第26話 ライオンズミルク



魔物が出没する村に夜が訪れたのよさ。

まあ、夜は何処にでも訪れるのだけどさ・・・


異変が起きた場合、村の鐘が鳴って異変を知らせるようになっていて、夜間の警備のライスロイファーもいるので、ちゃんと睡眠はとる事にしたのよさ。

村長から借りた空家で、メメシアの歯ぎしり音、プロテイウスのいびきがしはじめる頃、あたしはこっそりと外に出て、何か飲める場所が無いかな~って思って、村をうろついたんだけどさ~・・・

まあ、酒場がやってないのよね・・・

魔物を恐れてみんな、夜間は出回らないのよさ・・・


マカフシくんがテント貼って、焚火しているのが見えたのよ。

気になったもんで、ちょっと覗きに行ってみたのよね。


「マジョリンさん。こんな夜にどうしたんです?」


「魔物が出るっていうのに、テントで寝泊まりして大丈夫かな~って思ってさ~」


「大丈夫ですよ。寝る時は杖を蛇に変化させて警戒させてますし、それに、野宿に慣れ過ぎて、こっちのほうが安眠できるのです」


ほう、流石旅慣れしているだけあるねぇ・・・

さり気無く杖を蛇に変化させるって、いにしえのファラオに仕える魔法使いがやっていた魔法も使えるとは流石だわさ。


「マジョリンさん。もしよかったら、お酒でも飲みませんか?」


「およ?お酒、いいの?」


「ええ。ボクはカイ教徒ではありませんし、まあ、カイ教徒の中の解釈でも色々あるんですが、トケツスタンのお酒、味見してみませんか?」


「それは・・・気になるのだわさ・・・・」


マカフシくんはガラスのグラスに透明の液体をちょこっと注いだのよさ。


「これはラクって言う蒸留酒です。同じカイ教徒圏内ではアラック、東帝国圏内ではウゾとも言う蒸留酒の仲間です。あ、東帝国はボクの祖国が滅ぼしちゃったんですけどね~」


この小僧、さりげなく物騒な事、言いやがるのよさ・・・

トケツスタン、恐るべし・・・


「このグラスに注いだラクを見ててくださいね」


そう言って、マカフシくんはラクが少し注がれたグラスに水を注いだのよ。

すると、透明だった二つの液体が混ざって白く濁った色になったのよさ。


「まさに錬金術が生み出した飲み物。獅子の乳とも呼ばれます」


「かっこいい!こんな視覚でも楽しめるお酒、素敵だわさ!」


あたしはグラスを受け取って、さっそく1口飲んだのよさ・・・

独特でクセがあるが、すっごい爽やかな薬草の香り・・・

ほんのりとした甘み、そしてコクのある飲みごたえ・・・

こいつはいい蒸留酒なのよさ。


「さいっこうに美味しい!初めて味わう味だけど、飲みやすいし、ぐびぐびいけちゃうのよさ!」


「お昼ご飯、御馳走してくれましたお礼に少しでもなれたらいいなって思ってます」


「そんな、気にしないでなのよさ~。でも、こんな素敵なお酒を味わえて、あたしゃ幸せだわさ~」


「よかったです。私の祖父も父も愛したラクを同じく愛してくれる人に飲んでもらえた事、この巡り合いに感謝ですね」


「しかし、基本的にお酒を禁止しているカイ教徒の国のお酒が飲めるって不思議な気持ちなのよさ」


「宗派や地域によって、解釈の違いとかはあります。また、お酒に関する詩も存在します。それに、蒸留酒はカイ教徒の地域で発展した飲み物ですよ」


「そう言われるとそうだねぇ・・・錬金術もそっちの地域で誕生したんだもんねぇ」


「それに、旅をしていると飲料水に困るでしょ?ボクはこれを使って消毒もしているんだ」


「へえ、うちはお酢だわさ。そっちの方がいいねぇ・・・」


こんな感じでのんびりと、焚火を眺めつつラクを飲む。

マカフシくんの旅の話を聞いたのよね。

船で海を航行中に海賊に襲われたり、海賊から逃れた後に座礁して船が動かなくなったり、その座礁した島、マーフィア島でロバのデニーロを買って、荷物を乗せて陸路を進み、険しい山岳地帯を越えて、やっとたどり着いたって話しなのよさ。


「そんな苦労してまで、よくここまで来たねぇ・・・」


「まあ、ボク、好きなんですよ。冒険が。」


「好きでもそんな苦労できるのは強いのよさ」


「お金の為とか、誰かの為になるからとかは言い訳です。ボクはただ、旅をするのが好き。それだけですよ」


「そうなのねぇ・・・あたしゃてっきり、トケツスタンのスパイで、新教派や旧約の民に陽動かけて、神聖帝国内の工作をしているのかと思ってたのよさ~」


「あはは、何故バレた?」


「あはは、冗談だわさ・・・え?」


「・・・・冗談だよ?」


「冗談・・・だよねぇ?」


「・・・・」


「・・・・・だわさぁ~」


「・・・・・・わああっ!」


「ひぃ!」


「冗談はおいておいて、旅の商人である以上、ボクの知る情報はある程度、トケツスタンに流れるわけであります。でも、それが全て戦争の為になるわけではありません。知り合う事で回避される争いもあるんですよ」


「まあ、そうねぇ・・・知らないから起こる争いもあるのよねぇ・・・この村の旧約の民の険悪な関係も、お互いが徐々に関わり合わなくなったから発生している面もあるかもだしねぇ・・・」


「所でマジョリンさんは、この村を襲う魔物達、何が原因だと思いますか?」


「魔物がトロールっていう話しから考えると、魔王軍とは違うよねぇ・・・あたしが思うに、凶悪なトロール達が封印されていた何かが破壊されたか、出土されたか・・・」


「封印?」


「そう、昔々のかなり昔、教会が進出する以前、ドルイドの僧が自然の女神を祭り、特殊な石碑、マトロナエ石碑を使って邪悪な聖霊を封じていた事があるのよさ。邪悪なトロール達が出没するようになった話しの多くはこの封印がどうにかなってしまった事なのよさ」


「人の手で石碑を破壊するとか?」


「普通に経年劣化で石碑の効力が無くなった可能性もあるのよさ。そういうマトロナエ石碑は1,000年以上前に作られたものが多いからねぇ」


「それをどうすればトロール達が出てこなくなるんですか?」


「石碑を修復して、土地の聖霊を沈めるか、教会に石碑を納め、土地の聖霊を沈めるか、破壊して、精霊を完全に駆除するか・・・」


「駆除ですか?」


「駆除の場合、それこそ森林の生命力を極端に落とす事になるし、瘴気が発生する原因にもなりかねないから、おすすめはしないのよさ・・・」


「そもそも、トロールって強いんですか?」


「ピンキリありけどねぇ。大人しくて、人と友好的な、近所の子供の面倒みちゃうようなやつから、人間絶対殺すトロールまで様々なのよさ」


「今回は、後者のようですね」


「早く解決して、この村とおさらばしないと、あまり勇者に人間同士のいざこざを見せたくはないものだしねぇ」



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