#34

19時前に温泉に到着した。


前世の温泉街と似ていて、そこらから湯煙が上がっている。


これはなかなか期待できそうだ。


泊まる宿はこの温泉街でも1・2を争う高級旅館。


奮発したな、カジノの町。


その宿の名は『夏双旅館なつにりょかん』。


……英語にしてはいけない。




宿に着くと、痩せ型で神経質そうなメガネの主人が出迎えてくれた。




「ようこそ、いらっしゃいました」


「あっ、お世話になります」


「いえ、こちらこそ~」


「こちらこそ?!」


「なんでもないです、はい。お部屋に案内しますね~。どうぞこちらへ」




なんだったんだろう?




玄関でスリッパに履き替えて主人の後を追う。


何で先に行くんだよ! ちょっと待てよ!!




2人で1部屋という事だったので、ウエダさん一家、俺とカンダさん、キジマさんとコタニさん、と割り振った。


ポチはウエダさん一家の部屋に当然のように行った。行ってしまった。なぜだ!




俺の部屋は『梅の間』で、主人が案内してくれた。


旅館と言うだけあって、床は畳敷きで床の間まである。嬉しいね~。


部屋に入ると既に布団が敷いてあった……。




「あの~、まだ寝る気は無いんですけど」


「あっ、夕飯の方が先が良いですか?」


「当たり前ですよね?!」


「わがままですね。判りました~」


「わがままかなっ?!」




なんなんだ、このご主人。訳が判らない!




「じゃあすぐにお食事をお持ちしますね~」


「は、はい、お願いします」




主人はそそくさと出て行った。




「何あれ?」


「さあ? 俺に言われても困りますよ」


「・・・とりあえず布団を避けてテーブルを出そうよ」


「そうですね。本当にすぐ持って来そうですもんね」




テーブルを用意した時に、ノックも無しに主人が入ってきた。




「ちょっと?! ノックくらいしてくださいよ?!」


「男同士だから問題無いと思いますが?」


「そういう問題じゃない!!」


「判りました、判りましたよ。ノックすればいいんでしょ」


「何で逆ギレぎみなの?!」




会話(?)をしてると仲居さんが料理を運んで並べてくれた。


カンダのヤツめ、さっさと料理の前に移動しやがって!


お前もこの主人の相手をしろよ!




「ではビールをお注ぎします。」


「いえ、お構いなく。自分達でしますので。なっ、カンダ?」


「えっ?あぁそうです。自分達でしますよ」


「いえいえいえいえ、これも仕事なので」




だったらさっきの仲居さんにしてもらった方が良いわ!


何でオッサンの酌を受けなきゃいけないんだ?!


主人はもうビンの蓋を開けて注ぐ準備をしていた……。


カンダは自分で注いでるし。ズルいぞ?!


しょうがないので注いでもらう事にしたけど。




「じゃ、じゃあ、お疲れさん」


「お疲れです」


「「カンパーイ!」」


「福田さんのちょっと良いとこ見てみたい! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」


「ご主人! うるさいです!!」


「おっと、失礼しました。盛り上げようと思ったのですが」


「勝手にやるので、もう帰ってください!! ありがとうございました!!」


「・・・そうですか~?では、また後で~」




ご主人はやっと出て行った…。




「なんだろうな、『また後で』って。」


「何か怖いですね……」


「さっさと食って風呂に行こうか」


「そうしましょう!!」




味わう事無く二人で急いで食べて、風呂に行く。


部屋には浴衣が用意してあった。こういうの良いよね。




風呂に行く途中には宴会場があった。中からは楽しそうな声が聞こえてくる。


襖が開いたので中を見ると、そこにはウエダさん一家とキジマ&コタニペアが居た……。


何でそこで食事してるの?!


ビックリしてると、ナミちゃんがこっちにやって来た。




「二人で部屋で食べるって聞いたけど、どうしたの?」




あの主人め~~~っ!!

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