39.五大幹部とあの方
ディアの「お断りよ」という言葉が一瞬の静寂を埋める。
「それ、僕が言おうとしたてセリフなんだけど」
「今は関係ないでしょ!」
「いや、まぁ、そうなんだけど、そうなんだけど。あぁ、いいや、そういうことだ。これが僕たちの総意だ!」
「それは残念だ。さぁ、皆行くといい。活躍した者は俺からあの方に推薦でもしてあげるよ」
その一言で周りにいた者達の活気が増したように思える。
「私は周りの者を相手しよう」
「なら僕たちはそれぞれがあの二人を相手します」
「私があの女を倒すわ」
「ディア、私も手伝うよ!!」
「ありがとう、ナフィー!」
ルルを傷つかせるわけにはいかない。
アルベロ、フォーコ、二人に何があるのかは知らないがここで好き勝手に暴れさせるわけにはいかない。
****
****
「おめぇーら行くぞ」
「おー!!!!」
ついには戦いが始まり周りにいる者たちが一斉に攻めてくる。
エト達の戦闘の邪魔をさせないと彼らの前に強者、メイリンが立ちふさがる。
「貴方達の隙がある策はいずれ内から外へと広がり崩壊をもたらす。それでも突き進むというのなら敬意を込めて私が相手をしよう」
「七大パーティーのリーダーだからって踏ん反り返ってんじゃねぇぞ」
「そうだ。七大パーティーのせいで行き場を失った者たちだって多くいるんだ。なのにお前らは日常的にご飯を食べるのと同じ感覚で俺達弱者を突き放すんだ」
「これまで七大パーティーはどんな善行をしてきた? 言えるのか!」
「そうだな。私達の様な強者を生み出したり治安を守ったりしてきたことだろうか」
「……ッ。治安だと? 笑わせるな。長い間ギルドも七大パーティーも俺達の存在は認識していながらも止めることは出来なかったんだぞ。ふざけたことを言うなァ!!!!!」
怒り狂った男はメイリンへと立ち向かう。
それに続いて周りの者達も強化スキルや武器を取り出し戦闘を開始した。
「他の者達がどうかは知らないが私は、貴方達について考えたこともなかった」
「死ねぇぇぇえええ!!!!!」
「だからこれからはできるだけ意識しておこうと思う」
メイリンは鋭く長い刃を正確に華麗に立ち向かってくる者達を攻撃していく。
バシュッ!!!
バシュッ!!!
無意識に敵を斬り裂いているその時メイリンはとあることに気付いた。
「闘技場のダメージ身代わり人形が機能を停止しているのか。それとも負傷者の人数が多いせいで限界を迎えたのだろうか」
「き、貴様――」
バシュッ!!
「ここは彼らに任せても大丈夫そうだ」
バシュッ!!
メイリンは客席を見渡す。
あちらこちらで冒険者と悪質パーティーが戦闘を繰り広げられており一般の者は既に脱出に成功しいなくなっていた。
「首謀者は誰だ」
バシュッ!!!!
****
****
「はぁ……はぁ……」
アルベロに多少のダメージを与えることは出来たがそれは致命傷とまでは至っていない。
その要因は彼のスキルにある。
彼のスキルは中距離、近距離共に使えるという汎用性の高いスキルであり容易には接近することは出来ない。
「エトと言ったか。その後ろの猫人族を返す気はないのかい?」
「返すだと? そもそもお前らのものではないだろ!」
「猫人族。今から四十四年前、まだダンジョン都市が世に認知されるまえのこと。猫人族という種族は類稀なる才を持つ者も多く初期段階からスキルを二つもつ個体もいたとか。しかしそんな力を持っていれば狙われるのも必然。時の流れと共に猫人族は強き奴隷と化した」
「奴隷……」
「あぁ、奴隷。実に気色の悪い響きだよね。奴隷となった猫人族は戦死、失踪、精神病、自殺、他殺、あるいは仲間内での争い、様々な出来事が重なり合った。ここまで言えばわかるかな?」
「人口が減ったということか」
「その通り!!」
「でも今では猫人族はどこにでもいるはずだが」
「そうだよ。これと言った才を持たない新たな猫人族は今やたくさんいる。でもね、その怒涛の時代を生きた猫人族の血を受け継ぐものは数少ない。ルル、彼女はその数少ない真の猫人族の血を受け継ぐものなのさ」
アルベロは何を言っているのだろうか。
そもそもどうしてルルが真の猫人族の血を受け継ぐものだと断定することができるんだ。
「それとお前たちの計画にどんな関係があるんだ」
「それは教えられないよ。でもまぁ、近い内に知れると思うからさ」
「うぅ……」
「ルル、大丈夫だ。後ろにしっかり隠れておくんだ」
「は、はい」
「さてその硬い守りもいつまで続けられるかな?」
***
***
バーン!!!!
ドカーンッ!!!!!
「ディア!!!」
「何!!!」
「そんな爆発し合ってたら私が戦いに入れない!!」
「ならあいつに言って!!」
「いい加減爆発をやめて!!!! 私戦えないじゃん!!!」
「なんでウチに言ってくるんだよ。攻撃してきてるのはそっちだよ」
「ディア! あの人もそう言ってるんだからやめて!!」
「ナフィーはどっちの味方なのよ!!!」
爆発が繰り広げられる中、ナフィーとディア、フォーコの言い合いはしばらく続いた。
どうしても戦いに参加したかったナフィーは爆裂の戦場を駆ける。
「ナフィー流 ”
「!!?」
見慣れない攻撃に多少の驚きを見せたフォーコだったがすぐに技への対応を始めようとする。
しかしそれをさせまいとディアが体力の限界を迎えるまでただひたすらにスキルを発動し炎をフォーコめがけて放つ。
「面倒なことばっか……!
せめてものあがきでフォーコはスキルを発動した後、顔の前に両腕を持ってきて地面にしっかりと靴裏を密着させた。
ナフィーの技はフォーコに当たるやいなや無数の切り傷を与える。
「クッ……」
「ふふーん!! これが秘伝ナフィー流!」
「……ウチのスキルの方が優秀だってことを見せてあげるから」
地面に屈み込んでいたフォーコはそんなことを口にしながらゆっくり立ち上がりナフィー達を睨みつける。
ダメージを負ったフォーコ、対するナフィーとディアは体力が激しく消耗しているが限界というほどでもなく未だ全力を出せる状態にある。
「ナフィー、このまま行くよ!」
「もっちろん! 私達のコンビネーションとくとご覧あれ!!!」
フォーコとの間に少なからずある実力の差を感じ二人は次第に余裕の笑みを浮かべる。
そして余裕という感情に一層大きな余裕を与えることになる。
「私の方は全て片付いたが貴方達の方は問題はないか?」
「メイリン! こっちは順調と言えば順調かな」
「それは良かった。それと戦闘中に観察していたのだが黒い傘をさしている怪しい人物を数名確認した。もしかしたら悪質パーティーとやらの幹部なのかもしれない」
「か、幹部はウチらだ!!!」
「そうなのか。だがあの者達は貴方よりも膨大な力を有していた。さらに言えばもしかしたら七大パーティーのメンバーの実力に匹敵するかもしれない」
フォーコは胸騒ぎがしてしかたがなかった。
(あのお方はウチらを……? 確かに時々不思議な発言をされているときもあったけど意図があると思ってそんなことを考えてこなかった。でも本当にあのお方がウチらを騙していたとしたら……。なんで、じゃあなんでウチらを助けたんだ?)
これまでの事がまるでフラッシュバックの様に一気に頭の中に流れ少しの違和感が大きなものになっていく。
「そんなわけない! ウチらはあのお方を信じてる! だから、だから貰った恩を返し続けるんだ……」
強がっても強がってもどれだけ否定しようともその度にこれまでの数々の違和感を感じ何も信じられなくなる。
「……ウチらは命令に従うだけ!!!!!」
「!?」
残りある体力からは出せるはずのない力がフォーコから溢れ出る。
その源は忠誠心かそれとも束縛か、何かはフォーコでさえわからない。
ただ今あるその力を出し切る。
そう覚悟したフォーコはきりっとした顔つきで再びディア達をにらみつける。
「来るのね!」
「どーんと来い!」
「私も手伝おう」
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レベル1の冒険者、ダンジョンで成り上がる 丸出音狐 @marudeneko
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