第2話 酒に勝る薬無し



凶悪な魔王は凶悪な魔物達を世にはなった。


人の世は、魔物達の脅威にさらされていた。


魔王の恐怖から人々を開放する為、勇者達は魔王に立ち向かうのであった。



☆☆



木が生い茂る森の中。


巨大な蜘蛛タイプのモンスターに遭遇したのよ。


なんか糸吐いてくるし、毒も吐いてくるしで少々苦戦。


「マジョリン!あの蜘蛛の動きを止めて!」


「わかったさ!やってみるんだわさ!」


あたしは魔法の矢を放ち、蜘蛛の足を射抜いたの。

蜘蛛の動きが止まって、メメシアは精神を集中させたのさ。


「オン!バサラダトバン!」


メメシアが聖なる呪文を唱えると、モンスターは聖なる光に包まれてあっという間に消滅しちゃったのさ。


「流石メメシアさん!」


褒めたたえるハレルの言葉を聞いても、何食わぬ顔のメメシア。


「マジョリンのアシストがあったから上手く術をかけれたので、わたくしではなく、マジョリンの手柄ですよ」


っと、手助けをしたあたしを評価してくれているみたいなの。


「そして、マジョリンが上手く魔法を使ってアシストを出来たのは、神のご加護があったからにほかならないのです。神の導きに感謝をしましょう。アーメン」


僧侶として、真面目すぎると素直に喜んだりしないみたいで、堅苦しすぎて困ったものだわさ。



☆☆



今日はモンスター達との戦いで、予想以上に時間を取られちゃった為、焚火を起こして野宿する事になったの。

プロテイウスが背負っている野宿セットを広げて、あたしは夕食を作るのを担当したのさ。

夕食を作ると言っても、そんな手の込んだものじゃないんだけどさ、小さな鍋でリンゼボーネって豆のスープを作ったのだよ。

具材のリンゼボーネと、豚肉の腸詰めブルストを切ったものを煮込んで、数種類のハーブで味を調えただけなんだけどさ。


あたし達はライ麦の割合が高い黒パンをナイフで切り分けて、スープを具をパンの上に乗せて食べたのよ。


「マジョリンの作るスープ、美味しいよ」


簡単に作ったスープだけど、笑顔で喜んでくれるハレル。


「流石は魔法使いだけありまして、ハーブの使い方を熟知していますね・・・あ、ブルストはハレルにあげますね」


メメシアは自分のパンの上に乗ったスープの具材のブルストを取って、ハレルのパンの上に乗せた。


「メメシアは肉、食べれないんだっけ?」


「いいえ。わたくしは必要がある時は食べます。でも、ハレルは勇者ですがまだまだ成長盛りの若者ですので、もっと栄養を取って、強くなってくださいね」


ハレルはちょっと、照れているようで、なんか可愛い感じ。

こんな感じに夜は更けて行ったのさ。



☆☆



夕食を済ませた後、寝る事になるんだけどさ、ここら辺は夜中もモンスターが出没するの。

警戒の為、交代で1人、見張りをする事になったのさ。


「ほら、マジョリン。お前の番だぞ」


順番はすぐに周って来たのさ。

あたしはプロテイウスに起こされて、眠いまぶたをこすりながら周囲を見渡したわけ。

異常は無いみたいなんだけどさ、用心するに越したことは無いってやつ。

プロテイウスはすぐに眠りについて、いびきをたてているの。

勇者ハレルも、昼間、モンスター達と戦っていた時の凛々しさを忘れたかのような、幼さの残る可愛らしい寝顔でぐっすりと眠っていたし、メメシアも時々歯ぎしりをするんだけど、熟睡していたのさ。


さて、今が絶好の飲酒チャンスである。

あたしはカバンの中開けるの。


あたしのカバンに入っているのは、魔法書、薬剤調合書、薬を調合する為のハーブとすり鉢、陶器の小瓶に入った魔力回復の為の薬、へそくりの銀貨や小さな宝石、そして、何よりも大切なものがあるのさ。


革袋を取り出したわけ。

中にはワインが入っている。

これこそ何よりも大切な愛用のワイン用革袋さ。


焚火の様子を見て、火が消えないように薪木を足した後は、こっそり飲酒タイム。


革袋は使い始めこそ、革の臭いがワインに影響するけど、しばらく使ってワインに馴染んだこの革袋の臭いはそこまで気にする程ではないのよ。


ちょっとだけ残る獣の臭いはかえって、干し肉を連想させるのさ。

干し肉を食べていないのに、まるで干し肉を肴に1杯やってる感じになるの。


それと、ワイン用にある程度使い古した革袋に入れたワインがまた、別の方向でいい味になるのさ。

革袋の中でさらにワインが熟成されるような感じ。

革袋とワインが共存しているかのように、お互いをより良いものとする・・・

樽に入ったままのワインとは別の、旅を知ったワイン的な?

これでしか味わえない味っていうのは確かなのだよ。


空を見上げれば木と木の合間から、雲一つもない綺麗な星空が広がっているのが見えたのよ。

星が群れを作り、まるで川のようになっていて、とっても綺麗なのよ。

こういう星空を見ながら酒を飲む、星を肴に酒を嗜むってやつ?

これもまたいいものだわさ。

まるで詩人だね~。


まあ、このワイン、あまりいいワインじゃないから、飲みすぎると明日、二日酔いになりそうだわさ。

だから、程々にしておこうって思いつつ、ちびちびと夜空を眺めてワインの香りを味わっていたのだわさ。


まるで哲学。

ほろ酔い気分で、オリジナルの星座なんか考えたりして、そんな自分に酔う。

いい飲み方だわさ。



☆☆



二日酔いになるから飲む量を程々にとか思っていたけど、気が付けば革袋は空っぽだったのよ。

ついつい飲んじゃう、悪い癖だわさ。


まあ、そろそろメメシアと交代しよう。

あたしは熟睡して歯ぎしりするメメシアの肩をそっと叩く。


「・・・酒臭っ」


メメシアはあたしを睨んだ。


「あなた、お酒は止めてって言ったのに、隠れて飲んでたの?」


寝起きなのに頭の回転が素早いメメシア。


「えっと、これはほら、蜘蛛モンスターの毒、ちょっと受けてたみたいでさ、解毒剤を飲んだのさ」


あたしは咄嗟に言い訳をした。するとメメシアはあたしの手を掴んだの。


「そうなら早く言いなさい。解毒の術で回復させるから」


メメシアはあたしの嘘を信じて、かえって心配してくれたの。


「ありがとう・・・ほら、メメシア、気持ちよさそうに寝てたし、起こしたら悪いかなって思って・・・」


「こういう時は変に気を使わないで。ほら、目を閉じて。一応、解毒の術をかけるから」


メメシアに従って、あたしは目を閉じると、メメシアは解毒の魔法の呪文を唱え始めたのよ。


「オン・コロコロセンダリマトウギソワカ」


メメシアの魔法で、あたしの体の奥が暖かい気持ちになる。


「ありがとうメメシア。なんか、ごめんね」


「謝らなくていいです。ほら、ちゃんと寝て、明日に備えてください」


嘘をついて優しくされて、あたしはメメシアに謝るだけじゃなく、懺悔しなくちゃいけないなって思ったよ。


「おやすみメメシア。後はよろしくね」


「おやすみなさいマジョリン。神のご加護を。アーメン」



☆☆



次の日の朝。驚く程にすっきりとした朝を迎えた。飲み過ぎたとは思えない程に。

メメシアの回復魔法が二日酔いにも効く事を、身をもって体感したよ。


ありがとうメメシア!


荷物をまとめ、今日もあたし達の旅は続くのさ。



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