第24話 トケツスタンの旅する魔法商人



あたしらは、突然多くの魔物が出没するようになって困っている村があると聞いて、その村を救うために川沿いの道を歩いていたのよさ。

その村の領主はあまり財政的に余裕が無いようで、聞いた話ではライスロイファーという傭兵を数名雇って、現地に派遣はしているようだけど、事の解決には至っていないそうなのよ。

まあ、こういう時こそ勇者の出番ってわけなのよさ。


ちょいと休憩に、川沿いでみんなで焚火して、昼食の用意をしていたのよ。

そしたら、荷物を背負ったロバをひいて、てくてくと歩く少年がいたのよ。


「おーい、そこの少年!この先は魔物がいっぱい出るから危ないって話だぜ!」


プロテイウスが少年に警告を告げに行ったのよ。


「そうですよね。だからこそ、ボクは行くのですよ」


少年は何か真剣な表情をしていた。

頭にターバンを巻いて、砂漠の民のような衣装の褐色肌の少年にあたしは興味がでたのよさ。


「ねえ坊や。その姿、ここら辺の人じゃないよねぇ?もしかして、いまぞ神聖帝国に攻め入ろうと企むスルタンの国の人?」


「確かにボクはそのスルタンの国、トケツスタンから来ましたが、ボクの意志はスルタンやそれに従う者達とは違います。ボクは商人です。この先にボクが用意しました薬剤を必要としている人達がいます。だから行くのです」


「何?魔物が出てケガ人が出ているから儲け時ってやつか?商人の考える事だぜ」


「そういうあなた達はこの様子ですと、同じ方向に向かっていると思うのですが?」


「ああ、オレ達は勇者と仲間達だからな。魔物を倒して人を助けるってのは当然の役目なんだぜ」


しかし、少年は疑う目でプロテイウスをじっと見るのよ。


「それで、現地の人からお金をもらったりしているの?」


「いやいや、基本は無償だぜ!ただ、どうしても受け取ってくれって言われた時はまあ、受け取るけどな・・・」


「まあ、いいでしょう。どういう考えかは詳しく知りませんが、邪な気持ちが微塵もない方がボクは信用できませんからね」


そんな話をしている間にも、お昼ごはんの用意が出来たのよさ。


「折角、同じ方向へ行くんだからさ、一緒にお昼ご飯でも食べて行かんかねぇ?まあ、すりつぶした豆のスープと、黒パンだけど~」


「いいのですか?ボク、ちょうどお腹すいていたんですよ」


「みんな、いいよねぇ?何かあれば協力関係になるかもしれないし・・・」


そう、問題は・・・・

あったのよ!

メメシアから殺気を感じるのよ・・・

彼女は熱心な僧侶であるのよ。

異教徒の勢力の中でも一番大きな存在であるトケツスタンの人を良く思う訳がないのであったのだわさ!


「め、メメシア・・・落ち着いて、落ち着いて・・・」


「異教徒・・・異教徒は・・・狩らねば・・・再征服せねば・・・グルル・・・」


「あ、ボク、カイ教徒じゃ無く、教会の信仰者ですよ。じゃないとこんな所まで来て、無事でいられる訳、ないじゃないですか~・・・まあ、偏見で嫌な目や、危険な目にはよくあいますけど・・・」


「本当に異教徒ではない?」


「はい。そうです・・・」


・・・でも、今、何か臭うのよ。

カイ教徒では無いが、トケツスタンで、神聖帝国の内地まで商人で来ていて、町の情報に詳しい・・・

普段は鈍いあたしにもわかっちゃったのよさ・・・

彼は、スパイ活動をしているってね!

そんで、ついでに言うと、彼は新教派、宗教改革派だね。

メメシアは、新教派に対してはどういう考えでいるかわからないのよさ・・・

こういう話しは下手に首を突っ込まない方がいいのよさ・・・

あたしとて、魔法使いであるから、異端者扱いされてもおかしくない立場なのよさ・・・


まあ、みんなで仲良くお昼ご飯でも食べながら、お話しをすることにしたのよさ。


「改めて、ボクは旅の商人のマカフシと言います。ロバはマーフィア島で購入しましたデニーロと言います。皆さまよろしくお願いします」


「マカフシくんは若いのに1人で旅して凄いね・・・」


「ははは、こう見えても20代半ばです。髭も生えないし、この外見はもはや呪いですよ」


「わざわざ遠方にもかかわらず、危険な目にもあいながら商売しているって、儲かるのかねぇ?」


「まあ・・・商売では儲けは少ないのですが、この商売には支援者がいまして、支援金で成り立っているんですよ」


「支援者?」


「ボクが商売する相手は旧約の民です。彼等は宗教の都合で孤立していますが、資産は有しています。ボクのような薬剤に詳しい魔法使いが貴重な薬草などを運ぶのに支援金を出してくれているんですよ」


旧約の民・・・

またこれも厄介な宗教のお話しだわさ・・・


「まあ、多めに見ましょう。旧約の民に関しては」


っと、メメシアが色々文句をカタルーのよねぇ・・・


「宗教上、色々問題があるとしても、ボクは困っている人の為になる事をしたいですね。お金をもらう事は前提ですけどね。いいじゃないですか。感謝されてお金も得られて、使命感すら感じれる仕事」


まあ、でも、下手にもめずに食事を終えたのよさ・・・


「美味しいお昼ご飯をありがとうございます。お礼にこれを差し上げます」


っと、渡してくれた小袋の中にはコショウが入っていたのよさ。


「こんな、高価なものを・・・いいの?」


「勇者の皆様だからですよ。それと、この先、魔物が出た時、ボクを守って欲しいという願いも込めています」


「コショウで勇者を護衛に雇うようなものなのねぇ・・・」


「商人はずる賢くなければ生きていけませんから。まあ、正直同じ重さなら砂糖の方が高く取引できますよ。今後、料理とかにお使いください」


っと、癖のある商人としばらく一緒になる事になったのだわさ・・・


しかし、ちょいと用心は必要かもしれんのよさ。

旧約の民から支援金を受け取って、同じく旧約の民の為の仕事をしているトケツスタン人・・・

やはり、スパイ活動に思えてしまうのよさ・・・

トケツスタンのスルタンは教皇や神聖帝国と対立関係である以上、敵国の人である以上、悲しいだろうけど警戒しなくてはならないのよさ。

彼の活動は、もしかすれば神聖帝国内の旧約の民や、新教派とトケツスタンの同盟的な関係を築き上げる事が目的では・・・

色々変な考えが頭を巡るのよさ・・・


「マジョリンさん。じっと見て、ボクの顔に何かついてます?」


「目と鼻と口が付いているのよさ・・・」


「え~、それはマジョリンさんもお揃いじゃないですか~」


そうねぇ・・・

目も鼻も口も同じ位置に付いている、同じ人間なのにねぇ・・・



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