第15話 黄金の拍車
ハレルはサビス卿領において、魔王の脅威を払い、治安を回復させた功績を称えられ、黄金の拍車が贈られたのよ。
まあ、名誉のアイテムって感じでさ、別に爵位を得たってわけじゃないんだけどさ、ハレルはとても嬉しそうだったのよ。
「よかったじゃねえか。これで勇者らしさが増したな。男なら一度は憧れる黄金の拍車だぜ」
プロテイウスは自分の事のように喜んでいたのよ。
「下手に浮かれてはいけません。馬に乗らずに旅を続けているというのに拍車なんて・・・それに騎士は野蛮な人達でもあります。あなたは勇者。その違い、ちゃんと頭に叩き込んでおいてください」
メメシアは騎士があまり好きではないようなのさ。
「まあ、メメシアが言いたい事はわからなくもねえけどさ、実際にオレも昔、そういう連中を見て来たし・・・だが、今日はハレルがちゃんと勇者として功績を認められたんだぜ。少しぐらい喜んでもいいんじゃねえかな?」
メメシアはクソデカため息をついた。
「名誉の為に戦う者は名誉の為に死にます。勇者は名誉ではありません。救世主です。人々を救う為に戦い、平和を見守る為に生き続けるべきなのです」
「まあ、捕虜になって、身代金でどうにか助かる連中もいるぜ」
「そんなのに名誉はありませんね。それに、魔王軍は捕虜を取りませんよ」
「まあまあ、ハレルも困ってるから、そこまでにしておきなよねぇ~」
「そうですね。ハレル。教会へ行きましょう。神に感謝の祈りを捧げますよ」
そう言って、メメシアはハレルを引っ張って教会へ行ってしまった。
「あいつ、本当は内心、ハレルが称えられてうれしいんじゃねえか?」
「多分そうだとは思うんだわさ」
さて、残されたあたしとプロテイウスはどうするかねぇ。
「マジョリン。オレはそこら辺散歩でもしてるから、お前さんも自由にしてりゃあいいんじゃねえかな?」
そう言ってプロテイウスはふらふらと街中を歩いて行ったのよ。
まあ、時間があるし、まだお日様がある早い時間だけどもさ、酒場にでも行ってみようって思ったのよさ。
そう、この街に来たばかりの時に、夜に閉まっていた酒場さ。
仕切りの木の壁の向こうには建物と建物の間に屋根があって、壁は無く、テーブル席があったのよ。
数人、昼間から飲んでいる人がいたのよさ。
あたしも空いている席についたのよ。
すると、店主のおっさんがゆっくりとやって来たのよさ。
「いらっしゃい。何になさいます?」
「う~ん、おすすめは?」
「おすすめ・・・蜂蜜酒がありますよ。それをチェリージュースで割って飲むのが人気ですね。海賊の血なんて呼ばれている飲み方です。力がみなぎるので、警備前の気付けの一杯にと、守備兵の間では人気なんですよ。」
「ほぉ~・・海賊の血・・・それをお願いするのよさ~」
頼んでやってきたのは小さな壺に取っ手がついたような形状のグラス。
結構な量なのよ。
中にはどす黒い赤色のお酒・・・
確かに、血という表現は正しいのかもしれないねぇ・・・
ためしに1口・・・
これは美味い!
チェリージュースの酸味と爽やかさ、これが蜂蜜酒の甘さを控えめにさせて飲みやすい。
これは量が多いとはじめは思ったんだけどさ、すぐに飲めちゃうよ。
むしろ、飲みすぎに気を付けなきゃいけないねぇ。
さっき、騎士が野蛮でどーのこーのって、メメシアが言っていたけどさ、それよりも野蛮な海賊の血と呼ばれる飲み物を飲むあたしって、さらに上の野蛮な魔法使いなのかもしれないねぇ。
こんなものを飲んでいるって、メメシアに知られたら、あたしゃきっと、魔女狩りされちゃうだろうねぇ。
おお、怖い怖い。
つまむものも無く、1杯のお酒だけ。
しかも、太陽はまだ高く輝いているというのにさ、あたしはお酒を飲んでゆっくりと過ごしているのよ。
妙な背徳感があるわけさ。
あの仕切り壁の向こうでは、働いている人達がいっぱいいるっていうのにさ、あたしゃ~お酒を飲んでいる。
何て日だ!
あ~、あたし、悪い事してるな~って気持ち。
わがままな酒飲みやってるな~って気持ち。
こういう気持ちってのも、お酒を美味しくする要素だと思うのよさ。
壺みたいなグラスに感じた重みが徐々に減って行く・・・
お日様に照らされながらほろ酔い気分・・・
耳をすませば市場の賑わい、荷車の音、鎧を着た警備兵の歩く音など、色々な音が聞こえるのよ。
夜には感じない昼の裏側にいるような、みんなの生活に近くて遠い場所にいるような、これが昼にお酒を飲むってやつよ。
お酒はもう半分程飲んでしまったのよさ。
結構酔っちゃうんじゃないかって気にはしていたよ。
でも、何故かとても血の巡りがよくなっている気がする。
体力に満ち溢れているような感じよ。
これが古の海賊の力か・・・
細長い船に乗って、何処までも行けるような気分だわさ。
「おーい、マジョリン。メメシアとハレルが教会から出たぜ」
っと、プロテイウスが知らせに来てくれたのよ。
「お知らせありがとうプロテイウス~」
あたしは残りのお酒をぐいっと飲み干して、お金を置いて、そそくさと外へ出たのさ。
「メメシア~、ハレル~、お祈りは済んだかねぇ?」
「うん。済んだよ。待たせちゃってごめんね。それでね、黄金の拍車だけど、付けないで、カバンに入れておくことに決めたんだ」
「ほえ、なんでぇ~?」
「なんか、勇者様が来たぞーみたいな、偉ぶってる感じに見えるからさ」
「え~、いいじゃなぁ~い。ハレルは勇者だから偉いと思うのよさぁ~」
「所でマジョリン。テンション高いわね」
ギクッ!
「え、そ、そりゃぁ~・・・ハレルが黄金の拍車をもらったんだもん。テンションは上がるに決まってるのよさ~」
「そういう浮かれ方していると、魔物と出会った時、汚しますよ」
「は~い・・・」
まあ、なんとかお酒を飲んだ事はばれずに済んだのよさ。
こうしてあたし達は次の街を目指して、意気揚々と出発するのであったのよ。
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