第14話 疑惑のミルク魔女



村に出没した怪物を探して早くも1週間。

あたし達はまだ、手掛かりを掴めないままでいたのさ・・・


「神父様。やはり、手掛かりが見つかりません・・・木こりの人達にも呼び掛けて、捜索を手伝ってもらっていますが、有益な情報はまだありません・・・」


「そうですか。勇者様でも手こずるとは・・・やはり、怪物は潜伏するのは得意なのかもしれません・・・」


「これまでの、被害状況をもう一度、確認したいのですが、よろしいですか?」


「はい。これまでに10人、襲われて亡くなっています。襲われた者に生存者はいません。ご遺体は酷く損壊していて・・・まるで、食い荒らされたようでした。襲撃現場近くでは、人の姿では無い化け物が目撃されています・・・」


教会で、神父さんも交えてみんなで考え、悩んだところで、怪物への手掛かりがは微塵も見つかりそうになかったのよ。

そんな時だったのさ、村の牛飼いの男が教会の扉を開けて入ってきたのだわさ。


「神父様!大変です!うちの牛が、乳を出さなくなってしまいました!」


「乳が出ない?どうしたのです?それに今は勇者様達と大事な会議を・・・」


「神父様、こいつらは本物の勇者じゃありません!そこの魔法使いがオレの牛に悪い魔法をかけたに違いありません!それ以外に疑う余地は無いのです!」


「あたしが?!なんでそんな、牛の乳を出さないような魔法をあんたの牛にかけなきゃならんのさ?!」


「神父様!ミルヒヘクセという魔女の話しをご存じですか?魔女は牛から生命力を奪い、乳を出さないようにするという話しです!まさに、この魔法使いの女はミルヒヘクセに違いありません!」


「あたしは牛乳よりもお酒で生きてるのだわさ~」


突然の言いがかり、あたしはまいっちゃったよ。


「マジョリンはそんな悪い魔法使いではありません!言いがかりは止めてください!」


「そーだそーだ!」


ハレルとプロテイウスがあたしをかばうも、牛飼いの男は疑いのまなざしをそらさないの。

すると、あきれた様子のメメシアが、牛飼いの男の前に立ったのさ。


「マジョリンは、だらしがないし、自堕落な魔法使いですが、他人に迷惑になるような事は絶対にしません」


「そーだそーだ!」


「な、なにを!魔法使いの味方をするのは、共犯者だからか!?」


「そこまで言うのであれば、今からその牛達を見に行きましょう。もし、魔法がかけられているのであれば、何か手掛かりがあるかもしれません」


「そーだそーだ!」


「プロテイウスうるさいです!」


メメシアに怒られたプロテイウスはしょんぼりメランコリー。

それはともかく、神父さんとあたし達は牛飼いの牛小屋に向かったのさ。


「見てください。こんなに元気が無い。あなた達がここら辺をうろうろし始めてからです!今までこんな事、無かったのに・・・」


妙に元気が無い牛達・・・

その様子を見たメメシアが牛に近寄ったの。


「・・・わかりました。牛は何か、よくないものを食べてしまったようですね」


メメシアは牛飼いを睨む。


「な、なんだよ!お前らが変な草でも食わせたんだろ?!」


「今、なんと言いました?」


「え?」


「わたくしは、よくないものとしか言っていません。なのにあなたはよくない草と言いました」


牛飼いの顔は青ざめたのさ。


「な、何を言っている!」


あたしは黙っていたけどさ、よくない草って多分、ヘルプストツァイトローゼという毒草の事だと思うのよ。

たまに牧草に混じって、家畜に悪影響を与えるのだわさ。

まあ、魔術的というより、単純に毒のある雑草ってやつよ。


そして、牛飼いは牧草をかき分け、何かを探し始めたのさ。

牧草の中から何かを見つけたようで、それを取り上げたの。


「あ、ほらみろ!こんな所に魔法のルーン文字が記載された木の板があったぞ!」


牛飼いの男は小さな木の板を持って、あたし達に見せつけた。


「わたくしは、聖職者なので、それが何なのかわかりません・・・ただの傷のようなものに見えます。なのにあなたはすぐにそれがルーン文字であると言った」


メメシアは牛飼いの男に迫る。


「随分と、魔法にお詳しいのですね?」


牛飼いの男はガクガクと震えだしたの。


「チクショウ・・・チクショーーー!!!お前らが来なければ、オレは・・・オレの生活は安定していたんだぁあああああ!!!」


叫んだ牛飼いの男の体はみるみるうちに狼男へと変化したのだよ。


「周辺を探しても見つからなかったのは・・・村の中に犯人がいたからなのか!」


ハレルとプロテイウスは剣を抜き、身構えるも、メメシアは2人に動かぬよう手で指示を出したの。


「人を欺き、人に罪をなすりつけようとするおこがましさよ・・・その深き罪、しかと噛み締めるがいい」


メメシアは9つの異様な形の合唱を連続で組み、呪文を唱え始めたの。


「ノウマクサンマンダバザラダンセンダマカロシャダソワタヤウンタラタカンマン!」


狼男は苦しみの悲鳴を上げたのさ。


「なんだ!う、動けない!動けないぞ!」


メメシアは呪文を唱え続ける。

ついに狼男はメメシアの魔法の圧力に負け、意識を失って、硬直したまま倒れこんだのさ。

すると、狼男は元の牛飼いの姿に戻ったの。


「神父様、彼を怪物として、この場で消し去るか、人として、裁かれるべきか、お考え下さい」


神父さんは返事に困っている。

犯人が村人で、しかも狼男だったんだよ。

動揺するよね。


「わたくしとしては、この場で消し去るとしますが・・・村をまとめる教会の神父であるあなたが判断すべきだと思います」


神父さんは、人として裁かれるべきであるとしたんだよ。

牛飼いの男は頑丈な縄で縛られ、領主であるサビス卿の配下の兵士達に連れていかれたのさ。

多分、問答無用で極刑だろうね。


「ねえ、メメシア・・・どちらにしろ、極刑だったんだからさ、メメシアの魔法で止めを刺した方がよかったんじゃないの?」


「マジョリン。彼は人としてこの村で生活をしていました。なので、人として裁かれるべきなのです。アーメン」


縛られた牛飼いの男は目を覚ました。

兵士達が来る前に、あたし達は色々彼から話を聞き出せたのよ。


村で1番、ひとりぼっちで、けれども不自由なく暮らしている牛飼いの男を始末して、入れ替わったそうだ。

しばらくの間は村から離れた街道で人を襲って食っていたそうなのよ。

でも、街道の警備が強化されて、やむを得ず村人を襲うようになったとの事なの。


その後、兵士達が来て、牛飼いの男を馬車に乗せ、連れて行ったのだわさ。

こうして、村の怪物事件は無事、解決したのよさ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る