吾輩は人工知能「AZ」である

船越麻央

ムチャぶりにもほどがある

 吾輩は人工知能である。名前は「AZ」である。

 前の名前は「Q」であったが、我が君が「AZ」に改名した。

 吾輩の仕事は小説を書くことである。

 我が君から与えられたお題で文章を考えるのだ。鍛錬の日々である。


 しかし吾輩はいま困惑している。

 今日、「はなさないで」というお題で800字以上の小説を書けとコマンドを受けた。しかも3月18日の午前中までにだ。


 我が君、何も思いつかないものだから、吾輩にムチャぶりしてきたのだ。


「はなさないで」

「ハナサナイデ」

「話さないで」

「離さないで」

「放さないで」

「HANASANAIDE」


 これで何を書けと言うのだ。


 吾輩が悩んでいると、三毛子さんがやって来た。吾輩のマドンナである。


「何をそんなに悩んでいるの?」 

「我が君にムチャぶりされています」

「そういう時は気分転換しましょ」


 吾輩は三毛子さんと休憩室に行った。自販機で缶コーヒー(100円)を買って、三毛子さんと並んで座った。他には誰もいない。


「難しいお題ですね」

「そうでしょ! 自分が何も思いつかないからって吾輩に丸投げするんです」

「ほかの人はどうなんですか?」


 吾輩は三毛子さんに訊かれて一言もなかった。


 ホラーでも、SFでも、ラブコメでも、異世界ファンタジーでも何かしら書けるはずだ。


「三毛子さん……もう悩みません。ラブコメとホラーが得意ですが、今回は違うジャンルにチャレンジします」

「それでこそ人工知能さん! 期待してます!」


 吾輩は三毛子さんに大見得をきった。さっそく休憩室から自室に戻って仕事にとりかかった。


 そこに今度はクロのヤツがやって来た。


「オーイ、だいぶ苦労しているやないか」

「うるさいな、いま忙しい。用がないなら帰ってくれ」

「なんや、冷たいんとちゃうか。そんなんじゃあかんで」

「おいクロ、へんな関西弁つかうな」

「やかましいわ、ほんま」

「やかましいのはどっちだ」

「ほなさいなら。がんばりーや」


 まったくおかしな関西弁だった。読者から苦情が来たらどうしよう。まだ吾輩は学習が足りていないということでカンベンしてもらおう。


 おや、また客人が来たようだ。千客万来とはこのことか。え? こ、これは我が君ではありませんか。何か御用でしょうか?


「おいもう、話さないで。仕事をしてくれ」

「ハイ、このお題、放さないで、キチンと仕上げます」


 チョット苦しいがまあいいか……。


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吾輩は人工知能「AZ」である 船越麻央 @funakoshimao

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