第12話 悪しき魔女共の集会
あたしはフリダイアさんの依頼で、悪しき魔女の黒魔術の儀式を見に行く事になってしまったのだわさ。
フリダイアさんから、黒魔術の儀式に近寄る為に使った塗り薬を手渡されたのさ。
いわゆる魔女の
フリダイアさんがどうやってこれを入手したかはわからなかったけどさ・・・
これの材料については、作った魔法使いによってかなり変わるのよ。
あたしのお師匠さんか教わったのは、ハーブをあわせたものだったんだけどさ、悪しき魔女と呼ばれる連中は何を材料にしたものかわかったもんじゃないのよさ。
噂では、洗礼を受けていない子供を生贄にしているとも・・・
そういう悪い連中は魔女狩りされても仕方がないと思うのよ。
日が暮れた頃、あたしは儀式が行われているとされている森へ向かったのよさ。
でも、森の中を歩いていると、どうも同じ所を歩き続けている感じなのよ。
どうやら結界がはってあって、部外者は立ち入れないみたいなのさ。
そこで、受け取った魔女の軟膏をおでこに十字を書くように塗ったのよさ。
すると、それまで行けなかった所に行けるようになったのだわさ。
その先で、焚火を囲って女の人が6人、何も着ていない、生まれたままの姿で輪になってダンスっちまっていたのよ。
焚火の奥に、羊のような頭の男、いわゆる角のある偽りの神が座っていた。
「いいぞ・・・もっと踊れ。踊って汝らの霊力を我に注ぎたまへ」
偽りの神がそう言いながら、金色のゴブレットに入った酒らしきものを飲んでいた。
あれは・・・なんのお酒だ?
いや、お酒と決まったわけじゃないけどさ、やっぱりこういう儀式で飲むならお酒のはずだよねぇ・・・
実に気になる・・・
ワインかな?
聖杯的なものにはワインはつきものだよね。
救世主の血はワインだもんね。
いや、悪魔的だとどうなんだろうか・・・
薬草酒かな?
錬金術も関係しているかもしれないから、蒸留酒・・・?
「あのぉ~・・・すみません、ちょっとその儀式、参加してもいいですか?」
っと、あたしは好奇心から、もっと近寄ってみる事にしたのよ。
「あ、はい。どうぞ。初参加ですね?」
っと、角の生えた偽りの神がとっても事務的な話し方で対応しはじめたのよ。
「はい。初参加です・・・」
「その場合、参加費は無料となります。もし、気に入って頂けまして参加を続けることになりましたら、月額費用で参加できます」
月額参加費のあるサバト・・・
「ようこそ!私達秘密のサバトへ!楽しんで行ってね!」
「あなたもなれたら全裸になって踊ってみるといいわ!開放的で楽しいのよ!」
っと、裸の女の人達はあたしを向かい入れてくれたのよ。
あたしは周りの人達の踊る振付をみて、ぎこちなく真似しながら踊ってみたんだけど、まあ、自由気ままな振り付けみたいで、統一性がないのよさ。
しばらく踊ったら休憩時間があって、そこで偽りの神が山羊の頭みたいなかぶりものをとって、みんなにお酒をふるまったのよ。
気になるお酒の正体は、蒸留酒のシュナップスとリンゴの果汁を足したものだったのさ。
シュナップス自体に薬草の香りづけがしてあって、爽やかな香り。
少し薬っぽい感じもあるけど、リンゴの果汁で薬っぽさの嫌な部分がまろやかになってるのさ。
「新人さん。見た目は立派な魔女だけど、もっと自分を開放したほうがいいわよ。せっかく悪い事して楽しんでるんだから、悪い事に染まらないと損よ」
参加者の全裸女性は熱くこの儀式について語ってくれたのよ。
まあ、結果はわかったのさ。
これは全裸ダンスサークルだったのよ。
黒魔術の儀式風に踊って楽しんで、それぞれ交流して、お話しして、悩みとか相談して、日ごろのうっぷんばらしだったのさ。
魔女の軟膏による結界は、主催者の男が過去に修道院で写本業務についていた時に、禁書を盗み見して覚えた技だったとの事。
邪気が集まらないように、対策もばっちししていたのよさ。
無害ではあるけど、メメシアみたいな堅物が聞いたら神への冒涜だと、激怒するだろうねぇ・・・
「所で偽りの神役さん。月額って言ってたけど、みんなはどうやって払っているのかなぁ?」
「みんなそれぞれですよ。ビールだったりパンだったり麦だったり、一番多いのは自作の藁の編み物ですね。収穫の後は特に多いです。麦わら帽子や日差し除けなどです。私はそれらの会費でこの会を維持するようにやりくりしています」
「真面目なんだねぇ・・・」
「ええ、修道院に勤めていた時に感じた生きずらさを開放させる事、祈る事も大切ですが、羽目を外す事も人として大切だと信じて活動を続けています。参加者の皆様はこの会が生きる楽しみになっていると言ってくれて、うれしい限りです」
確かに、それじゃあ偽物の黒魔術の儀式で盛り上がれる理由か~・・・
目的は集まって、騒ぐ事だったのねぇ~・・・
「ねえ、魔法使いの衣装を着ているあなた。何かイケてる歌、歌えないかしら?」
「そうねぇ。ものは試しだわさ」
あたしはリュートという弦楽器を受け取って、この集会の空気に染まるような、いや、さらに上を行く開放的な音楽をキメてやろうって思ったのさ。
本当の魔法使いの実力を見せてやるのさ。
ぴゅぅ~ん
ぴゅ~ぴゅ~・・・
風の魔法を使って、不気味な音を立てる。
ジャガンジャジャガンジャ
チューニングもめちゃくちゃなリュートを本能のままに弾く。
あたしの躍動に共鳴した偽りの神が太鼓を叩き始める。
「神は知る、あたしゃ天使なんかにゃなりたかねぇって事をよぉ!」
怒るように、しかし高音すぎない声で歌う。
リズムに合わせて頭を振る人々。
これは新しい音楽だったのさ。
どんな音楽かって一言で表すとしたら、
この場にいるみんながあたしの音楽で一体となったのよ。
調子に乗って、炎魔法を使って、リュートの先端から火炎放射をふく演出までやっちゃったのよ。
飲んで、暴れるように歌って、みんなで盛り上がって、最高に刺激的で楽しい夜になったのよ。
こんな事やっていたなんて、メメシアには口が裂けても言えないねぇ・・・
☆☆
翌朝、あたしはフリダイアさんに昨晩の事を報告しに行ったのだよ。
「あの集会は無害だったのよ。日頃のうっぷんばらしに集まっている会だったのよさ。だから、フリダイアさんは心配しなくてもいいと思うのだわさ」
「そうなのね。それならよかった・・・悪趣味な感じだったけど、やっている事は裸になって踊ってはしゃいでいるだけだったなんて、微笑ましいですわ」
「ただ、これは秘密にしていたほうがいいと思うのさ。下手に教会が知ると、教会の教義として見逃すわけにはいかないからさ」
「ええ。もちろん秘密に致します。ご協力、ありがとうございますね。お礼もしなくちゃですわ」
フリダイアさんは召使いのアポテレーゼさんを呼んで、ワインの樽を転がして持って来たのよ。
「ほら、湖で飲んだワイン、気に入っていただけたようですので、また別のワインですがどうぞ」
「いやいやぁ・・・流石にそれは持って行けないよぉ~」
でも、あたしはしばらく使っていなかったワイン用の革袋にたっぷり入れてもらったのよ。
いやぁ、これはこれは、大変うれしいご褒美なのよさ。
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