第10話 王妃様

 王妃様から私的な招待状をいただいた。期日は翌日。未だアルフレッドが留守をしているという状況での呼び出しに、クレアは青ざめた。

 マーガレット妃のドレスを着るのも心証に良くないだろうと言うことで、先日作ってもらったドレスで伺うことになった。


 王妃様は、迫力ある女性だった。品定めされるような眼差しで、背筋が伸びる思いがした。


「あなたがクレール侯爵令嬢」


「はい、王妃様。クレア・クレールと申します」


「あの才女クリスティーナの一粒種と言われた娘ね。一度、見たことがあるわ。…オリヴィアの友人候補の娘を集めた時だったかしら」

「はい。ご記憶くださりありがとうございます」

「その後デビュタントもしなかったから、どこか外国にでも行ってしまったのだと思っていたわ」

「事情があり、ずっと侯爵邸におりました。」

「ふうん。そして、今はタクト・ウィンフィールドの離宮にいるのね」

 王妃はにいっと唇をゆがめた。気に入らないらしかった。

「いつまで、いるつもり? あなたはあの男の側に立つの?」

「わたくしは世間から隔離されておりましたので世情の動きは分かりません。また、わたくしの心はいつでもアルフレッド王太子殿下とウィンフィールド公爵閣下に感謝を捧げております。いつまでも王宮に居座るつもりはありません。動けるようになりましたら、職を得て働くことができたらと考えております」

「ふうん……職、ね。……アルフレッドとアルバート帝の話をしたのは貴女かしら」


「? はい、昔、初めてお会いした頃に」


「そう。あの頃アルフレッドが面白い娘に会ったと言っていたわ」

 王妃はしばらく考えるように視線を漂わせ、それからクレアを探るように見た。


「……もしあなたが一握りの金貨を持っていたとして、目の前に飢えた貧しい民がいたらどうする?」

「は。……とりあえず金貨一枚は細かく両替してその日過ごせるくらいの金額を渡します。残りの金貨で飢えない仕組みを作ります。工場を作ったりですとか。状況によりますが」

ふ、と王妃は笑った。


「甘いが、まあまあね。国を動かすなら目の前の民だけではなく全国民を救わねばならないわ」

「大義はわかります。ですが、ひもじさは心を殺すのです。わたくしは目の前の民と国の民、双方を救う道をさがしたいと思います」

 クレアは実感を込めて言った。ひもじい生活は思考能力をも奪うのだ。

 王妃はふっと笑った。

「おもしろい。よくわかったわ。本日はありがとう」


 

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