第3話 ゴブリンの隠し財産
立ち寄った村の村長に頼まれ、夜な夜な村を襲ってくるゴブリンの討伐にむかったのさ。
ゴブリン達が住み着いている洞窟を見つけ、入ったはいいものの、情けない事にあたしはみんなとはぐれちゃって、今、1人で洞窟をさまよっているのさ・・・
火の玉の魔法を使っているおかげで、真っ暗な洞窟の中でも足元を照らして歩いて行けるんだけどさ、流石にこんな所で1人は心細いよ。
「おーい!ハレルー!プロテイウスー!メメシアー!どこー!」
皆の名前を呼んでみても、虚しく響き渡るだけ。
歩くのも疲れて来たと、少し座り込んで休憩していた時、奥の暗闇に何かが動く姿が見えたのさ。
あたしはやっとみんなと再会出来たと喜んで駆け寄ったんだよ。
「ぎぃーーーー!」
妙な声をあげたそれはゴブリンだったのさ。
しかもその数、5、6体・・・
あたしの姿を見たゴブリン達は一斉にあたしに向かって飛びかかって来たのだわさ。
「ブレンネンシュトゥルム!」
炎の嵐を巻き起こす魔法を唱え、ゴブリン達を焼き尽くしたんだわさ。
ついでに、ゴブリン達が落とした銀貨を拾って、あたしは再び仲間達を探すために歩き始めたのさ。
すると、目の前に小さな部屋があるのを見つけて、恐る恐る入ってみたの。
中には樽が数個置いてあったのさ。
「何か、お宝でも隠してあるのかな~」
恐る恐る樽を開けてみると中は赤い液体に満たされていたの。
げげっ、気持ち悪いって思ったんだけど、その液体からは甘い香りがしてきてさ、恐る恐る指を付けて舐めてみたんだ・・・
「お酒だこれ!」
甘酸っぱい香り、これはどうやらゴブリン達が野生のラズベリーを発酵させて作ったラズベリーワインのようだったの。
こんなにいっぱいある。
それに今、禁酒禁酒とうるさいメメシアもいない・・・たっぷりと飲めるチャンスだと思ったのさ。
しかし、グラスが無いのよ。
カバンに入ってる薬を調合する為のすり鉢じゃ、薬の臭いが付いていて、せっかくのお酒の味が台無しになっちゃうのよ。
さて、どうしたものかね・・・思い浮かぶ手段は1つしかない。
あたしは樽に顔を突っ込んで、酒をすすり飲んでみたのさ。
鼻と口を樽に入った酒の水面につけ、すすり飲む・・・
ズズズズ・・・
「っくはー!なんって品の無い飲み方をするあたし!でも、こんな飲み方、普段は絶対できやしないね!」
これは背徳感のある飲み方なのよ。
やっちゃいけない事、やってる時のドキドキ感と、それから得られる酒の報酬。
まさに、盗賊のような飲み方。
もうこの際だから、顔面を酒に浸して飲む。
まるで花の蜜を吸う蜂のようだわさ!
しかし、ゴブリン達もあなどれないねぇ。
こんなうまい酒を造るとは恐れ入ったのよ。
顔面をお酒で濡らして、ラズベリーの香りがもう、止まらないのよ。
程よい甘みと酸味、これを口だけでなく顔で味わう贅沢というよりも蛮行よ。
今、あたしはゴブリンよりも魔物らしい魔物をやってる気分だわさ。
呼吸をするだけでも幸福になれる甘い酒の香り。
酔いがまわりやすく、心地よいの。
古代の戦闘部族の王は、名誉の死として、酒に溺れさせて殺すという処刑方法を受けていたと、歴史書に書いてあったのを読んだ事があるんだけどさ、死ぬなら酒で溺れてしぬのはあり中のありだなって思うのよ。
今のあたしは、名誉の死ならず、名誉の仮死状態ってところかね?
「マジョリン・・・何してるの?」
聞き覚えのある声に振り替えってみたら、そこにはあきれた顔をしたメメシアが腕を組み、汚物を見るような目であたしを見ていたの。
「あ・・・メメシア?」
ラズベリーワインで濡らした顔からしたたり落ちたのは、ワインの水滴か、それとも嫌な汗なのか・・・
一番、ばれたくない相手にばれちゃったのよ。
「あの、こ、これは・・・」
「これは?」
「・・・た、樽の底に何か、何かお宝っぽいものがあったんだわさ!」
あたしの咄嗟に出た言い訳を聞いたメメシアはクソデカため息をついたのよ。
「見るからにそれはお酒で、わたくし達がいないのをいい事に、こっそりと飲んでいたって所でしょ?正直に言いなさい」
「え、だ、だから、樽の底に」
「神に誓って言いなさい」
「・・・ごめんなさい。樽の中はお酒で、みんながいないのをいい事に、1人で飲んでましたぁ~」
再びメメシアはクソデカため息をついたのよ。
「マジョリン・・・あなたって人は・・・お酒は人の堕落させる悪い飲み物だと何度言えばわかるのやら」
メメシアのクソデカ長い説教が始まると思った時、
「あ、マジョリン!やっと見つけたぁ!」
そう言ってハレルが私に駆け寄って来てくれたの。
「マジョリン!もう、何処行ってたの~!心配したんだよ!」
「ああう、ごめんよぉ・・・」
ハレルが来てくれたおかげか、メメシアの説教は止まってくれた。
助かったよ。
ありがとうハレル。
「みんな集まった事ですし、ゴブリンの親玉を倒しに行きましょう」
「そうだね。これで心置きなく戦えるね」
「・・・ねえ、プロテイウスの姿が見えないのだわさ」
メメシアもハレルもはっとした様子。
次はプロテイウスが迷子になってしまっていたのだわさ・・・
☆☆
「マジョリン、その火の玉、邪魔だから消してください」
「え?これが無いと真っ暗で周りが見えないよ?」
「大丈夫。わたくしの力で何とかなります」
火の玉を消すと周囲は真っ暗闇。その闇の中でメメシアは魔力を集中させた。
「バサラ!」
メメシアが力強く呪文を唱えると、メメシアの背後から強い光が放たれ、周辺が明るく照らされたの。
「飲酒を断ち、日々を清く生きていればこのような事、簡単にできるのですよ。アーメン」
あたしはそれは出来なくていいからお酒を飲みたいって思ったんだわさ。
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