第18章 錬金術のコルン



あたし達は錬金術師が詐欺師である事を見破ったのよ。

騙されていたナックーキ卿が錬金術師に貸し出していた研究室を調べて欲しいと言うもんでさ、あたしが調べる事になったのよ。


「何か、わかりそうですか?」


「何冊かある本は見て見ないとわからないし、錬金術に使ったであろう装置も調べて見ないとだがら、時間がかかりそうだわさ」


調査は時間がかかって、ナックーキ卿から夕食を御馳走して頂き、寝室まで用意してもらっちゃったのよ。

ナックーキ卿はハレルの旅の話しに興味津々で、夕食中もずっと話しを聞いていたのよ。

みんなが寝室で寝ている間も、あたしは調査を続けたのさ。


錬金術に使っていたであろう装置の仕組みはなんとなくわかりつつあったのだけどさ、使い道がいまいちなのよ。


本を色々調べていたのだけど、金細工の本や、鉱物に関しての本、布や織物についての本など、様々だったのよ。

そこで、布や織物についての本に、メモ紙が挟まっていたのさ。

メモ紙に書かれた文字は教会の経典とかで使われる古典文字だったのよ。

あたしはメメシアに、書いてある文字が読めるか聞きに行ったのさ。


「メメシア~。起きてる~?」


ドアをノックして開けると、メメシアはベッドの上で足を組んで、瞑想をしていたのよ。

瞑想中のメメシアはほんの僅か宙に浮いて、頭の後ろから光を放つのさ。

メメシアはこうやって霊操という、魂のトレーニングをする時があるのよ。

あたしの存在に気が付いたメメシアは、目をかっぴらいた。


「喝ッ!」


「ひえっ!」


ボスンっと、少し浮いたメメシアがベッドの上に着地する。


「マジョリン、何の用かしら?」


「あ、霊操中、邪魔してごめんだけどさ、このメモ紙、詐欺師の部屋から見つけたんだけど、古典文字でさ、メメシアは読めるかな?」


「あら、マジョリンならある程度、古典文字が読めると思っていたけど、意外ね」


「あたしゃ、古神国語とかなら得意だけどさ、古典文字は苦手でね~」


「そうだったのね。いいわ。貸して見せて」


あたしはメメシアにメモ紙を見てもらったのさ。


「・・・このページのものを使う。って書いてあるわ」


「ありがとうメメシア」


「これでわかりそうかしら?わたくしも調べるの手伝おうかしら?」


「大丈夫さ。明日の朝には説明できるよ。おやすみメメシア~」


あたしは詐欺師の部屋に戻ったのよ。

メモ紙が挟まっていた本のページを見て、これで詐欺師が何をやろうとしていたのかはっきりわかったのさ。

ただ、夜も遅いし、ナックーキ卿ももう寝ているだろうし、あたしは詐欺師の集めた錬金術の道具を色々見ていて、ふと、とあるものを見つけたのさ。


壺に入ったビールの搾りかすだったのよ。

ほんのりとビールの香りがするのさ。

発酵しているみたいで、お酒っぽい感じがするのよ。


普通のビールの搾りかすは、酒成分は含まれないのよさ。

でも、この搾りかすは何かの実験に使おうとしていたのか、酵母と麦カスで発酵している感じなの。


詐欺師錬金術師が何に使おうとしたのかはわからないけど、あたしはこれを個人的に使っちゃおうって決めたのさ。


蒸留器でビールの搾りかすを蒸留させ、穀物の蒸留酒、コルンを造ったのよ。

まあ、この街の法律を考えると、これは立派な密造酒。

違法行為なわけなんだけどさ、造っている時の背徳感、ドキドキ感、ワクワク感がたまらんのよ。


1滴1滴と滴り落ちるコルンの液体。

あたしはじっくり見守るのよ。


ゴブレット1杯分のコルンが出来上がったのさ。

透明でかつ、少し琥珀色をした液体・・・

あたしは氷魔法でコルンをキンキンに冷やして、そっと1口・・・


強い酒のすきっとした飲み口、ほんのりと甘みがあって、飲み込むと冷たくしたのに喉に熱さを感じる。

蒸留は上手く出来たのさ。


それから、詐欺師の他の本を見ていたら、昔の物語が書かれている本を見つけたのさ。

ちゃんとあたしが読める文字に翻訳されて書かれているやつだったのよ。

内容は、3人の男性と7人の女性が語る合計100話の物語。


あたしは蝋燭の灯りの下で、その物語を読みつつ、コルンをちびちび嗜んだのさ。


まるで錬金術師の休息みたいだって、この雰囲気にも酔いつつ、物語に目を通し、また酒をちびちびすすり飲んで、余韻を味わい、雰囲気に浸る。

これの繰り返し。


あたしはいい気分で、お酒を飲み終わった後、借りた寝室のベッドに潜り込んで、そのまま爆睡さ。

夢で錬金術で金を作っちゃう夢なんかみたりして、夜は過ぎたのさ。



☆☆



詐欺師の部屋にみんなを集めて、説明する事になったのよ。

門の番兵や、ナックーキ卿の召使い達も興味津々で見に来たのさ。


「では、説明しますと、この錬金術で使う装置、これは実は、塗料を製造する装置だったのよ」


「塗料?何か色を付けるつもりだったの?」


「流石ハレル。その通り。この装置は黄色の塗料を作る為のもの。そして、塗るのはこの錫や鉄の棒切れさ」


あたしは錫の棒切れにその塗料を塗って見せたのよ。


「ほら、金属の色に黄色が加わることで、見た目は金になったよ」


見ている人達からおおっと声が上がるのよ。


「でも、水で洗い流したりすると、すぐに元の色に戻るけどね。彼はこうやって偽装した金塊を渡して逃げるつもりでいたんだと思うのさ」


その後、詐欺師から聞き取りをして、ナックーキ卿から詐欺師が受け取った金の隠し場所も見つかり、ナックーキ卿の財産は無事に帰って来たのよ。

詐欺師は街の衛兵に連行され、裁きを受ける事になったのさ。


「魔法使い様、ありがとうございます。あなた達は本当の勇者様達であると私は確信しました。この街を取り仕切るベルメルワグマ伯爵にもぜひ、お会いして頂きたい」


っと、ナックーキ卿からの紹介状を受け取ったのよ。

あたし達はこの要塞の街、アートハイムで一番偉い、ベルメルワグナ伯爵に会いに行く事になったのさ。



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