第4話 酒は魂の栄養剤



ゴブリンの巣窟の奥で、ゴブリンの親分相手に勇者ハレルの持つ、神の雷の力が発揮されたの。

圧倒的な力でゴブリン達を壊滅させたし、はぐれたプロテイウスも見つけれたしで、あたし達は村人達から歓迎されて、その夜は宴が開かれたんだわさ。


「わたくし達、お酒は飲めないです」


折角村人達が用意してくれたと言うのに、メメシアはお酒関係は全部断ってしまったのよ。


「マジョリン。隠れて飲んだりしたら許しませんから」


っと、睨まれてしまう・・・

困ったものだよ・・・

御馳走をいただいたものの、やはりお酒が欲しかった・・・


宴も終わり、あたし達はそれぞれ、村人達が用意してくれた寝所で寝る事になったのさ。

1人1部屋用意してもらったのさ。

村に酒場は無いし、今夜は飲めずに寂しく寝るだけかと思ったの。


トントン


あたしのいる部屋の戸を叩く音がしたのさ。


「マジョリン。起きてる?」


ハレルの声だったのさ。

あたしは戸を開けたのよ。

そこには陶器の水差しの容器と、小さな丸い陶器を持ったハレルがいたのさ。


「あ、よかった~。マジョリンまだ起きていたんだね」


「うん、なんか眠れなくてさ~」


「今、メメシアも寝たし、これ、村の人がくれたんだ」


ハレルは部屋に入って来て、テーブルの上に水差しの容器と、小さな丸い陶器を置いたの。


「ねえ、この部屋、グラスあるかな?これ、アプフェルザフトと、ブラントワインなんだ」


陶器の水差しの容器にアプフェルザフトというリンゴの果汁を絞った飲み物、小さな丸い陶器にブラントワイン、ワインを蒸留した強めのお酒が入っていたのだ。


「え?ハレル・・・あたしの為に?」


「うん、マジョリンはお酒、大好きなのに、みんなと一緒にいると飲めないじゃん?だから、みんなにはナイショだよ」


「ありがとうハレル~。あたしゃ~うれしくてうれしくて、涙がちょちょぎれそうだわさ~」


「喜んでもらえてよかった~」


あたしは早速、部屋に置いてあったグラスにブラントワインを注ごうとしたんだけどさ、ブラントワインの量がそれ程多くないのよ。

できればじっくり味わいたいって思って、勿体ないけど、ブラントワインをアプフェルザフトで割って飲む事にしたのだわさ。

もう一つのグラスには、アプフェルザフトを注いで、ハレルと乾杯したのよ。


早速、ブラントワインをアプフェルザフトで割ったこの飲み物を1口、リンゴの果汁の甘みと酸味が程よくブラントワインをまろやかにさせ、強い酒の飲みやすくしていた。

まあ、あたしは強い酒も好きだけどさ、こういう飲み方もありだなって思うのよ。


でも、なんかもうひとつ工夫があるといいかもしれない・・・


「あ、いい事思い付いちゃったのよ」


あたしは自分のバッグから、陶器の小瓶を取り出したのさ。

中には緑色の薬剤酒が入ってるのよ。

甘みがあるけど薬臭さが強く、酒としても強いの。

あたしはそのまま飲んでも行ける口だけどさ、苦手な人は苦手だろうね。


そんでもんで、あたしはこの薬剤酒を1滴2敵、たらしてみたのさ。

少し混ぜて飲んでみるとこれが妙にあうのよさ。

薬剤酒のハーブの香りが全体の味のメリハリを向上させるのさ。


「マジョリンは美味しそうにお酒を飲むね」


ハレルは楽しそうに笑みを浮かべてあたしを見つめていたのよさ。

そんな純粋な笑顔で見られちゃうと、あたしも少し恥ずかしぃのよさ。


「マジョリンはお酒が好きになったきっかけってあるのかな?」


「う~ん、きっかけ・・・あたしの魔法使いのお師匠さんがお酒好きでさ、お酒について色々教わったから、お師匠さんの影響もあるのかな~・・・でも、お師匠さんから話を聞いてた時は特に興味は無かったんだけどさ~・・・」


あたしは考えたの。

けれども、答えは見つからなかったのさ。


「うん、きっかけはよくわからないや。気が付いたら大好きになってたって感じだわさ」


「そういうものなの?」


「そうさ。そういうものさ。お酒飲みなんてね」


わかったのか、わからなかったのはわからないけど、ハレルはちょっとうれしそうだったのさ。


「ボクも早くお酒が飲めるようになりたいな~」


「でもさ~、メメシアに怒られちゃうよ?」


「怒られてもいいかな。マジョリンと同じ気持ちを体感したいよ。だって、お酒を飲んでいる時のマジョリンは凄く幸せそうなんだもん」


「そんなに見てわかる程に態度に出ちゃっていたかな~?」


「うん、旅をはじめる前、初めてマジョリンを酒場で見つけた時、きっとこの人と一緒に旅ができたら楽しいんだろうなって思ったんだよ」


「それが、あたしを仲間に誘ったきっかけ?」


ハレルは少し、恥ずかしそうに視線を泳がせた。


「うん、他の魔法使いの人って、妙に気難しそうで、中々打ち解けれないだろうなって感じてさ・・・声も掛けにくかったんだよ・・・」


確かに、魔法使いは基本、インテリ気質で哲学的で、高慢ちきが多い・・・

あたしも同業者と仲良くなるのは苦手だなぁ~・・・


「ねえ、マジョリン・・・ボク達と旅してて・・・その、無理してない?」


「お気遣いありがと。でも、大丈夫だよ。メメシアとはお酒の事ではもめちゃうけどさ、それ以外は仲良くできてるし、プロテイウスも筋肉自慢の話しはよくわからないけど、さりげない所で気が合うからさ、ハレルは心配しないで。一番はハレルがみんなに気を使って、ちゃんとまとめてくれるから、とっても居心地がいいよ」


「そ、そうかな?でも、それならよかったよ。ボク、まだ仲間達をまとめる事、不慣れな所があるから、何か足りないって感じたら教えて欲しいな・・・」


「ハレル。そんなに思い悩まなくても大丈夫だわさ。抱え込み過ぎないで、たまにはあたしにも相談して大丈夫だからね」


ハレルはうれしそうにうなずいた。


今夜のお酒は、ハレルのやさしさと思いやりが心に染みた、暖かい気持ちになれるいいお酒だったのさ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る