9.囮

 今はちょうど六階層にたどり着きぶらぶらと歩いている。

 階層の作りは他の階層とほぼ同じで特に代わり映えのない場所だ。

 六階層を歩きだして恐らくだが五分ほどが経過した。

 しかし未だに魔物が出てくる気配がない。先に来ていた冒険者にでも一掃されたのだろうか。


 魔物が出てこないので暇になった僕はとりあえずアーブルの時の戦闘についてディアと会話でもすることにした。


「ディアのスキル、強いんだな」

「でしょ〜! 【円型創火クライシス・ブレンネン】はね自動追従してくれるから他のことに意識を向けなくて良くて便利なのよ!」

「戦闘系のスキルってやつか。羨ましいな」

「エトは持ってないの?」

「二個とも戦闘特化とは言えないからなぁ」

「二個も持ってるだけでも凄いよ! 私なんてまだ【円型創火クライシス・ブレンネン】しかないから羨ましい」


 そろそろ肩が痛くなってきた。

 ここの階層に来るまでの間ちょくちょく魔物を狩っては魔石を手に入れていたのだがそれをやりすぎたせいでリュックの中が魔石で埋められていき中々の重量になってしまった。

 完全に失敗した。もう少し計画的に拾うべきだったか。


「なぁ、ここまで来たのにこれを言うのは申し訳ないんだけど一旦ギルドに行かないか?」

「ほんとうにここまで来たのに申し訳ないこと言うのね」

「もうリュックが魔石でいっぱいで重いんだよ」

「それくらいどうにかするのよ!」

「もとはと言えばディアが五階層に行くまでの間、先々進んでいっては魔物を狩ってを繰り返してたからこうなってるんだからな」

「そっ、それは仕方ないでしょ! 私だってステータス上げたいんだから。でも重たいって言うならエトだけ戻ってまた帰って来れば済むでしょ!」

「なに一人でよりステータスあげようとしてんだ」

「いいじゃない! 重いんだったら早く行った行った!」


 僕とディアが言い合っているとどこからか女性の声と何人かの男性の声が聞こえてきた。

 その人物達の会話を聞いている限りいい話ではないことはわかる。


「私達より喧嘩してるね」

「だな」


 この声が一体どこから聞こえてくるのかと気になった僕達は存在がバレないよう息を潜めながら移動した。

 すると近くに何やら大きな扉がありその扉は少しだけ開かれていた。

 開いている部分からは中の様子が確認する事ができる。

 ディアと一緒に中を見てみると二人の男が一人の猫耳のある少女を取り囲んでいた。

 

「可愛い〜ほら、猫人族よ!」

「静かにしないとバレるぞ」


 ディアを静かにさせて改めて彼らの様子を観察し始めた。


「おい、いい加減立てよ。このままだと十階層に行くのに余計時間がかかっちまうだろ。こっちは金を稼ぐためにやってんだよ。これで利益マイナスになったらどうするつもりなんだ? お前の全て差し出せんのか?」

「所詮人間の枠組みを外れた者達ですからしゃーないっすよ。てっかいっそ十階層まで行っちゃいますか?」

「そうだな。これ以上ここでうだうだされても困るからな」


 中の様子を見ているとディアが話しかけてきた。


「あれは囮要員ね」

「囮要員?」

「魔物は強力なものになるほど賢くなっていって獲物が現れるまでは姿を現さなかったりするの。そこで最近悪質パーティーによって編み出された戦法が囮要員。逆らえない者を利用しダンジョン内に一人にする。囮の存在に気付き出てきた魔物が囮を襲いそこを悪質パーティーが狩るっていうね」

「ということはこれからあの子は魔物に襲われて」

「彼らが本当に悪質パーティーかは実際に犯行現場を見なきゃわからないけど会話を聞いている限りではそうかもしれない」

「なら助けないと!」

「エトも聞いたでしょ! 囮を使うとはいえ彼らは少なくとも十階層までは行ける存在。そんな相手に頑張って六階層に来るような私達じゃ到底太刀打ちできない」

「でも……」

「残念だけど私達の命を守る為にはそうするしかないのよ」

「…………ッ」


 なんだろうかこの気持ちは。

 僕はこの少しの期間、悲劇を繰り返さないためにステータスを上げ成長してきた。

 心のどこかでレベル1からでもどうにか出来るってそう思いながら。

 でも、それでもまだ悲劇は繰り返される。

 僕のちっぽけなちからじゃどうすることも出来ない。


 ――――僕にとって今どうすることが最適なんだろう。


「エト! 見てあれ!」

「なんだこれ!?」


 一人の男がよくわからない物を取り出してくるとそれを地面に落とした。

 すると地面に青い線が現れる。その線は二人の男、一人の猫人族の足元で繋がった。

 三人の足元で繋がったあと青い線は僕らのいる扉へ伸びてくる。


 なんでこの線がこっちに来てるんだ!!?


 不自然に伸びる青い線を不思議に思ったのだろう。男たちは僕達のいる扉はずっと見てきていた。

 

 このままだとまずい。僕達の存在がバレてしまう。急いで逃げないと。


 その時僕とディアの足元にも同じ様に青い線が繋がるとその場から動く事ができなくなってしまった。


「!?」


 僕達の足元に線が繋がったと同時に強い光に包まれた。僕は眩しさのあまりに目を瞑りさらには顔を手で覆った。


***


 次に目を開けた時にはまったく違う場所にいた。

 今僕達がいる場所は中々に広い場所であちこちに瓦礫のようなものが崩れた跡がある。さらに少し奥には何か意味ありげな絵が壁に掘られている。


「もしかしてあれってレアアイテムの階層移動?!」

「なんだそれ」

「魔物を倒すとたまに手に入るアイテムよ! これを発動すると発動者が到達した最高階層までの間の好きな階層に移動出来るのよ!」

「へぇ〜結構あったら便利そうだな」

「ちなみに私も一個だけ持ってる」

「おい、最初からそれ使って六階層に来いよ」

「勿体ないじゃん。レアだし!」


 またまた言い合いをしているとあの男達の声が聞こえてきた。

 急いで僕達は存在がバレないように近くの大きな瓦礫に移動して身を隠した。


「ロント、青い線が別のとこにも行ってなかったか」

「確かに見ましたけど」

「誰か居たんじゃないか?」

「ファットさん、気のせいっすよ。どうせ魔物とかですし」

「そうか。それならいいんだが」

「あ、あの!」

「お前は喋るな」


 なぜそれで納得したのかわからないがひとまず僕達の存在がバレていないということがわかって一安心。

 

 このまま隠れていては何もわからないので大きな瓦礫からディアと一緒に少しだけ顔をひょっこりと出して彼らの行動を観察することにした。

 男性たちは猫人族に罵声を浴びせたあとどこかへと姿を消していった。

 どうやらこれから囮の作戦が始まるようだ。


「助けに行くならいまか!」

「そうかも! あいつらもいなくなったし今ならバレずに逃げ帰れるかも!」


 猫人族の少女に声をかけにいくために瓦礫の後ろから立ち上がり向かおうとしたその時、僕達の目には恐ろしいものが写り込んだ。

 猫人族の少女のいるところから少し先に牛の顔をした大きな体でさらには大きな斧を手に持った魔物が向かってきていたのだ。


「早く行かないとまずい!」

「うん!!」


 僕達が猫人族の少女のもとへ走り出した瞬間、その魔物は大きな声で叫びだした。


「モォォォォ!!!!!!!!!!!!」

「だ、誰ですか……」






@@@@@@@

読んでいただきありがとうございます。

もしよろしければいいねや★★★、フォローをお願いします!

今後の励みになりますのでぜひ!


確認はしていますがもし誤字脱字や矛盾などがありましたら遠慮なく指摘してください。

よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る