16.ディアside

「あんたには冒険者なんてのは向いてないのよ!」

「向いてる向いてないの話じゃない! やってみないとわからないじゃん!」

「才能がない人があがいても何にもならないのよ……」

「お母さんなんてだいっきらい!!」


 それが私とお母さんが最期にした会話。

 私が小さい頃にはお父さんがどこかに行ってお母さんが女手一人でここまで育ててくれた。それには感謝している。

 しかしお母さんは私が冒険者になると言い出してから全てを否定するようになった。

 それから私達の仲は段々と悪くなっていき思い切って最小限の荷物を持って家を出た。


 リトルリア。

 そこが私の新天地となった。


 そこは多くの冒険者が集い互いに高みを目指していくところ。まさに私の理想だった。

 だけれども現実というものは厳しく上手くいかないことも沢山あった。

 借り家の値段も高ければ食べ物を買う硬貨すらも稼ぐのに一苦労する。

 それでも私は必死にもがいて生きてきた。

 でも限界は来てしまう。ついには借り家を追い出されてしまった。理由は簡単で硬貨を払えなくなってしまったから。


 住処を失った私が途方に暮れているとギルドで沢山ある紙をみつける。

 それはパーティー募集の掲示だった。

 どれも高条件のものばかりで私には無理だと思っていた。

 でもその中にひとつだけ条件の低いものがあった。


 これなら私でも!


 そう思い行ってみると不思議な男の子がいた。彼の名はエトというらしい。

 エトは私と同じであがいて生きてきた人間だとすぐに感じた。

 でも少しの時間だけでも一緒に過ごしていて私とはなにか違うのかもしれないと思った。


 それが確信に変わったのはミノタウロスでの戦い。

 どれだけピンチになろうともエトは引き下がろとはしなかった。たった一人の猫人族を守るために命をかけていたのだ。

 私は正直怖かった。だってもしかしたら死ぬかもしれない、大きな怪我を負うかもしれない、そんな危険性があるのに。


 だから違った。

 エトと私は違う。

 一緒にあがいて生きてるけど違う。


 私はどうしたらエトみたいになれるの?

 どうやったら認められるようになれるの?

 

 私は――。

 私は――――。


***


 馬車を降りて私は家の扉を開ける。

 かつては扉を開ければ聞こえたお母さんやおばあちゃんの声、まな板に当たる包丁の音、なにかを沸かしている音。

 今はもう聞こえない音。


 家の中は長い間、人の手がつけられていないせいでホコリが沢山舞っている。

 

 いつかは掃除しなきゃ。


 そんな事を思いながら辺りを見渡しながら家の中を歩いていく。

 すると棚の上に並べられた写真が私の目に映る。


 写真には私とお母さんとおばあちゃんが写っている。

 これは私が誕生日の時の写真だ。


 なつかしい。

 でももう二人はこの世にいない。

 死んだのだ。


 おばあちゃんは命を最後まで使い切り眠りにつきお母さんは病気で死んだ。

 まだ私は最後まで伝えきっていないのに。無責任に私一人を置いて消えていった。

 本当に許せない……。


「あれ、なんで……」


 床にポタポタと水が落ちる。

 私は写真を握って床に座り込んだ。


「どうして……どうして……。まだごめんなさいも言ってないのに。成長した私を見せれてないのに! どうして私を置いていくの! 一人にしないでよ……寂しいよ……」


 それからどれだけの時間泣いたのだろう。

 すべてを忘れ私はただひたすら床に座り込んで泣いていた。


 泣きすぎたせいで目が赤くなってしまった。

 ひとまず手で涙を拭う。


 そして再び三人で映る写真を眺める。


 たまに思ってしまう。

 私はこっちではなくお母さん達がいる方に行けば楽なんじゃないかって。

 楽しいんじゃないかって。


 ごめんなさいを伝えたい。

 膨れ上がり続けるこの想いを私はこれからの長い人生どうすればいいのだろう。

 それが私が過去に犯した罪の罰ならばふさわしいのかもしれないけれど。



 今日も私は罰を背負いながら今を生きる。

 お母さんが笑顔で許してくれるあの日まで。


「掃除しよ」


 写真をポケットにしまって立ち上がった私はそう呟いた。







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