第5話 健康の為にと言う名の免罪符



硫黄の臭いがする町にたどり着いた。

この町は健康にいいとされる温泉が湧き出る、温泉の町だったのさ。


多くの人達がこの町の温泉を求めて訪れる。

あたし達はせっかく立ち寄ったので、温泉に浸かってみるって事になったんだけどさ、温泉は宿泊施設も兼ねていて、その数も多い。


「うちの湯は若返りの泉だよ~」


「うちの裏には温泉の泉があって、泳げるよ!騎士になる為に磨くべき技能、水泳の練習にいかが?」


「入浴し、身を清める事、それこそ礼拝に必要な姿であると教会医師も推薦しています。うちの湯は清めた聖水も継ぎ足しています」


宿の前の呼び込みが多く、どの宿の温泉がいいのかとても迷う。


「ねえ、ここは呼び込みしていないし、すぐに入れそうだよ」


っと、ハレルが目を付けた宿に入る事になったのさ。


宿の入り口で、老婆が出迎えてくれたのよ。


「ようこそ。ここの温泉に入ると若返りますよ」


っと、老婆に言われても説得力がないな・・・


「ちなみにわしは今年で95歳じゃ。それでも元気にお客様を出迎えれているのは、ここの温泉の効力と、毎日神様へのお祈りをかかさないからじゃよ」


「あ・・・アーメン・・・」


思わず祈りの言葉が出る程に驚いたのさ。

効力があると認めるしかないのだわさ。


ここの温泉は、大きな浴室があって、人が4人程入れる大きな何個も置いてあるのさ。

男女混合の混浴であはるけれど、温泉に浸かる時は温泉用の衣装に着替えるのさ。

簡単に言うと、温泉用の長い前掛けなのさ。温泉用エプロンなのさ。

もちろん、肌着は脱いで、温泉用前掛けだけ着衣して入るのよ。

なお、男性は温泉用のパンツをはくのである。


あたしとメメシアは温泉用の前掛け姿になったのさ。


「メメシア・・・結構体、鍛えているのね~・・・体系がまるで女騎士みたい」


「何を言っているのですか。マジョリン、あなたがだらけすぎなだけです」


温泉用のパンツをはいたハレルとプロテイウスも浴場に姿を出す。


「おー、おまたせ!ハレルのやつ、妙に恥ずかしがっちまって、うぶな少年だぜ」


プロテイウスの後ろに隠れたハレル、あたしとメメシアの姿を見てすぐに目をそらしてしまった。

顔を赤くして、うぶな男の子丸出し状態なのよ。


あたし達は早速、ひとつの大きな温泉たらいに入るの。

お湯の温度はそこまで熱くなく、ぬるめの湯なのさ。


メメシアのとなりにあたし。

プロテイウスのとなりにハレル。

あたしとハレルは向かい合って浸かったのよ。


「ハレル?お湯加減、熱いかい?顔が赤いのよ~」


っと、からかってみたりして、ハレルの反応を楽しんでみちゃうわけよ。


「ハレル。熱いと感じた時はもっと上半身を外に出して、体の熱を調整するといいですよ」


メメシアのアドバイスに、ハレルは静かにうなずいたのよ。


「お客様、お湯加減はいかがですか?温泉に浸かりながら夕食を取る事が出来ますが、いかがですか?」


っと、温泉宿の若い従業員が声をかけて来た。


「お、夕食、いいね~。頂いちゃいましょうか~?」


全員賛成で、温泉に浸かりながら夕食を取る事になったのさ。


「夕食に、この町の新鮮なミネラルウォーターと、万病の予防に最適の健康にいいハーブのベトニーを漬けた薬効つき赤ワインなどはいかがですか?」


「あ、その赤ワイン、飲んでみたいのよさ」


「マジョリン。お酒はダメです」


「え~、でも、健康にいいんでしょ~?健康の為に~」


「そうですお客様。体の健康ばかりか、魂を清める効果もあります」


「それならオレも、飲んでみたいぜ。温泉に浸かった上に、さらに健康になれちまうお酒があるなら、最高じゃねえか」


「・・・わかりました。ただ、健康にいい所までですよ。飲み過ぎたらいけませんので」


なんと、交渉して見るものだよ。

堅物メメシアが飲酒を許可してくれるなんて、きっとこれも温泉に浸かって、頑固な意志がほぐれたからに違いない・・・

温泉の力って、すごいもんだわさ・・・


あたし達の温泉たらいの真ん中に板が置かれたのさ。

その板の上に、皿に盛った料理は牛肉と野菜を生クリームで煮込んだフリカッセと言う南の地域の料理と、バケットに入った白いパン、スズでできたワイン用の水差しと、2つの空のグラスと、4つのミネラルウォーターが入ったグラスが置かれたのさ。


あたしとプロテイウスはグラスにワインを注いだのさ。

そして、さっそく、ワインを1口・・・


「っひゃー!温泉に浸かりながらワインを飲む、体に染みるね~!」


「おお、オレの筋肉も喜んでいるぜ!」


ワインを飲んだあたしとプロテイウスは喜びに満たされたのさ。

祝福されたのよ。

身も、魂も安らぎだわさ。


「主よ、酒のの望みの喜びよ~」


「マジョリン。あくまでも健康の為ですよ。はしゃぎすぎないでくださいね」


「は~い」


このワイン、さっぱりした口当たり、葡萄の果実はあまり感じさせないけれども、味わいに深みがあり、されど重すぎず、口の中がすごくさっぱりするのよ。

ハーブを付けてあるからか、花のような香りもして、体の内側まで綺麗になっていくようにさえ感じるのさ。


白いパンの上にフリカッセの肉と野菜を乗せ、スープも少しかけて、食べる。


とてもジューシーで、肉と野菜のうま味がクリームの優しい味に包まれて、口の中で広がる。

その後にワインを1口。

これは素晴らしい。

幸せの食べ合わせだわさ。

あきれた顔してミネラルウォーターを飲むメメシアも気にならないのよ。


「お客様。熱いお湯、追加しますか?」


温泉の従業員が声をかけて来た。


「追加で!」


温泉に熱いお湯が追加されると、お酒を飲んだ後の体の血の巡りがさらによくなったみたいで、とっても体が温まって気持ちがいい。


あたしは温泉を味わい尽くしたのだよ。



☆☆



その後、宿の寝室で、ハレルはのぼせちゃったみたいでぐったりしてたのよ。


「ハレル大丈夫?ほら、水、飲んで」


メメシアがハレルにミネラルウォーターの入ったコップを渡したのさ。

その時、ハレルはメメシアの胸元を見て、何を思い出したのか、鼻から血が出てきちゃったのよ。


ハレルは恥ずかしそうに布で鼻血を拭きながら、顔を隠しちゃったのさ。


「ボクには、まだ、刺激が強すぎたみたいです・・・」


おやおや、うぶな男の子だわさ。



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