レベル１の冒険者、ダンジョンで成り上がる

37.我武者羅に

「エト、どうする！」

「…………」

　そんなことを聞かれても今の僕には的確に答えを導き出す自信がない。

　なんせこれほどの実力者を目の前にしているのだから。

　さらに言えばこちらは既に全員の力をメイリンさんに見せてしまっているのに対して僕たちはメイリンさんが斬撃を使うことが出来るという情報しかない。

　どんなスキルを保持していてそれがどれほどのものなのかわからない以上迂闊に行動するのは良くない。

　かと言って行動を起こさなければメイリンさんは僕たちにスキルすら使ってこない可能性もある。

「おっと戦闘が止まってしまいましたね！！　一体中央では何がおこっているのでしょう！」

「今、メイリンがスキルを使えば勝てますがどうやらまだ使わないみたいですね」

「確かメイリンさんのパーティーにはルールがあるんでしたよね！」

「そうですね。メイリンのパーティーは　”己の素の力を磨いてこそ真の冒険者となる”　を掲げていますからあまりスキルを使用しません。もしアルハドール達が一瞬でも使わざるおえない状況に追い込む事ができたら将来が楽しみですね」

「あのメイリンさんを追い詰めることが出来る人はトップパーティー内でもそれほどいないといいますからね！　果たしてここからどうするのでしょうか！！！！」

　つい考え事をしてしまい意識が別のことに向いていたその時、僕の目の前にメイリンさんが迫ってきていた。

　剣で防ごうにもメイリンさんのあの速さでは間に合うはずもなくどうする事もできなかった。

「エト！！！！！！」

　僕の名を呼ぶナフィーさんが気づけば目の前にやってきて双短剣でメイリンさんの剣をなんとか防いでくれていた。

「ぼーっとしてちゃダメだよ！　リーダー！！」

「ナフィーさん……ありがとうございます」

「仲間だから守り守られるのは当たり前のことだよ！！！　で、でもちょっとこの人の剣、重すぎるッ！！！！」

「双短剣使いとは。久しぶりに見たような気がする」

　ナフィーさんはメイリンさんの重い攻撃を止めてくれているがそれは時間が経過するごとにじりじりと押されている。

「二人から離れてっ！！！！！！！！」

　横からディアのスキルの炎がいくつか飛んできた。

　それに気づいたメイリンさんはナフィーさんの剣を押し返し炎を避けて後ろに下がった。

「ありがとう、ディア！！」

「ちゃんと集中してよね！！！」

「悪い！」

　迷っていても悩んでいてもしかたがない。

　これまでみたいにどれだけ無謀な戦いだろうとも最後までがむしゃらに戦って勝利を掴む。

　それに僕には仲間がいるんだ。

「ナフィーさん、ディア！！！」

「うん、わかったわ！！！」

「リーダーエト！！　どこまでも！！」

　僕らはメイリンさんに向かって三方向に別れ立ち向かう。

「そう来るのか。やはり貴方もこれまでの人たちと同じような出来だったか」

「黙って相手をして！！　円型創火（クライシス・ブレンネン）！！！！」

「ナフィー流　”双頭突進竜（そうとうとっしんりゅう）！！！」

「おらぁああああああ！！！！！！！！」

　僕らは同時にメイリンさんに対して攻撃をしかける。

　この攻撃の結末がどうであれ僕らが思い描く結末になるまでただ攻撃をし続けるだけだ。

「物量で押す。あまりにも悲しき策であり失望だ」

　予想していた通り僕らの攻撃は順番にメイリンさんに対処されてしまう。

　だがここから、ここから更に！

「ナフィー！　あれをやるから！」

「まっかせて！」

　ナフィーさんはディアの方向に向かって走っていく。

　二人が何かをしようとしていることに気づいたメイリンさんはそれを止めにかなりの速さでディアの方へと向かっていく。

　だが――

「そんなことはさせない！！！！！」

　体力なんて考えなくていい。

　常に限界を、限界を目指せ。

　僕は阻止しようとするメイリンさんに対して走りながら連続でかつ不規則な間隔で斬撃を放つ。

「…………」

　斬撃に反応し一瞬止まり対処するメイリンさん。

　その隙に距離を縮める。

　そしてメイリンさんが対処を終えた時には僕は既に目の前まで来ていた。

「まさか貴方に行く手を阻まれるなんて思いもしなかった」

「なんか酷い言いようですがここから先は行かせません！！！」

「なら強引に行くしか無いようだ」

　メイリンさんは僕に向かって剣を振りかぶってくる。

　それに反応して僕も両手で力強く握りメイリンさんの剣にぶつける。

　大きな音と風が巻き起こる。

　歓声もうるさくなってきた。

「貴方は弱い。ただこれからもっと成長出来るはずだ。だからここで怪我をするのは良くないと思うのだが」

「そんなの気にしてたら一生強くもなりませんよ。メイリンさんだって強くなる昔は怪我してもがむしゃらに戦ったんじゃないんですか！」

「私は……そうだな、昔をよく覚えていないからよくわからない。ただ毎日強くなるために生きているだけだ」

「それならいつかダンジョンに一緒に行ってがむしゃらに戦いましょう！　もしかしたらレベルに合わないかもしれないですけど、それでも！」

「そうだな、考えておく。貴方は本当にあの人のように熱い人物だ。だからこそここで倒す」

「！！？」

　拮抗していたがさらに力を発揮したメイリンさんが僕の剣を押し返す。

「エト！　時間稼ぎありがと！！　じゃあナフィー行くよ！！！」

「これが二人の合せ技！！！」

「「双頭火炎竜（そうとうかえんりゅう）！！！！！」」

　ナフィーさんの双頭突進竜（そうとうとっしんりゅう）にディアのスキルを乗せることでさらなる力を発揮する。

「これほどの力をまだ持っていたなんてな。だがこれだけでは私には――」

「おいおいおい！！！！　ディア！！！！！　僕も巻き込まれるぞ！！！」

「あ、ごめん！　合図するの忘れてた！」

「おぉおおおおおいいいいいい！！！！！」

　僕はナフィーさんの技の擬似的な斬撃に巻き込まれ一緒にメイリンさんの方へと近づいていく。

「そんな奇妙な合せ技をしてくるとは」

「僕をあわせ技にいれないで！！！」

　こうなってしまったのなら仕方がない。

　このまま終わらせる。

「行くぞぉぉお！！！！！」

　ドカーンッ！！！！！！！！！

　それはほんの一瞬の出来事だった。

　メイリンさんの元についた瞬間、剣が振られ合せ技は大爆発を起こした。

　何が起こったかもわからない。

　でもただ何かを捉えた感覚だけはあった。

　煙が徐々に消えていく。

「男性にこの様な体勢にさせられたのは初めてだ」

「！！？！」

　僕はメイリンさんを押し倒していた。

　ちなみにしっかりと僕の攻撃はメイリンさんの顔の前で受け止められていた。

「な、何してるのよ！！　エト！！！！」

「あ、いや違うから！　たまたまだから！　てかディアのせいだからな！！！！」

「貴方は魅力的だ」

「メイリンさんまで何を言い出すんですか」

「一緒にダンジョンに行こう」

「あぁ！　それはぜひ！！」

「その前に戦いを終わらせよう」

「あ！」

　メイリンさんがしてくる攻撃を警戒していたその時観客席の方で大きな爆発音と悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ！」

　白のコートでフードを被る集団が逃げ惑う観客を襲おうとしている。

　異変に気づいたトップパーティーの人や他の見に来ていたパーティーが怪しげな者達の対処を始めた。

「悪いがどいてくれるだろうか。この状態では身動きも取れないし少し恥ずかしい気もする」

「あ、すいません！」

　僕らは一緒に立ち上がる。

「一体これは…………」

　その時、僕の視界には闘技場の観客席の上に二人のいかにも怪しい雰囲気をしている人物が映った。

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