第11話 それぞれの時間
あたし達はこの日、珍しく全員が別行動を行ったのだわさ。
プロテイウスはサビス卿の配下の兵士達に魔物と戦う時の心得というか技術というか、技的な事を教える為に、城の中庭で兵士達を集めて何かやってるのよ。
ハレルはサビス卿や町役人などの集まりに参加して、これまでの旅で得た体験を話す事になっていたのよ。
メメシアは街の教会で、集まった街の人達に説法を語っていたの。
そんでもんで時間を持て余したあたしは、サビス卿の奥様のフリダイアさんと、アポテレーゼさんの3人で、大きな湖に遊びに来ていたのよさ。
まあ、詳しく言えば、護衛の兵士が2人、付いてきていたんだけどさ、無口だし、いないみたいなものだったのよさ。
「この湖畔の館は、サビス卿閣下が狩りの時に使う休息地なんです。他にも客人をもてなす時に使用します」
おお、そんな高貴な客人をもてなす館、あたしには無縁だと思ってたのよ。
なんか、偉くなった気分だわさ。
「ほら、マジョリンさん。せっかくだから小舟を出しましょ。アポテレーゼ、漕ぐのお願い」
「承知しました」
あたし達は小舟に乗って湖の上に出たのさ。
並みはほとんどなく、そよ風が心地よいのよさ。
あたし達の船の後ろ、少し離れた所で護衛の兵士2人が小舟に乗って、付いてきていたけど、無口だし、いないみたいなものだったのよさ。
「ねえ、マジョリンさん。とっておきのワインがあるの。南の美食の国から輸入した美味しい赤ワインなの」
っと、ワインの入った水差しを見せてくれるフリダイアさん。
持ち手付きのカゴにはパンとチーズが入っていたのよさ。
湖の真ん中で小舟を止めて、あたし達3人でランチをはじめたのさ。
アポテレーゼさんがゴブレットにワインを注いで渡してくれたのよ。
ワインは赤黒い色をしていて、熟成されている感じだったのよ。
香りをかいでみたのさ。
フルーティーでエレガンス、そしてほんのりスパイシー。
そして、ゆっくり1口・・・
まるで花園だわさ。
1口飲んだ瞬間、あたしは花園の真ん中にいるかのような香りに包まれたのよ。
味わいは奥深く、複雑かつ嫌味の無いアロマ感。
それだけ香りが強いにもかかわらず、すっきりとし、変な雑味が無いのよ。
「これは・・・まるでワインの女王だわさ・・・」
「あら、とてもお気に召して頂けて何よりです」
「丸を付けて評価しようとすると、丸が5個で満点中、丸5個だわさ」
こんな素晴らしいワインを味わえるあたしは、きっと特別な存在なのだと感じたんだわさ。
ゆったりと船の上、素敵なワインを味わいながら、ほのぼのおしゃべり。
時々小さな魚が飛び跳ねたり、小鳥が小舟のふちにとまって、パンのくずをねだるかのように歌いだす。
ここは楽園か~!?
ゆらゆらと、船の揺れに合わせてグラスを揺らすの。
暖かい日差しの下、ワインの香りを振りまいて、ほのかにいい気持ちなのよ。
ゆっくりとワインの香りをじっくりと、味わい続けるのさ。
まあ、後ろの小舟にいる護衛の兵士の2人、付いてきていたんだけどさ、無口だし、いないみたいなものだったのよさ。
でも、よくよく見て見ると、兵士の2人は居眠りこいていたのだわさ。
「ねえ、マジョリンさん。秘密の話なんですけど・・・」
「秘密の話し?」
「はい。実は私、悪い魔女に狙われているのかもしれないのです・・・」
「およよ、フリダイアさん、何かやらかしちゃったの?」
「かなり前の事なんです・・・その、興味本位で魔女の集会に行ったことがあったんですよ・・・」
「魔女の集会・・・あたしの知り合いの魔法使い達の集会は、ただの座談会で、魔法の話しよりお酒の話で盛り上がってたけど・・・どんな集会だったのかねぇ」
「噂を聞いて行ってみたのです。黒魔術の儀式だったんです。そんな危険な集会とは知らず・・・山羊の頭をかぶった男と、魔女の軟膏を使って暴れ狂うように踊る魔女達がいました・・・」
「それは危ない連中だねぇ・・・」
「会場は森の奥、私はその儀式を見て、逃げて帰ったのです。それ以来、あの時の風景がたまに夢に出るのです・・」
「まあ、そんだけ印象に残るもの見たらさ、夢にだってでるよねぇ・・・」
「私は、命を狙われているかもしれません・・・」
「そんなに気にしないで、そういう悪い儀式やってる連中ってのは案外、社会的地位の低い人達なんだわさ。日頃のうっぷんばらしに、どこかの村の人達がやっている事があるって聞いたことがあるのよさ」
「でも、この領地内の村人達・・・悪い事でしたら、止めた方がいいのでしょうか?」
「どうだろねぇ・・・あたしはそういう人を、村を、街をまとめる政治的な事にはうといからねぇ~・・・下手すると、火あぶりの刑ってのもあり得る話しだしぃ・・・あたしだったらそっとしておくかなぁ~」
「悪魔と契約するような儀式ですよ?変な魔物を引き寄せたりは・・・」
「素人のやる儀式にどれ程効果があるか、見て見ないとわからないけどさ、確かに危険である可能性は微々たるものだけど存在するとは思うなぁ~・・・」
「大事にしたくはないのです・・・興味本位でそういう場所へ行ったことも知られてはならないですし、愛すべき領民達の娯楽でしたら、下手に騒ぎになってそれこそ火あぶりなんて事になったら、胸が苦しいです・・・」
あたしは少し考え込んだのよ。
メメシアに話したら危険かもしれない・・・
ハレルやプロテイウスも下手に巻き込むのは良くない気がするし・・・
「わかった、あたしが確認しに行くよ。だから、いつ何処でやっているかだけ、教えて欲しいのだわさ」
っと、黒魔術の儀式を覗き見しに行く事になってしまったのよ・・・
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