第19話 馬車伯ともう1組の勇者達



馬車の生産を取り仕切って、財を上げ、アートハイムを発展させたベルメルワグナ伯爵は馬車伯という異名を持つのよ。


あたし達はナックーキ卿からの紹介状を使って、ベルメルワグマ伯に会いに行ったのさ。

あたしゃ貴族は苦手だけどさ、勇者も支援者がいると支援金だったり、他の街でも何かと融通が利く事もあったりするしさ、仕方がないよね。


あたし達は広い客間に招かれたのよ。


「紹介状によると、君達も勇者なのか・・・」


「君達も?」


「そうなのだ。この街に来た勇者は君で2人目だ。彼はサレムと言う、数ヶ月前にこの街に来てから、この街を拠点に活動をしているのだ」


ベルメルワグマ伯はため息をついた。


「サレムとその仲間達は顔もよく、服装も見た目がいいからと、女性達に人気ではあるが、魔王討伐へは向かわず、活動資金を要請しては飲み遊ぶチンピラと化してしまったのだよ」


勇者の血筋は各地に点在してはいるが、中にはそんな奴らもいたとは驚きさ。


「同じ勇者である君達が、彼等を説得してくれはしないだろうか?」


っというわけで、あたし達はチンピラ勇者のサレムと話し合いに行く事になったのだわさ。



☆☆



あたし達はチンピラ勇者のサレム達がいる宿舎に行ったのさ。

そこで、ベルメルワグマ伯からの伝言を説明すると、あたし達は宿舎の中に招かれたのさ。

豪華な造りをしている客間に招かれ、そこでチンピラ勇者のサレムと会ったのよ。


「やあ、オレは勇者サレムさ。君も勇者なんだろ?遠い遠い親戚って事だな。よろしくな」


「あ、はい。ボクはハレルです。よろしく・・・」


サレムの仲間達はイケメン揃いだったんだけどさ、まあ、何か下心を感じるような、上品さにかけてる感じがしたのよ。


「あの、改めて言います。ボク達はベルメルワグマ伯から言われて、サレムさん達もちゃんと魔王討伐に出発して欲しいと・・・」


「何々、まだここら辺には魔物がいっぱいいるんだぜ。それに、そんなに急いで言っても仕方がない。ちゃんと準備を整えて行かねばならんよな」


「あ、あの・・・ベルメルワグマ伯も困っていまして・・・」


「街に勇者が滞在し続ける今が、この街にとってどれ程の平和をもたらしているのか、彼はあまり理解していないんだよ」


サレムが調子よく話すものだから、ハレルはあまり言い返せないでいたのよ。

そのまま、しばらくサレムの自慢話を聞かされて、あたし達はベルメルワグマ伯の所へ戻ったのさ。



☆☆



「そうか、サレムを説得は難しいか・・・」


「はい、もう少し、時間をかけて説得していくしかないかと思います・・・」


ってな感じで、あたし達は今日は宿に泊まる事になったのだわさ。

宿場へ行く途中、教会のお勤めを終えた黒いフード付きの服を着た修道士の女の子達が笑顔で陶器のビールジョッキを抱えて酒場へ向かって列を作って歩いている姿が見えたのよ。

アートハイムの子達と言われている彼女達は、この街のシンボルだとの事さ。


「ここの教会の人達は飲酒大丈夫みたいだわさ」


「他所は他所、うちはうちです」


っと、メメシアはお母さんみたいな説教セリフを言って、やはり飲酒を認めてくれなかったのさ・・・


宿について、夕食を済ませ、寝る時間さ。

各々、自分の泊る部屋に入って、あたしは酒場へこっそりと向かう準備を始めるのさ。

もうしばらくこの街にいるようだからさ、このままの恰好で言ったら、酒場であたしを目撃した話が出回って、メメシアにばれてしまう可能性があるんよ。


なので、変装をすることにしたのさ。

魔法で衣装チェンジさ。

あたしは黒いフード付き修道服姿になって、酒場へと向かったのさ。


酒場は賑わっていて、通りにもテーブル席が出ている。

まるで、街の一角そのものが酒場になっている状態だった。


「あら、いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」


店員さんに言われ、あたしはせっかくなので通りに出ているテーブル席に座ったのさ。


「修道士さん、今日はどんなビールを飲みますか?」


修道士さんと声をかけられたもんで、自分がその姿に変装している事をうっかり忘れて、返事が遅れてしまったのよ。


「あ、すみません。あたしはその・・・安いビールを」


「承知しました。この店では最高に美味しいビールを安価で提供させていだたいております」


店員さんがそう言って持って来たビール、それは陶器のジョッキに獅子のマークが入っていたのよ。


「当店自慢、いえ、この街の誇りでもある獅子のビールです。どうぞごゆっくりご堪能下さいませ」


陶器のジョッキに並々つがれた黄金の液体は白い泡を浮かばせている。

獅子のビール、どんなものか・・・

さっそく1口・・・


美味い!

すっきりと研ぎ澄まされ、下手に雑味や香りも無く、ビールらしさだけで勝負をしているのよ。

そしてこの喉を通る感覚、なんと言えばいいのであろうか・・・

のど越し・・・そう、のど越しと言おうかねぇ。

のど越しが爽快に感じるのだよ。

これは、品が無いかもしれないが、ぐびぐびと飲んでしまう。

ノンストップだよ。

あっという間に1杯、飲み終えてしまったのさ。


「すみませ~ん。おかわりくださ~い」


「は~い。ご一緒にゼンメルクヌーデルはいかがですか?」


「じゃあ、それも~」


っと、ノリで頼んでしまったのだが、このゼンメルクヌーデルってのは、パンを牛乳に浸して、ぐちゃぐちゃにして、細かく切った野菜と卵を混ぜて、いくつもの小さな玉にして、茹でた料理なのだわさ。

まあ、家庭的な料理ではあるんだわさ。


ビールのおかわりと、ゼンメルクヌーデルが入ったお皿が運ばれて来たのさ。


ゼンメルクヌーデルは白いクリームソースがかかっていて、とても美味しそうだわさ。

さっそく1つ、食べてみるのよ。

とても食べ応えのあって、野菜のうま味とソースのクリーミーな感じが濃厚。

そして、ビールを飲む。


「っぷはぁーーー!さいっこぅーー!」


濃厚なクリーミー味の後のさっぱりしたビールは最高。

口の中がリフレッシュされ、もう一度、ゼンメルクヌーデルを口にしても、食べ始めの時のような濃厚な味を楽しめるのよさ。

また、ゼンメルクヌーデルの濃厚なソースの味が、ビールの爽快感の引き立て役となるのよ。

この二つの連続がもはや永遠に続けれるの。

まるで、蛇が2匹、お互いのしっぽに噛みついて輪になっているように、食べて飲み続けれる感じなのさ。



☆☆



素敵な時間程早く過ぎるように感じるもので、そろそろ宿に戻ろうと思ったのさ。

そしたら、酒場の片隅にサレム達を見つけたのさ。

何か真剣に話しているのよ。

あたしは魔法の力を使って、彼等の話を盗み聞きしたのさ。


「あのハレルという連中はまずいぜ。せっかく勇者を語って好き放題過ごせているってのに、このままじゃ追い出されちまう」


「何。俺達の腰に備えているのは何だ?」


「サレム・・・おい、お前、まさか?」


「そうだ。そのまさかだぜ。魔物を退治してきたように、やつらの寝込みを襲ってやるんだ」


「そんな事して許されるのか?」


「魔物の仕業にすればいい。なあに、そう言えば誰もが信じる。それにオレは神から与えられた勇者の血統という最高の免罪符があるんだ。オレに逆らうやつはこの街にいねえよ」


「流石サレムだ。そうと決まれば今晩、早速やっちまおうぜ」


これはまずい事になりそうだ。

あたしはさっさと支払いを済ませ、そそくさと宿に戻ったのさ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る