35.誰かに狙われている

「今日は皆さん凄かったです!!」


「まぁ、私くらいになれば余裕だからね!」


「さ、さすがです!!」


 僕たちはBリーグで激しい戦いを繰り広げた末に見事勝利を掴むことが出来た。

 正直、まだ腑に落ちないところもいくつかあるけれど今は明日に向けて休むために早く家に帰るとしよう。


「どうだった? 私の丹精込めた剣は!」


「それはもう凄かったですよ。この持ち手のフィット感に極限まで無駄を省いた結果生み出すことのできる軽量さ。何から何まで完璧です! それになんだか斬撃も簡単にというか、やけに出しやすかった気もします」


「その剣には魔宝石を配合しているから多少そういう作用もあるのかもしれない。うーん、そもそも斬撃を会得している人があんまりいないし、その人に剣を作った事がないから詳しいことまではわからないかも!」


「斬撃使える人って少ないんですか?」


「エト、知らずに使ってたの!? 斬撃は剣士なら誰もが目指す技で会得出来れば戦闘方法の幅が格段に上がるのよ!」


 斬撃をしっかりと使えるようになったのは最近の出来事だけど実は小さい頃に父さんに教えてもらって斬撃もどきのようなことをした覚えがある。


 今、僕がこうしてすぐに斬撃を使いこなせるようになったのも過去に父さんが色々と教えてくれたからなのか。


 それとディアが言うように確かに戦闘が楽になったような気もする。

 実際あの男との戦いでも斬撃という不意の攻撃を使えていなかったら相当危なかったと思う。


「実際に見たことはないから知らないけど七大パーティーのリーシアさんとかも使えるんじゃないかな? トップの剣士ならみんな使えてるのかも」


「!?」


「ねぇ、私の話し聞いてる? 私以外に重要なことでもあったの?」


「あ、いやなんでもないよ。それよりもう少し早く家に向かおう」


 ただ直感的にそう思いみんなの先を歩いて急いで家まで戻った。


***


「家が久しぶりに感じます!」


「そうね〜」


 あの時、誰かがこちらを見てきているように感じた。

 確かに気のせいという可能性も捨てきれないが視線と同時に殺意をも感じた。


 誰かが僕たちを狙っているというのか。

 いや、ここ直近での出来事を考えると狙われているのは――ルルか。

 あの二人を倒して事が片付いたと思っていたがまだ何かあるというのか。


 どこまで僕たちを追いかけてくるつもりなんだ。

 やつらは。


「ちょっと、せっかく家に戻ってきたのにさっきからなにそんなに考え事してるの?」


「あ、いや別に何でもないから気にしないでくれ。それより他の二人は?」


「エトが考え事している間にお風呂に行ったよ。それでホットミルク入れたけど飲む?」


「ありがとう」


 ディアはテーブルに二つのホットミルクの入ったコップを置くと僕とは真反対の椅子に座りホットミルクを飲み始めた。

 続いて僕も一緒にホットミルクを口に運ぶ。


「何か危険でもあるの?」


「え?」


「ルルには話せないようなことなんでしょ。あの子は自分のために人が犠牲になることをすごく嫌がってるみたいだし」


「ディアは全部お見通しってわけか」


「そりゃあ私が一番ディアといる時間が長いからね! だから考え事は一人でしないで私に話してよね」


「わかったよ」


 僕はあの帰り何者かが跡をつけてきていたこと、その者が殺意をこちらに向けてきていたということ、そして狙われているのがルルかもしれないということをディアに話した。


「またあいつらなの!? ほんとどこまで悪質なやつらね」


「僕たちが戦った人たちもそうだったけどなんで悪質パーティーの人たちはそんなにもルルをどうにかしようとしているんだ? やっぱ猫人族は珍しいからか?」


「今だとその考えは当てはまらないと思うわよ。確かにかなり昔は猫人族やら他の族は珍しかったけど今だとそんなに珍しくもないしね」


「となると益々彼らがルルを狙う理由がわからなくなるな」


「もしかしたらルルは――」


 その時家の扉をドンドンと叩いてくる音が聞こえてきた。


「こんな時間に誰?」


「待てディア! もしかしたらさっき追いかけてきたやつかもしれない。僕が先に様子を見てくるよ」


「わ、わかったわ」


 僕はディアを体の後ろに隠しながら恐る恐る扉に近づき開いた。

 そこには大柄な男が立っていた。


「!!!?」


「ってドッグさん!? なんでここに!」


「なんだそんなに二人ともくっついて」


「あ、ち、違うから! ただびっくりしただけよ!!!」


「そうかそうかぁ」


「初対面でそんなこと言ってニヤニヤしてくるうえにいきなり家におしかけてきて……一体誰なのよ!!!」


「あ、言ってなかったけ。ドッグさんはリーシアさんのパーティーメンバーだよ」


「どういう人脈!?」


「まぁ、色々あって。それでドッグさん、こんな夜にいきなりどうしたんですか?」


「別に大した理由じゃないんだがひとまずBリーグ勝利おめでとうと言っておきたくてな」


「あ、ありがとうございます!!」


「本当は明日、エト達と戦うためによ勝って一位になろうと思ったんだが負けちまってよ。あとちょっとだったんだぜ」


「そうだったんですか。となると一位はリーシアさんだったんですか?」


「いや、リーシアはいきなり出場を辞めたんだ。他のトップパーティーも結構出なかったぜ、特にリーダーはな。まぁ、近々会議もあるし無駄な体力を消費したくなかったんだろうな」


「せっかく勝ち上がったので戦ってみたかったんですけど……」


「それは次だな。それに対抗戦でなくても戦おうと思えば戦えるからな」


「そうですね。その時はよろしくおねがいします!!!」


「おう! じゃあ、俺はそろそろ帰るけど、明日は頑張れよ。相手はトップパーティーのリーダーの中で唯一今回参加したやつだからな」


 トップパーティーの人と当たるのはなんとなくわかっていた。

 そしてさっきのドッグさんの話しでほとんどのトップパーティーのリーダーが参加しなかったという話しを聞いて、つまりはトップパーティーが来たとしてもリーダーではない人物だから勝てる可能性が少なからずあるかもしれないと思っていたがまさかの明日の相手がトップパーティーのリーダーだなんて。


 ついてないな、僕。


「明日、俺も会場行くから。んじゃあ!!!」


 ドッグさんはそういいながら僕らに背を向け手を振ってどこかへと去っていった。


「ねぇ、聞いた? 明日の相手トップパーティーのリーダーだって。これどうする? 私達勝てるのかな」


「それはわからないけど出来るだけ足掻いてみよう。もしかしたらチャンスが来るかもしれないし」


「そうね。って寒っ!」


「おい、それ僕の上着だ。勝手に使うなよ」


「寒いんだから仕方ないじゃんっ!!」


「仕方無くない!!!」



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