第23話 ヘーゼルナッツの木の枝



ハレルが旅の商人から、宝の地図を買ったのよさ。

まあ、眉唾物だって思うけどねぇ・・・

地図が記載されているのも羊皮紙って言うより、ウサギかアナグマみたいな小動物の皮を使った品質も良くない紙なのよさ。

それに、本当にお宝があるんだったらさ、売らないで自分で掘り当てると思うのよさ。

まあ、地図に記載してあるのは暗号でさ、色々調べた結果、今いる山の何処かにあるらしいってのはわかったのよさ。


「ここら辺にあるっぽいんだけど・・・」


っと、探しても全然わからなく、ハレルは途方に暮れるのよね・・・


「なあマジョリン。近くにお宝があるのを見つける魔法とかねえのか?」


「プロテイウスよ、そんな便利な魔法・・・無いわけではないのよさ」


成功率も高く無いし、そもそもお宝を見つける為の手段ではないのだけどさ、あたしはY字の木の枝を握って、そこら辺を練り歩いたのよ。


「マジョリン。それは何をしているのですか?」


「ダウジングだわさ・・・本来は鉱石を探し当てるのに使う魔法なのよね・・・まあ、お宝が宝石とかだったらこれでいけなくはないかもしれないって思ってね・・・」


メメシアはあたしの事をじっと見て、動きを観察しているのよね・・・


「マジョリン。そのダウジングはどういう原理で見つけるのですか?悪魔は関係してませんよね?教会的にNGな要素はありませんよね?」


「いきなり異端尋問はやめて欲しいのよさ・・・」


「異端尋問はもっと徹底的にやりますよ?」


「おお、怖い怖い・・・」


すると、枝がプルプルっと振動したのよね。


「お、かかったのよさ。この近くを掘るとあるかもしれないよ」


「なんか、釣りしているみたいだね」


プロテイウスが木の根元を掘ってみたのよさ。

すると、中から蓋のついた壺が出てきたのよ。

蓋の周りは蝋が塗ってあって、しっかりと密封されているのよね。


「この壺、何か文字みたいなのが書かれているけど・・・なんだろう?」


「ハレル、この文字は・・・異教徒の文字じゃねえか?」


多分、見た感じカイ教徒の文字なのよさ。

あたしは読む事は出来ないのよねぇ・・・


「これは・・・聖地の地名が記載されていますね」


「聖地の地名?ってか、メメシアはこの文字、読めるの?」


「はい。ある程度ですが、わたくしの生まれ育った地域では、古い文献はこの文字で記載されているものが多くありまして、勉学の為に学びました」


「へえ、敵対する宗教の文字なのに学んでるとは意外なのよさ・・・・」


「古い哲学者の書などが多く残されています。学びにおいて、信仰の違いは関係ないとわたくしは信じています」


へぇ~、メメシアは何でも信仰と結び付けているのかと思っていたけど、イメージとは違って柔軟性があるものだったのねぇ・・・


「所でさ、この壺、開けてみてもいいものなのかな?」


確かに、何が入っているかわからない壺・・・

こうも簡単に開けて大丈夫なのかは不安ではあるのよさ・・・


「中から封印された魔人でも出てくるんじゃねえか?」


「あたしが思うには、聖地から持ち帰って来た財宝のたぐいだねぇ。どこかの諸侯に付き添っていた兵士が、何かわけがあってここに隠したんだと思うのよさ」


「わけがあって隠すとなると、聖遺物という線もありえますね・・・」


「それで、開けるの?開けないの?」


しばらくみんなで考えたのよさ。

でも、中々結論が出ないのよさ・・・


「ねえ、開けナイン?」


「折角だから開けヤー」


あたしは小さなナイフで蓋をこじ開けたのよさ。

ぽこっていう音と共に蓋が開いたのよ。

恐る恐る中を見て見ると、中には指輪が数個入っていたのよさ。


「やったぜ!おたからがはいってるじゃん!」


喜んだプロテイウスが指輪を手に取ろうとした瞬間、


「喝ッ!!」


「ひぃっ!」


メメシアが大声を出して、プロテイウスを制したのよ。


「な、なんだよメメシア!びっくりしたじゃねえか・・・」


「プロテイウス。よく考えなさい。そんな少量で持ち切れないわけではない数の指輪をどうしてわざわざこのような所に埋めて隠してあるか・・・」


「え?そ、それは・・・なんでだろうな・・・?」


「危険な魔力が込められている可能性があります」


「確かに、それはありえるのよさ。聖地へ赴いた騎士団の戦利品の宝石類に混じっていたものを埋めたとか、後で対処法を学んだ上で、また掘り起こそうと考えていたとか・・・」


「マジョリン。この指輪がどういう魔法が込められているか、判断できるかな?」


「正確にはわからないかもだけど、ある程度ならわかるかもねぇ・・・」


するとメメシアが呪文を唱え始めたのよ。


「オン・マカシリエイシベイソワカ」


呪文を唱えたメメシアはじっと指輪を見つめるのよ。


「これは・・・精霊や悪霊が宿っていますね。天使や悪魔を操るとされた古代の神共国第三代王の指輪を真似して作られたようですね」


「・・・メメシア。所でその技は?」


「これは、真実を見る力を得る術です」


「・・・異端では?」


「いいえ、自然のことわりに従ったまでの術です。すべては聖書の延長にあります」


メメシアの宗教概念はよくわからないのよさ・・・


「それにしても、どうしてこんな魔法道具を作ったのだろうねぇ。こんな事出来るなら、ある程度魔法が使える人物のはずだわさ・・・」


暗号を使っているとはいえ、わざわざ地図で埋めた場所を残し、こんなものを埋める・・・

どういう人がどういう意味でやったのか、見当がつかないのよさ・・・


でも、ふと蓋の裏面を見て、まさかと思ったのよ・・・


「ねえ、この蓋の裏面さ・・・書いてある紋章、約200年前に南のフルール・ド・リスの国で異端とされ、不当に取り潰された騎士団の紋章に見えるのよさ」


「第三王神殿騎士修道会の紋章で間違いないですね・・・」


「すると、悪魔的魔法とされた証拠の品って事になるのかねぇ?」


「ここばかりは司教の判断になりますね。とても微妙なラインです」


この話は騎士、王、教皇、などの微妙な関係もあって、まとめるのが面倒なのよさ。

あたし達は結局、あまりいいものでは無いと判断して、壺はまた埋めなおしたのよね。

まあ、この旅が終わってさ、あたし個人的に時間ができたら、こっそり掘り起こして、どういう魔法なのか調べてみようって思ってはいるのよね。

1人で魔法学と歴史を探求しつつ、薄暗い部屋で飲む酒は美味しいだろうねって思ってもいるのよねぇ。

こういう知的な趣味も酒の肴ってやつだわさ。



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