#8
これがダンジョンか~。
言っていいかな?
ショボい。
もっとさぁ、入り口に人が居て入場規制してるとかさ、怪しげな雰囲気が漂ってるとかさ、あるじゃん!
こんな、子供が遊びで入って蝙蝠に驚いて逃げる、みたいな洞窟はダンジョンじゃないだろ?
「え~と、ナミちゃん。ダンジョンはまだかな?」
「えっ? これだよ?」
「……やっぱりコレなのか~」
「そうだよ! 早く行こうよ!」
「あれっ? 俺、見るだけって言わなかった?」
「見ても面白くないでしょ?! 入らないと!!」
「まぁたしかに面白くないけどさ。ま、1階くらいは行ってもいいか」
「でしょ! さあ行こう!」
「えっ? ナミちゃんも行くの?」
「子供は大人が一緒なら2階までは行ってもいいの!」
「そ、そうなんだ……」
ごめん。俺、大人だけど、レベル1なんだ……。
レベル10くらいの大人を想定してる考え方だよね、それ。
考えてる内に、ナミちゃんは走ってダンジョンに行ってしまった!
慌てて昨日当てた装備を出して、追いかける!
ダンジョンの内部は、想像通り鍾乳洞だった。
冒険者が置いたのか、壁にたいまつが等間隔であり意外に中は明るい。
進むほど幅は広くなっていき、今は3mくらいある。
「ナミちゃん、ちょっといいかな?」
「ん~? 何~?」
「ダンジョン内にはモンスターがいるって話だけど、どんなのがいるのかな?」
「1階には、スライムしかいないよ~。2階には狼がいるって聞いた事ある! まだ見た事無いの!」
そういう「見たい!」みたいな発言は止めて欲しい。
俺の運が働いて出てきちゃうから。
とりあえず、1階にはスライムしかいないようだし、それでも倒してレベル上げするかな~。
って、レベル1で倒せるのかな……ドキドキする!
そんな事を考えるから、はい、出ました、スライムさんです。
天井から落ちてきました。
雫しずくのような形はしてません。赤色でゼリービーンズのような形してます。
ドラ○エではなく、ハイド○イドのスライムのようだ。
えっ? 知らない? ググれ!
ナミちゃんを俺の後ろに来させよう。
ナミちゃんは分かっているのか、慣れた様子で後ろに回り込んだ。
一般的には盾にされたとも言う……。
まぁ相手は子供だし、しょうがない。
で、どうすればいいんだろ?
ゲームなら、「→攻撃 逃げる」とかだけど、攻撃って? 叩く? 刺す?
よく分からないので、とりあえず刺してみる事に。
逃げないので簡単に刺せた。
で、剣を抜いたら、ビチャっと破裂した。
あれだ、水の入った水風船に針を刺した感じ。
これで勝ったのか?
ピロロン! レベルアップ!!
脳内に変な音と共にアナウンスが流れた。
この声はアサイさん?!
これが加護の力?! ってショボいわ!!
「哲司兄ちゃん、すご~い!」
ナミちゃんが褒めてくれた。俺ってすごいらしい!
「あっ、アイテム拾わないと!」
「アイテム?」
「そうだよ! モンスターを倒すと、モンスターはいなくなってアイテムが出るの!」
へ~。たしかにスライムが居た所には既に赤いシミは無く、代わりに何かが落ちている。
死体は無くなってドロップアイテムが出るのか。
まんまゲームだよな。
アイテムはナミちゃんが拾ってきてくれた。
「これが落ちてたよ~。でもスライム倒して出るアイテムじゃないみたいだよ?」
「そうなの? スライムを倒すと何が出るの?」
「えっとねぇ~……丸い石!!」
「そ、そうなんだ……。」
丸い石か。…………さっぱり判らない!!
で、今ナミちゃんが持って来たのは何かの木の枝みたいな物だった。
あっ! さっきゲームっぽいって思ったけど、だとすると「丸い石」が通常ドロップで「木の枝」がレアドロップなのかも?!
どっちにしてもショボそうなドロップアイテムだけどな!!
とにかく、1撃で倒せるなら問題無いだろう。スライム狩りといこうじゃないか!
結果、2階への下り階段に到達するまでに20匹倒してレベル3になった。
ドロップアイテムは全て木の枝だったよ。
さて、2階に到着した訳だが。
1階はレベル1でも通用したけど、ここには狼が出るという話じゃないか。
レベル3の俺でも通用するのだろうか?
出会いたくない! と考えれば、運の力で出会わずに済むかもしれないが。
俺は犬が好きだ。なので狼も見てみたい。犬っぽいかもしれないじゃないか!!
という事で「狼には出会いたい。でも強くないのがいいなぁ~」と考えながら進む事にした。
で、2階な訳だが、何故か草原だ。太陽も出てる。
下に降りたハズなのに地上に出たのか?
「ナミちゃん、ここどこ?」
「? 2階だよ?」
「草原だよ?」
「そうだよ?」
「太陽あるよ?」
「そうだよ?」
うん、そういうものらしい。
ナミちゃんはココがお気に入りなのだそうだ。
でも大人がいないと来れないので、いつも困ってるそうな。
こんな危険のある所がお気に入りなんて、ナミちゃん……恐ろしい子!
運の力なのか、狼には全く出会わない。
出てくるのはスライムばかり。
たまに色の違うのが出てくるけど、強さは変わらない。相変わらず一撃だ。
今思えば、実はゲームで言う「会心の一撃」を出しまくってるんじゃないだろうか?
それともただ単にスライムが弱いだけなのか。
強敵に会えば分かるかもしれない。会いたくもないし、会う気もないが。
スライム飽きたな~と思っていた次の瞬間、それは来た。
目にも留まらぬ速さで、俺達の前を何かが横切ったのだ!
ソレが行った方向を見ていると、ソレは戻ってきた。
今、ソレは俺達の目の前で威嚇行動をしている。
ソレの正体とは…………狼の子供だ~~~~~!!
なんだコレ?! カワイイ!!
頑張って威嚇しとるがな。なんというプリティ!!
近寄って撫ぜたい衝動に駆られるが、相手は野生の狼。
しかし攻撃をするのか? いや出来ない! 無理!!
という事で、懐柔する事にした。
今こそ運を使う時だ! アサイさんやイイクラさんの顔を思い描きながら「懐柔したい!」と願う。
それと同時にカバンから屋台で買った串焼き肉を出して、目の前に置いて2歩下がった。
ほら、怖くないよ~。美味しいよ~。毒なんか入ってないよ~。という目で狼を見る。
狼の子供は、警戒しながらも食べ物の匂いに釣られてる。
目線は俺と串焼きとを行ったり来たり。いや、串焼きの方が多くなってきた。
待つこと10分、とうとう我慢が出来なくなったのか串焼きを食べ始めた!
食べる姿もプリティや~~。
狼の子供は、串焼きを食べ終わるとこっちをじっと見だした。
これはもしかして「狼の子供が仲間になりたがってる!」ってやつですか?!
俺はもう1本串焼きを出して、左手に持ったまま右手で手招きをする。
おいで~おいで~。まだ沢山あるよ~。
もうすでに警戒心が無くなったのか、テトテトと近寄ってきて俺の手から串焼きを食べ始めた!
はい、仲間入り決定です!!
絶対連れて帰ります!!
この銀色の毛、プリティな目、ピンと尖った耳、小さい足、フサフサのしっぽ、全てがカワイイ!!
串焼きを食べ終わった狼の子供は、また俺をジ~っと見ている。
俺は恐る恐る聞いてみた。
「一緒に来るかい?」
『うん! 行くー!』
うぉっ! どこからともなく声が聞こえた!
「この声は君かい?」
『そうだぞー』
これは念話というやつか?
いや、そんな事はどうでもいい!
狼の子供が仲間になってくれた事が重要だ!
「名前はなんて言うの?」
『名前?』
名前は無いのか……。
では、早速名付けなくては!
「よし! 今日から君の名前はポチだ! どうかな?」
『ポチー!』
しっぽがブンブンと振られている。どうやら気に入ってくれたようだ。
「ナミちゃん、紹介しよう! ポチだ!」
「哲司兄ちゃん、すご~い! 狼を手懐けちゃった!!」
「かわいいだろ?」
「うん! かわいい!」
「で、ポチ。こっちはナミちゃんだ!」
『ナミー!』
「お互い仲良くしてくれな!」
「うん、仲良くする~!」
『仲良いー!』
二人ともいい子やで~。
思わず二人の頭をナゼナゼしてしまった。
満足だ。今日はもう帰ろう。
レベル上げ? 知るか、そんなもん。
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