8.ディアの力
今はいつものダンジョンの四階層まで来ている。
本当は他にもダンジョンがあるのだがまだ僕には行ける気がしないのでまずはこのダンジョンである程度の力を付けてからにしようと思っている。
それとディアと来る途中で色々と話したのだがどうやらディアは今のところ六階層までは行ったことがあるそうだ。
これは正直有り難い。階層の有識者がいるだけでダンジョン攻略の効率は格段に向上するからだ。
なので今回はまず六階層までを目指し出来ればさらに上の階層も目指すこととなった。
「エトは今まで一人でダンジョン行ってたの?」
「まぁ、一応ステータスは上げたかったから。でも残念なことにレベル1のままっていうね」
「そこがよくわからないんだけどレベル1のままってありえるの?」
「それは僕も聞きたい。でもなんか受け入れた方が楽というか。まぁ、そこまで気にしてないからいいんだ」
「普通は気になるとは思うけどね」
「なんでだ?」
「冒険者の中にはレベル1ってだけで馬鹿にする人とかもいるし、そういうの聞いちゃったら気にしちゃわない?」
「レベル1だと相手は油断するだろ? でも実はめちゃくちゃ強いんですとかだったら不意をつけそうだしレベル1でも良くないか?」
「どんだけポジティブなのよ」
全く気にしてはいないとは言いつつもきっと心のどこかを探せばレベルが上がることを望んでいる自分がもしかしたらいるのだろう。
でもそれは限りなくちっぽけでどうやっても認識の出来ない存在に過ぎない。今はステータス上げの方が重要だ。
さてもうダンジョン四階層を歩きだしてから中々の時間が経過した。
そろそろ階段が出てきてもおかしくない頃なのだが見当たらない。
ここは有識者のディアに聞いてみるとしよう。
「まだ五階層に繋がる階段にはつかないのか?」
「階段? 五階層に繋がる階段はないよ?」
「え?」
「え?」
ディアは何を言っているのだろうか。
階段がなければどう次の階層に行けというのだ。もしかしてこの間のように穴から落下して湖に落ちろというのか?
「そうか! エトはちゃんとした行き方で五階層に行ってないんだもんね。ここのダンジョンは五・十・二十・三十、以下略! でボスってのがいるんだけどその階層に行くためには特別なルートを見つけなくちゃ行けないの」
「そんな仕様があったのか。それでその特別なルートってのは?」
「確かここらへんに……」
ディアは両手で壁に触れながら前へと進んでいく。
少しだけ歩いたところでいきなり進む足を止め僕の方を見てきた。
「そうそう、ここ! ここをこうしてやると」
ディアがどれも同じ様に苔の生えた壁の一部を奥に押し込むとガガガッという音を立てて動き出した。
完全に押し切りディアが手を離すと目の前にある壁が奥に動き横にずれる。
そこにはどこかに繋がる一本の暗い道が続いておりさらに先には光が見える。
「ほら、行こ。この先が五階層だから」
「ありがとう」
僕とディアはその道を進んでいく。
ここで疑問に思ったことがある。
ただの一本道で階段なんてものはどこにも見当たらない。
このままではただの四階層なのではと。
しかしその疑問はすぐに払拭されることになった。
道の終わりまで来たところでディアが僕に止まるように言う。
「ちょっと高いから気をつけてね」
「高い?」
僕はディアよりも前に出るとその言葉の意味を理解した。
そこには前回と同様の光景が広がっており何の変哲もない階層だ。
しかしそこに行くのに一つ問題があった。
この道の終わりから地面までは五メートル、いやもしかしたらそれ以上あるかもしれない。
それを飛び降りなければならない。なぜ毎回飛び降りる羽目になるのだろう。
「ねぇ、先に降りてよ。落ち慣れてるでしょ」
「落ち慣れてるってなんだ」
「前はこれより高いところから落ちたんだし平気平気」
「わかったよ。先に降りる」
僕は変な降り方をして足を捻らないよう細心の注意を払いながら道の終わりから飛び降りた。
足にじーんという衝撃が一瞬だけ来たがすぐに止んだ。
そして次にディアがまだ僕が下にいるというのに飛び降りてきた。
僕を先に降ろした、そしてまだ真下にいるのに飛び降りる、これはそういうことなのだろうか?
「!?」
僕は上から降りてくるディアを上手く両腕で受け止めて体の正面で抱きかかえた状態になった。
受け止めてあげた僕に対してディアはなんとも言えない表情をしてこちらを見てくる。
「何してるの?」
「受け止めてる」
「だからなんで」
「これって受け止めて欲しかったんじゃないのか」
「ち、違うから! 早く降ろして」
いきなり暴れだすので言われたとおりに僕はディアをゆっくり地面に降ろした。
そして僕達は辺りを見渡した。
嫌というほど覚えている光景。でもここに落ちたからこそ何かが変わった気もする。
そういう意味では僕の原点なのかもしれない。
でもそれでも嫌ではあるけど。
そして奥にはあのアーブルがいた。
ダンジョンのボスは倒しても復活するのか。それもそうか。一度倒されてもう二度と生成されなくなったら以降来る人が可哀想で仕方がない。
「私あの魔物嫌いなのよ。前回はなんとか倒せたけど枝がうにょうにょ〜って。凄くうざい」
「確かにな。僕もどれだけあれにいじめられたことか……」
「新米冒険者にとってここは最初の鬼門よね。でも今の私には仲間がいる! だからなんとかなるよね! うん!」
「なんとかなればいいけどな」
「じゃあ! ここはエトの信用を勝ち取るためにも最初は私が行くね」
そう言うとディアはアーブルの方に向かって歩きながら腰辺りにつけていた短剣を鞘から取りだした。
「さぁ! かかってきなさい、うにょうにょ! 私が倒してあげる!!」
アーブルはディアの言葉に答えるように枝を不規則に動かしディアの方へ接近していく。
ディアは走りながら枝を短剣で弾き返したり斬り落としたりしている。
アーブルはそんなディアにさらに畳み掛けるように枝を増やし攻撃をしかける。
「もう〜!! やっぱりめんどくさい! このうにょうにょ!!」
文句を言っているディアだが戦いをやめるということはせずさらにアーブルの本体へと着実に近づいていく。
だがアーブルも負けじと枝で応戦してくるのでディアは本体に近づいたり遠ざかったりを繰り返し戦況を変えることは出来ていなかった。
しかしその時ディアが少しアーブルから離れ何かをし始める。
「うにょうにょ! もう一度見せてあげるからよーく見てるのよ!【
あれがディアのスキル……。
スキルを発動したディアの背後には円を描くように十個の炎が浮いている。
ディアはその状態でアーブルに向かって走っていく。
これまでと同じ様にアーブルはディアに向かって枝を向かわせた時それに対してディアの背後で燃えていた一つの炎が枝に向かって飛んでいった。
すると炎は枝にぶつかると爆発を起こし枝を燃やし尽くした。
枝が来なくなったことによりディアは安全にアーブル本体まで一直線に向かっていけるようになりどんどん進んでいく。
だがアーブルもそう簡単には諦めず新たな枝を五本生成し一斉に立ち向かってくるディアに対して向かわせる。
余裕そうにしているディアは背後に浮いている残り九個の炎のうち五個を枝に向かって放つ。
炎はディアに枝が近づくよりも先にぶつかり爆発を起こし枝の行動を不能にさせた。
「これでおしまいよ!!!!!!!」
走っているディアは残りの残弾四個をアーブルの本体めがけて放つ。
放たれた炎は爆発を起こしアーブルに大ダメージを与えた。そしてディアは短剣を振りアーブルにとどめを刺した。
「おぉ〜!!!」
僕はあいつに一度死を感じさせられたのにそれをこうも簡単に倒されるとなんだか複雑な気持ちになる。
「早くこっち来て!」
「わかった」
ディアはアーブルの魔石を持った状態で僕に手を振ってそう言った。
魔石を回収するために僕は小走りでディアの元へ向かった。
「よし、五階層のボスを倒したし六階層に行くとするか」
「いいけど気をつけてね。六階層はさらに強くなるから」
僕達が一歩前に足を踏み出すとアーブルがいた後ろの壁が横に動き始め通路が現れる。
その通路は下に繋がる階段があり、あれで六階層に行くのだろう。
緊張もするが強くなるために通らなければならない道。
僕は覚悟を決めてディアと一緒に階段へと歩き出した。
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