
っと、メメシアが妙な返答をしたのよね。
「この先にありますアリフレッタ村は、祭りが賑やかなようですよ」
「それは楽しみたいですね。それは新しい事ですか?」
「いや、古くから伝わっているやつです」
う~ん、聖職者同士だから通用している会話なのかねぇ?
変な会話よねぇ・・・
なんて思っていたらさ、巡礼者がさりげなく何かをメメシアに手渡していたのよねぇ・・・
今回、宿泊する部屋は大部屋で、4人一緒だったのよさ。
とりあえず、部屋に荷物を置いて、一休みって感じさ。
「みんな、ちょっと聞いてほしいんだけどいい?」
メメシアがみんなを集めたのよさ。
「それって、さっきの巡礼者から何か受け取ったのと関係あるのかねぇ?」
「ええ、隠しても仕方がないからみんなには話すわ。あれはわたくしも所属しているデラストラーダ会の伝達者です。彼から渡された指示書には、この近隣にあるアリフレッタ村で異常事態が発生しているとの事です」
「異常事態?それもメメシアが所属する謎の修道会が関わる話しなのかねぇ?」
「デラストラーダ会は古今東西幅広い哲学知識を学び、聖書の解釈を高め、改革派を教会に服従させ、未開の人達にも神の恩恵があるように教化させる事を使命とした教皇の精鋭とされる修道会です。世界の秩序を守る修道会です」
「そうだったのねぇ・・・」
「伝達者からの指示書によれば、村の羊飼いが助けを求めて村から脱し、司教区にて保護されたとの事。彼の証言では、ある日を境に村人達が夜な夜な集まっては、自分の体を傷つけ、傷口から流れる血をすすり合う奇行を行うようになったとの事」
「おえーっ!」
「この奇怪な集まりを取り仕切るのは教会の司祭である事。司祭が村人に配った気味の悪い果物を食べた村人から順番におかしくなっていったとの事。羊飼いはその果物を食べるのを拒み、村人達から無理やり食べさせられそうになった為、怖くなり逃げたとの事」
「どんな果物だったんだろうねぇ・・・」
「羊飼いの証言では、人の顔のかたちをしていたそうよ」
「おえーっ!」
「しかし、そんな見た目の果物、オレは食べたくないけど村人達は食っちまったんだな?」
「司祭が進めたからか、好奇心からか、集団圧力か、はたまた人が食べたくなる魔力でも秘められていたのか、わからないけど何か理由はあるはずよ」
「でも、どうしてこんな案件でデラストラーダ会が動いたのかねぇ?」
「初めは村の司祭が宗教改革派に寝返ったのかと大司教が誤認したからよ。そして事件の詳細が明らかになって、勇者案件へと変わったの」
「そのまま教会側で対処すればよかったのにねぇ・・・」
「今、教会不審が広まる中、司祭に何が起きてそうなったかわからないけど、悪魔的行動を起こした事を広めるわけにはいかないのよ。情報は何処でどのように盛れるかわからないからね。例えば、こういう紙が何者かの手で広められているのがあるのよ」
そう言ってメメシアが見せてくれたのは、教会の内部事情を暴露するような内容が印刷された冊子だったのよさ。
その冊子は、紙(羊皮紙とかの獣の皮ではない紙)で作られていて、表紙は無いペラペラの紙が数枚重ねてとじられた薄い冊子だったのよさ。
「内容は全くのデタラメで、書かれている古典文字も間違いが多いのよ。説教騎士修道会と人文学者の論争に関する内容よ。まるで秘密の情報が暴露されているかのように書かれている。こういう教会非難の内容の情報が印刷技術が広まった結果、多くの人が目にすることになったの」
「だから、下手に教会側が動くより、信頼できる勇者が対応してくれた方がいいって事なのかねぇ?」
「そうよ。これは、平和の為よ。改革派がこれ以上支持されればいずれは国家が分断される大きな争いに発展するわ・・・それこそ、多くの人の命が失われるし、信仰心が揺らげば人々は路頭に迷う・・・」
「わかったよメメシア・・・ボク達で何とかしよう。救える人達を救おう」
ハレルは乗る気だわさ。
まあ、最終的な決定権はハレルにあるからねぇ。
ハレルが勇者としての行動で正しいと思えば、それに従うまでなのよさ。
あたしは正直、宗教や政治的な揉め事、いざこざに関わるのは嫌だと思うのよねぇ。
勇者を利用して、教会の権威を守るような構図もなんか気に食わないのよさ・・・
「ボク達は困っている人を助ける為に戦う。だから、もし、ボク達の出番じゃ無いとわかったら、すぐに引き上げる・・・それでいいかな?」
おや、珍しくハレルが意見したのよさ。
「あたしもハレルの意見に同意だわさ。あたしらの目的は魔王や魔物を倒す事なのよ。変に宗教的政治的な争いには関わらないほうがいいと思うのよね」
「オレはよくそういう所、詳しくはわかんねぇけど、オレ達はオレ達の戦場があって、そこで戦う事を一番に考えなきゃいけねえって思ってはいるぜ」
「ええ、そうね。その通りよ・・・でも・・・」
「でも?」
「いや、なんでもないわ。明日は朝、早めに出ましょう。準備をしっかりと整えておきましょう」
そんな感じに打ち合わせは終わったのよねぇ。
あたし達は明日の朝、アリフレッタ村を目指す為、準備を行って、早々に寝る事にしたのよさ。
まあ、あたしの夜の時間は、そこからが本番なんだけどねぇ~・・・
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