25.エトの剣

「入っちゃだめですか……?」


「あ、いや入ってくれるのは嬉しいよ。でもルルがそんなことを言うなんて、ちょっと驚いちゃって」


「でも本当にこのパーティーに入っても大丈夫なの?」


「おい、それはどういう意味だ」


「さぁね?」


 ルルは輝かせた瞳で僕の顔を見てくる。


「エトさんのパーティーでなきゃダメです! まだ出来ることも少ないしもしかしたら足手まといになってしまうかもしれないですけど、それでも私に出来ることは何でもやります! だから、だから!!!」


「わかったよ。これからもよろしくな、ルル」


「は、はい!!!」


 まさかルルがこのパーティーに入りたがっていたなんて予想外のことだったがこれで参加登録条件の人数まで残り一人になったので助かった。


 となるとあと一人は……。


 僕はなんとなくディアの方を向くとまたディアもこちらを見ていた。


「どうやら私とエトが考えているのは同じことっぽいね」


「ディアもそう思ってたのか。今度来たら言ってみるか」


「そうね! じゃあ今日は時間もあるしどっかご飯でも行こうよ! もちろんエトのおごりでね」


「仕方ないな。ルルどこがいい?」


「どこでも構わないです!!」


***

***


「ドッグ、ただいま」


「長いこと留守してたがどこ行ってたんだ?」


「ちょっと色々」


 リーシアは鞘に入った剣を腰から外しテーブルの上に優しく置いた。


「それよりエトに会ったんだろ?」


「うん。エトくんは順調に成長してると思う。パーティー対抗戦に期待」


「だな。今回はお前とあたりたくはないが」


「私はいつでも歓迎してるから」


「勘弁してくれ。それより今朝、手紙が届いてたぞ。多分だが例のやつだろうな」


 手紙を受け取ったリーシアは明らかに嫌そうな顔をしながら封を開け中身を取り出す。

 ズラズラと書かれた文字を読むことはなくすぐに元通りにしてテーブルの上に置いた。


「面倒だからって後回しにしてたら厄介なことになるかもしれんぞ」


「私は部屋で休むから。じゃ」


 リーシアは剣を持って自分の部屋へと歩いていった。


 ドッグはテーブルの上に置かれた手紙を取り封を開く。

 そこには

 『聞きたいことも話したいこともある。今回はパーティー会議に参加しろ。――ルークス・フォルン』

 と書かれていた。


「うちのリーダーは面倒くさがり屋すぎるから、こればかりは同情してしまうな」


***

***


 ご飯を食べてすっかりお腹がいっぱいになったルルはなんだか眠そうにしている。

 一方ディアはいつになっても常に元気で明るく一体その力はどこから来ているのかと疑問に思うほどだ。


 そして家についた僕達は各々好きなように時間を使っている。

 自分の部屋でくつろいでいる僕はもう常にナフィーさんの作る剣が楽しみすぎてそれしか考えていなかった。


「はぁ……早く出来ないかな」


 早くして欲しいからと言って急かすのも禁物。

 ナフィーさんにもナフィーさんなりの時間の使い方がある。

 それに今回の剣の作成にはナフィーさんのこれからがかかっている。


 邪魔するのも悪いし気長にまとう。

 届けに来てくれる日まで。


 そんなことを考えながら僕は眠りについた。


***


「お父さんは前まで何をしてたの?」


「俺か、俺はな冒険者をやってたんだ。今もだがな。なんだ、エト。お前も俺みたいに冒険者でもやりたいのか?」


「エト、だめよ。お父さんは冒険者って言っても普通のことなんてひとつもしてないんだから」


「母さん、そんな変なことを言うなよ。俺は俺なりの冒険者ってのをやってんだ。でもまぁ、確かにエトにはおすすめ出来ないことかもしれないな。よし、エトこれは忘れろ。お前は騎士とかでもなるといい」


「わかった! 僕、騎士? になる!!」


「おぉ! いいぞ。頑張れ! 父さんも母さんも応援してるぞ!!」


 また昔の出来事の夢か。

 確かこれは僕が父さんについて興味本位で聞いたことだ。

 

 これ以降にも何度か父さんのしていることについて話したが教えてくれるのは冒険者をしている、父さんは普通のことをしていない、そしてそれは僕におすすめできるようなことじゃないということだけだ。


 あまりにも話しを濁すので犯罪をしているのではないかと思い聞いてみたのだがそれに関してはきっぱりと否定された。


 それからはその話について聞くこともあちらからしてくることもなかった。

 結局何だったんだろうか。


***


 翌朝。

 ナフィーさんが来ている様子もない。


 流石に一日じゃ完成しないか。


 次の日。

 やはりまだナフィーさんの姿はない。

 

 特にやることもなかった僕達はダンジョンの攻略へと向かった。


 次の日。

 まだいないし来ない。

 苦戦でもしているのだろうか。


 それより昨日のダンジョン攻略では見事十階層まで自力到達することができた。

 自分達が成長しているのだと日に日に実感する。


***


 ナフィーさんと別れてから五日ほどが経過した。

 そろそろ本当に大丈夫なのかと思い一度訪ねてみようかとみんなで考えたがやはり邪魔になってしまうかもしれないと思い立ち止まった。


「ナフィー、遅いね。やっぱりなにかあったのかな」


「わからない。でもとりあえずは待ってみよう。まだパーティー対抗戦の予選までには少し時間があるから」


「そうね」


 僕達は家の椅子に座り、ディアの入れてくれたホットミルクを飲みながらゆったりとくつろいでいる。


 その時、家中に響くほどの扉を叩く音が聞こえてきた。


 何事かと思い僕達はテーブルにコップを置いて急いで扉の方へ向かう。


 ガチャっと扉を開けるとそこにはやけに汚れた服を着ていて髪はぼさぼさのナフィーさんが立っていた。


「だ、大丈夫ですか? 凄い体調の悪そうな顔ですけど」


「これはちょっと疲れちゃってて。でも大丈夫だから! それでそれで長いこと任せてごめんね。これ! 受け取って!!」


「こ、これはもしかして」


「うん! さっきお父さんにも見せたんだけど強がってやるじゃんみたいなこと言ってたけど泣いてたんだよ! それくらいの出来栄え!!」


 鞘は黒を主体で縦に金色の線が表裏に二本ずつ。

 剣を鞘から抜くと光沢のある黒い剣が現れる。


 きっとこれは魔宝石であるセレンティバイトを使用したことで出せる光沢なのだろう。


「この剣には色んな力が備わってるからどっかで試してみて! ……それじゃ、私、家に帰るね」


 僕はディアの方を見たあと扉を閉じ家に帰ろうとするナフィーさんを呼び止めた。


「どうしたの?」


「ナフィーさん、よければ僕のパーティーに入りませんか?」


「……パーティー」


 ナフィーさんは少しの間下をむいたあと目を一度擦り顔をこちらに向けて笑顔で「うん!」と返事を返してきた。


「それで実は色々ありまして」


 僕が説明しようとしたその時、ナフィーさんがふらつき地面に倒れそうになった。

 そこを僕がなんとか受け止め怪我をすることなかった。


「大丈夫ですか!?」


「…………」


 ナフィーさんからは返事はなかった。

 よくよくナフィーさんを見ているとどうやら寝ているようだ。


「きっと疲れたのね。部屋で寝かせてあげようよ」


「そうだな!」


「私もお手伝いします!!!」


 僕はナフィーさんを胸の前で抱きかかえて二階に上がっていった。

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