#36
翌朝、俺達はそそくさと宿を後にした。
そう、俺の希望だ。
温泉に来てツッコミ疲れするなんて訳わからん。
このまま帰るのもアレなので、温泉街を見て回る事にした。
するとおみやげ屋に隣接して射的があった。
懐かしいなぁ。日本の温泉街って言ったらコレだよね。
「哲司お兄ちゃん、ココは何する所?」
「射的場って言ってね、木の玉を当てたら景品が貰えるゲームをする所だよ」
「面白そう! 行ってみようよ!」
「いいよ~」
本当はコルクの玉なんだけど、コルクってあるのか知らないので木の玉って事にしといた。
俺達は全員で射的場に行く事に。
この古びた作り、まっすぐ飛ぶのかと疑ってしまう銃、昔やったなぁ。
「哲司お兄ちゃん! 私あのクマのヌイグルミが欲しい!」
よ~し、お兄ちゃんが取っちゃうぞ!
しかし、射的でも俺の運は通用するのかね?
ウエダさんは経験があるらしく、娘の為にと張り切っている。
コルクの玉5個で500円だった。コルクってあるんだね!
大人達は全員参加するようだ。
クマのヌイグルミは2等の景品のようで、台の上にクリップのような物で挟んである針金を落とせばもらえるらしい。
針金落とすって無理じゃね?
誰もが狙ったが、当然落ちない。それ以前に当たらない。
コタニさんなんか、仕切りのテーブルの上に乗っかるほど前に乗り出して撃っていた。
足が離れたら反則って怒られていた。
「アレは落ちねぇだろ?!」「反則じゃないですか?」「その前に当たらないよ!」「無理っス!」
皆からそんな言葉ばかり出てくる。
「さ、師匠、お願いしまっせ!」
「何で関西弁?!」
「師匠なら落とせるっス!!」
「コタニさんまで師匠呼びは止めて!」
ナミちゃんの期待する目には勝てない。
通用するか判らないけど、運を使ってチャレンジしよう。
『針金に当たれ~当たれ~』と祈りつつ引き金を引いた。
ポン!
ビーン!
うん、針金には当たった。
だが、ビーンって鳴るのはどうよ?! 玉を弾いたよ?
「さすが師匠! 当てたぜ!」「でも弾いたよね?」「アレ、台にくっ付いてない……?」「汚ねぇっス!」
はっきり言おう、インチキだろ!
こうなったら意地でも落としてやる!!
その前に言質を取らないとな。
「店長、あの針金が落ちれば当たりなんだよね?」
「そうだよ。だが、針金が乗ってる台に玉を当てて台ごと落とすのはダメだ。」
「それ以外は?」
「それ以外? 他の方法なんか無いだろうが、やれるもんならやってみな。」
よし、言質は取った!
俺の狙いは2つ上の段にある、重そうなブリキのオモチャ。
『ブリキのオモチャに当たれ! そして落ちろ!』と祈って引き金を引く。
ポン!
コン
「ハハハ、どこ狙ってんだい? 大分上に飛んでったぜ?」
「まぁ見てなよ。」
当たった玉は、真上に弾かれ天井に当たって落ちてきた。
その玉が再度オモチャに当たり、グラつかせる。
しばしグラついた後、とうとう耐え切れなくなり後ろに落ちた。
そのオモチャは後ろの幕に当たり、跳ね返って針金を直撃! そのまま針金ごと落ちていった。
「はぁっ?!」
「あっ! 針金落ちたよ! お兄ちゃんすご~い!」
「はい、針金を落としましたよ。景品ください」
「ちょっ! 今のは無効だろ?」
「いえ、さっき言いましたよ? 『他の方法なんか無いだろうが、やれるもんならやってみな。』って。
やってみたし、成功したので文句は無いですよね? 台ごと落としてないし。」
「くっ・・・わかったよ。成功だ。だが! 次は無効だからな!!」
ナミちゃんに景品のヌイグルミを渡す。
「ありがとう哲司お兄ちゃん! 大好き!!」
うん、そういうのは大人になってからお願いします。
射的を出るとお腹が空いてきた。
よく考えたら朝飯も食わずに出てきたんだった……。
どこの食堂もまだ空いていなかったので、馬車の所に行き、入れてた牛丼を食べる事にした。
「美味しそうな物、食べてるねぇ。もう出発でいいのかい?」
御者のおっちゃんだ。来た時とは違う人だ。
おっちゃんにも一つ出してあげた。
「お、ありがたいねぇ。モグモグ。そういえば聞いたかい?」
「ん? 何をですか?」
「兄ちゃん達が泊まったのは夏双旅館だろ?」
「そうですよ。それが何か?」
「あの旅館には昨日帝王が泊まってたらしいぞ。旅館の主人と親友になったって聞いたぜ。
出会わなかったかい? さらにあの旅館は有名になるなぁ。」
誰が親友だ!!
あの主人、これが狙いだったのか!!
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