#38

俺以外のメンバーも全員唖然としている。


いや、ナミちゃんとポチだけは大喜びしているが。


とにかく俺達には過ぎた部屋だという事だけは判る。


しかし、オーナーのサガワさんの好意ではあるし、部屋を替えてとも言いがたい。


よし、この部屋は寝る為だけに使おう!


そう決心して話すと、全員が納得してくれた。




という事で早速出かけようとした時、ノックの音がした。


扉を開けると、案内してくれた従業員の人が立っていた。




「すみません。今よろしいでしょうか?」


「大丈夫ですよ? なんでしょう?」


「とてもお話しづらいのですが……今受付に福田様を出せという者が来ておりまして……。」


「は・はあ」


「それがサガワと同じホテル経営者なのです。同職のオーナーだけに断りにくく……」


「で?」


「サガワにも連絡はしているのですが、捕まらないようで……。」


「ふむふむ」


「何があってもお守り致しますので、話だけでも聞いてもらって頂けないでしょうか?」


「あ~なるほど。サガワさんにはお世話になりましたし、ちょっとくらいなら良いですよ」


「ありがとうございます!! 受付で騒ぐので他のお客様にも迷惑がかかってしまい、困っていたのです!」


「じゃあ行きましょうか。みんな、ちょっと下で話をしてくるよ!」


「ちょっとカンダ! 行くわよ!」


「えっ? どこに?」


「私達の仕事は護衛でしょ?! 護衛しに行くのよ!!」


「わ・判ったから耳を引っ張らないでくれ!!」




おお、リアルで耳を引っ張られる人を初めて見た!!


千切れてしまえ!!




1階に行くと、ハゲデブった金満野郎(偏見)がそこには居た。


あれが俺の客か……。宝石を一杯着けて、キラキラしてて目に悪いわ!


ウザいなぁと見ていると、俺に気づいたようでコッチを睨んできた。




「キサマが帝王か?!」


「違いますよ、福田です」


「福田って事は帝王じゃないか!」


「その呼び方はやめてください」


「うるさい! キサマのせいで俺の店は大赤字だ!」


「? 身に覚えがありませんね」


「寝ぼけるな! ガチャの店だ! 知らないとは言わせん!!」




あ~、全て納得いったわ。


あれ? でも店長って入院してなかったっけ?


オーナーと店長って別? ま、どうでもいいけど。




「それで? 何の用ですか?」


「キサマが何かイカサマをしたんだ!」


「してませんけど? 大勢の人が見てたでしょ? 支配人も見てたし」


「ギャンブルで勝負しろ!」




あっ、人の話を聞かないタイプだ。


こういうタイプは勝負するまでずっとうるさい。


さっさと勝負に乗って、帰ってもらおう。




「まあいいですけど。何で勝負します?」


「当然ガチャで勝負だ!!」


「ガチャで勝負?」


「『当たり』が出ればキサマの勝ち、『ハズレ』が出れば俺の勝ちだ!」


「ああそういう。良いですよ」


「よし! 言質は取ったぞ! では1時間後に中央にある会場に来い!」


「ガチャの店でしないんですか?」


「公衆の面前で負かしてやるわ!」


「あっ、そう」


「ガハハハハ! 怯えながら来るがいいわ!!」




そう宣言してハゲデブは帰っていった。




「福田さん、福田さん」


「ん? 何?」


「ヤバいんじゃないですか?」


「えっ? 何が?」


「アレは何か不正を企んでますよ?」


「そこは大丈夫じゃないかなぁ」


「信用してはいけないタイプですよ、アレは」




まあ、たしかにそう見える。




「それに、勝敗を決めたじゃないですか」


「うん。決めたね」


「それに伴う条件を聞いてないですよ?」


「条件?」


「勝ったらどうするのか。負けたらどうするのか。って事ですよ」


「ん? 勝ち負け決めて終わりじゃないの?」


「ガチャで勝負と言ったからには、『当たり』を引いた場合は賞品がもらえるでしょう。


 ガチャとはそういうモノっていうのが世間の認識です。


 なので今回も『当たり』が出れば賞品がもらえます」


「うんうん。」


「では『ハズレ』を引いた場合はどうでしょうか?


 普通はお金を払ってガチャを回しますので、ハズレたらそのお金が無くなって終わりです。


 今回の場合は『勝負』の為にガチャをするので、負けた場合のペナルティが不明です」


「そうなるの?」


「多分そうです。で、負けた場合のペナルティを言わずに帰りました。


 なので後から自由に設定してくるでしょう。


 例えば有り金全てとか、例えば今までガチャで取った賞品全てとか」


「汚い手だな……」


「ついでに言えば、勝った場合の賞品も提示してません。


 『当たり』を出して飴玉1個でも文句言えませんよ?!」




グヌヌ! キジマさんに指摘されて気づく俺もマヌケだが、ハゲデブも汚い!


だからさっき言質を取ったと言ったのか! 俺が逃げれないように。


もう怒った! あの野郎、地獄に落としてやるぜ!




1時間待つ間に、俺はさっきの出来事が非常に不幸だと思い込む事に専念した。


これで運を貯めて一気に使ってやる!!

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